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プロローグ -桜色-
...ピピピ...ピピピ...
聞き飽きた朝の電子音に導かれて五感が帰還する。まだ曇りの晴れない視界に、なんとか針と数字を捉えると、僕の前頭葉は10GB超えで全神経との通信を開始する。
7時50分。
まずい。
考えるよりも先に身体が動いていたんだ、なんて格好良い言い回しが似合うような状況ではないけれど、言葉で表現するとしたらこれが的確であろう。
身につけているもの以外はすべて、4分前と同じままで自転車に飛び乗ると、全力でペダルを踏みつける。
僕の進撃を受けて力なくくすんでゆく地面を裏切って、そよ風に舞う桜色の眩しい季節。あの時は考えもしなかったんだ。そんな素敵なシチュエーションで、僕と、僕の視界の中で何よりも輝く君は、最高で最悪な出会いを果たすことになるなんて。