ルーゼット視点 2
閑話休題1 ~いつかの記憶~
苦しい……
苦しい……
苦しい……
どうして? ……分からない
何が? ……分からない
どうしたらいいの? ……分からない
……分からないけれど、光があるの……
一つだけ、ぽっかりと……だからそこに行くわ……
動かない足を動かすの
ピクリともしない手を広げるの
空かない目を空けるのよ
だって光は感じるから
この肌に、体に、しっかりと光は感じるから
だから私は絶対に諦めない
……………
ホギャアァァァァ
ほらね、声が出た
「先生、ルドベキア、ルドベキアでは駄目?」
「そうですねぇ、花冠にはちょっと大きいでしょうか」
「じゃあ、花冠にはタンポポで。ルドベキアは花冠を大きめにして腰にまきます」
「あはは、腰ですか」
「そう、剣をさすのよ。リクルは騎士になりたいって言っていたもの。本当は(騎士道)の花言葉を持つトリカブトが良かったのだけれど、ちょっと無理そうだから(正義・公正)を意味するルドベキアで。タンポポは(幸福)なので、リクルの夢が叶って幸せになりますようにって」
「……本当に、あなたは……」
ユーリック公爵家自慢の庭園。
色とりどりに溢れる華やかな花々。
美しい銀髪に風がなびく。
大人へと変貌するには少し早い、華奢な手足に女性らしい丸みを帯びつつある肢体の少女と会話をしていた男性は、白金の美しい長髪を揺らしながらゆっくりと膝を折り、少女の腰に手を回す。
まるで少女に許しを請うようなその男性は、妹の家庭教師アーノック・フリーバー(二十歳)。
そして腰に腕を撒きつかれて信じられない距離で顔を見つめられているのは、どう見たって妹のリリ(十歳)だ。
バキッ!
僕は余りの衝撃に柵を一つ壊す。
「あ~あ、修復不可能。新しいのに変えなきゃな」
バキバキッ!
そうして無事な部分の柵も壊す。
だってあり得ないだろう。
僕は一人で帰って来たんだ。弟のリクルの誕生日会に間に合うように。それなのに何で僕の後ろに幼馴染が全員集合しているんだ。
そうして状況がつかめず固まっている僕にレオンが声をかける。
「……おい、あの男。なんかやばくないか」
その言葉に弾かれたように視線を元に戻すと、先程より近くなった二人の顔。
「リリ‼」
思わず叫んだ僕の声に振り返った妹は、十歳とは思えない発育のいい体と天使の微笑で……。
「お兄様♡」
あ、見つかっちゃた。
僕だけの、僕の家族だけの天使は、こうして皆に見つかってしまいました。