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冗談ですよね?

 ヘレナとレイは居住まいを正し、改めてニックと向き合う。ニックはコホンと咳ばらいをしつつ、恭しく頭を下げた。



「ご事情は分かりました。経緯については色々と思う所はございますが、レイモンド様が納得されているならば、僕は何も申し上げません。

けれど、これから如何しますか? レイモンド様が生きていらっしゃることを知ったら、陛下はきっとお会いになりたがるでしょう。僕としても是非、城に戻って来ていただきたいのですが……」



 ニックがレイの顔を覗き込みつつ、そう口にする。



「いいえ……冒頭にも申し上げました通り、今の私は『レイモンド』ではございません。お嬢様の執事『レイ』です。

ですから私は、陛下にお目にかかるつもりも、城に戻るつもりもございません」



 そう言ってレイは首を横に振り、穏やかに目を細めた。



「レイ……本当にそれで良いの?」



 尋ねつつ、ヘレナは唇を尖らせる。ヘレナに気を遣っているのではないか、本心を話せないだけなのではないかと思ったのだ。



「もちろんです。私の望みはお嬢様の側に居ることですから。

第一、追放されてすぐならまだしも、大人になってからは幾らでも連絡の取りようはあったのです。けれど、私はそうしませんでした。自分の意志で『レイ』であることを選んだのです」


「……そっか」



 レイの言葉に、ヘレナはこっそりと胸を撫でおろす。

 もしもレイが本来の身分、ストラスベストの第二王子に戻ったら、平民であるヘレナと共に生きることは難しくなる。レイに『側に居て欲しい』という気持ちと、『本来の身分を取り戻してほしい』という想いが密かにせめぎ合っていたのだが、レイの気持ちは決まっているようだ。



「ですがレイモンド様、あの頃と今とでは状況が異なります。イーサン様はご病気で、下手をすれば王室の血が途絶えてしまう可能性もあるんですよ?」



 ニックは先程までと打って変わった真剣な表情で、そう口にする。



「兄上がご病気?」


「はい……あっ! これ、超極秘情報なんで、他言無用でお願いしますね。じゃないと僕の首が物理的に飛んでしまいますから!」



 ニックは人差し指を立て、しーーっと口にする。口では「すみません」と言っているが、顔は全然悪びれていない。ヘレナは呆然としながら、レイとニックを交互に見遣った。



「……それこそ、あなたがそんな風に口を滑らさなければ、私の存在はこれまで通り――――生死不明、行方不明のままです。それで血が途絶えるなら、それまで。元々そういう運命だったのでしょう。

分かったら私のことは諦めてください」



 レイはそう言ってニコリと笑った。ニックは泣き出しそうな表情をしつつ、レイの元へ詰め寄る。



「そんな冷たいこと仰らないでくださいよ~~! 大体レイモンド様の方がずっとずっと優秀な王子だったじゃありませんか? 戻ってきて――――」


「それより、どうして近衛騎士のあなたがこんな辺境に? 用事もなく来るような場所じゃ無いでしょう?」



 レイがサラリと話題を切り替えると、喋りたがりのニックは瞳を輝かせ、嬉しそうな笑みを浮かべた。



「それなんですけどね! 実は最近、隣国のカルロス殿下がどうにもきな臭い動きをしているらしいと、諜報員から情報が入ったんです。

隣国は今、カルロス殿下が追放した聖女を探しているんですが、どこを探しても見つからないらしくて。おまけに、その聖女のことを我が国が隠し立てしていると勘違いしていて、カルロス殿下はそれを理由にストラスベストの侵略を画策しているらしいんです」


「…………へ?」



 驚いたのはヘレナだった。目を丸くし、大きく首を傾げて、ニックのことをまじまじと見つめる。



「冗談、ですよね?」


「冗談だったら、わざわざこんな所に出向きません。

カルロス殿下は今夜にも数人の騎士を連れて、この街を下見に来るようです。

なんでも隣国は、聖女が居なくなったことで王都が大変なことになっているらしくて。早く連れ帰らないと、かなりやばい状況らしいですよ?

そのきっかけを作ったのがカルロス殿下なもんだから、あちらの国王は相当お怒りみたいで。廃嫡はもちろん、どんな処罰が待っているか分からないらしいんです。

だから、名誉挽回のために手柄を立てたいんだろうなぁと」


「…………馬鹿ですね」



 そう口にしたのはレイだった。盛大なため息を吐きつつ、眉間に皺を寄せている。



「元々あちらとストラスベストの兵力の差は明らかですし、国が大変な状況なのに、そんなことに人手を割けるわけがありません。国王が許可するとも思えませんが、あの馬鹿王子なら勝手に兵を動かしかねないですね。

因みに、あちらは今、どういう状況なのですか?」


「えっ? えーーと確か、聖女が居なくなるとともに大きな地震が起きて、怪我人と病人が多発して、何故だか植物の育ちも悪くなって、このままじゃ飢饉が起こるとかなんとか……」


「そんな――――――!」



 ヘレナは思わず声を上げる。顔色が真っ青に変わっていた。レイはヘレナの背を擦ってやりつつ、ニックのことを見る。



「カルロス殿下は本当に、今夜この街に来るのですか?」


「えぇ、諜報員の情報が正しければそうなります。僕の役割は、カルロス殿下の見張りってやつですね。もしも今夜変な動きをするようなら、容赦なく切り捨てますけど!

……本当は事前に件の聖女を見つけられたら良かったんですけどね。隣国が困っているのは事実でしょうし、戦争も回避できる。おまけに盛大に恩を売れますから」



 ニックはそう言って小さくため息を吐く。ヘレナは目をぱちくりさせると、そっと右手を上にあげた。



「あの……実はわたしが、件の聖女なんですけど…………」



「えっ…………えぇえ⁉」



 驚愕に目を見開くニックに、ヘレナは小さくため息を吐いた。

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