過去の話とあったかもしれない幸せな未来⑤
息も絶え絶えにリサの家に辿り着く。
「アシル!突然どうしたの!?びっくりしたじゃん!しかもこれは何?」
脇に抱えられた謎の機械を指差すリサ。
「これは、映写機だ。魔法石の力を変換して音や映像を魔法石に封じ込めたり、封じ込めた音や映像を開放する魔道具だ。」
「そんなのもあるの!?すごい!」
「もしかしたらその魔法石は何か『入ってる』かもしれない。」
「え?ほんと?」
「いや、でも見当違いで入ってないかもしれない。それでも試してみたいんだ。いいか?」
「ど、どうなんだろう。でも何か入ってる可能性があるなら気になるな。お願いしていい?」
突然の申し出にリサは戸惑いながらも承諾してくれた。
俺はリサに断りを入れて魔法石を映写機にはめる。ピッタリだった。
そして映写のボタンを押す。
すると魔法石から浮かび上がるように両親の姿が現れた。
『もしもーし、リサちゃん聞こえる?』
『ははは、これはそういうもんじゃないぞ。』
『あ、そうか。恥ずかしいことしちゃった。』
先程まで冷たくなり土に埋められたリサんl両親が楽しそうに会話をしている。
「お母さん…お父さん…」
突然映し出された両親に驚きと嬉しさが隠せないリサ。
『リサ、15歳の誕生日おめでとう!リサも立派な女性だな!』
『リサ、おめでとう。素敵な女性になったわね。』
『驚いただろ。最近の魔道具はすごいな!こんなことができるんだからお父さんびっくりだよ。』
『ちょっとあなた、リサへのバースデーメッセージなんだから感想とかやめてよ』
『ははは!すまないすまない。』
どうやら魔法石に入れられていたのはリサの15歳のサプライズバースデープレゼントだったようだ。
両親の他愛もない会話が懐かしく涙が止まらないリサ。
少しの間そのやりとりが行われたが、急に画像が荒くなりノイズも多く聞こえる。そして画像は消え声だけになった。
『リサ、ごめんなさいね。きっとこれを聞いてる時にはお母さんもお父さんも亡くなっていることでしょう。』
母親のトーンが先程と変わり、深刻そうな声だった。
『今崩落事故がありました。残された時間は少ないので短い話になってしまいます。最後なのにごめんね。』
『リサ、父さんと母さんはリサの親になれて本当に嬉しかった。』
『本当はあなたの花嫁姿も見たかった。』
『私たちがこんな形でいなくなってしまってごめんなさい。』
『でもリサにはいつも笑顔でいてもらいたい。ずっと幸せになってもらいたい。』
『今は悲しいかもしれない。でも前を向いて。』
『笑顔がとびきり可愛い私たちのリサ。』
『リサ、お父さんとお母さんはリサを愛してるよ。』
『いつでも側にいます。元気でね。』
最後の言葉を流すと魔法石はパキっと音を立てて割れ、それ以上何も流さなかった。
リサの顔からは大粒の涙がボロボロと溢れている。
「リサ」
どう声をかけていいか悩み、名前を呼ぶ。
「アシル…」
「お前は愛されてたんだな。」
「うん」
「いい両親だな」
「うん」
「よかったな。」
「うん」
最後の言葉が返ってきたと同時にリサを強く抱きしめた。
葬儀の時とは違い、悲しいだけではない涙を流しながら2人で大泣きした。