兄妹と恋人の間
「なぁ」
壮司に呼びかけられ、読書の手を休めて顔を上げる。
隣いる壮司はなにやら書類を広げて見ていた。
「俺、古賀家の養子になってんだけど……」
壮司がどこかほうけたようにつぶやいた。彼の口から出てきた思いもよらない言葉に驚く。体を寄せて、巴もその書類をのぞきこんだ。
いつのまにとりよせたのか、それは戸籍謄本だった。続柄には『養子』、養親のところには父の名前が記されていた。
「……いや、普通に考えればわかることなんだけどよ。一言相談くらい欲しかったつうか……」
壮司はまだ未成年だ。両親ともに存在しない彼には保護者が必要だ。
壮司はもともと古賀家の養子のようなものだった。それが彼の母親の死をきっかけに本当の養子になっただけのことだ。
ただそれだけのことだが、それだけが結構大きい。祖母は壮司に何の相談もなく、養子縁組みをやってのけてしまったのだ。
「お前と私はいつのまにか兄妹になっていたのだな」
壮司がショックを受けているそばで、巴はなんだかおかしくなってしまった。こんな生まじめで融通のきかない兄はほしくない。
「俺が兄貴か……なんか複雑だな」
壮司が八月、巴が一月生まれなので、自然とそういうことになる。自分が妹とはなんとも気に食わない。
ちょっとした腹いせにあぐらをかいた壮司の膝に手をのせ、顔を近づけた。
「妹に手を出すなんて悪いお兄さまだよなぁ」
意地悪く微笑んでもう片方の手を壮司の肩に置く。身を乗り出した巴に、壮司は微妙に視線をそらした。
「……兄貴を誘惑する妹の方がよっぽどタチわりい」
と言いつつも、壮司は素直に応じる。さらに距離が近くなる。
「せいぜい妹を可愛がってくれよ? お兄さま」
残された距離をつめ、唇を重ねた。