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01 カルテット

 小隊の四人が揃って最初の朝。


「四人揃った事だし、何か適当なクエストこなそうぜ」


 イオのその提案に、三人は迷うことなく頷いた。

 ヒルダはお嬢様の部屋を掃除しますと言って席を外している。

 まあ、彼女は小隊のメンバーではないので今はいなくても問題ないだろう。

 

「基本は俺とエレナが前衛。イオが後衛。ウェンディがその中間で支援、かな」

「うむ。任せておけ!」


 ウェンディが胸を叩いて請け負う。

 彼女の聖剣ならば、周囲ににらみを利かせてくれるだろう。

 

「私は変わらず遊撃ですか?」

「んでいいと思うぜ? 人数増えても基本的にやる事は変わらないだろうし」


 四人で意見を出し合ってフォーメーションを決めていく姿を見てマリアが満足げに頷く。

 

『うんうん。行き当たりばったりじゃなくなったのは良い事だわ』


 イオと最初のクエストで全滅しかけた時に比べれば大きな進歩である。

 

「後は何を倒すか、だな」

「ウェンディ居るし、水場の側の方が良くね?」

「この前のワニ型の時にウェンディさん居れば楽でしたね」

「うむ……しかし水のありそうなクエストは無いな」


 パッと見たところ、それらしき物は無かった。

 あるのは何時もの野犬やらよく見るロックボアの討伐やら。行方不明者の捜索やら。

 そうなるとウェンディの攻撃力には枷が嵌められることになる。

 持ち込めるだけの水の量と言うのは限られるのだ。

 

「水筒一本でどれくらい戦えるんだ?」

「並の魔獣ならそれだけで数体は倒せるぞ! この前みたいなアイツは別だが」

「ああ、あいつな……」


 四人が全員、フェザーンの姿を思い出す。追い詰めたが逃げられてしまった相手だ。

 

 相手はまだまだ余裕がある様だった。その余裕に付け込んでどうにか撃退できたわけだが――。

 また戦う事があるのだろうか。

 

「っていうかアイツは本当に何だったんだよ。魔族だとかその辺学院に聞いても教えてくれないしさ!」

「でも、こういってましたよね。知らないじゃなくて――」

「教えられない」


 つまりは、まだオルガ達はその知識を得る事が許されていないという事だ。

 

「図書館も閲覧可能な書籍に制限があるんだよな」


 オルガがそう言うとイオが意外そうな目を向けてくる。

 

「お前図書館とか行くのかよ」

「行くよ。何でそんな意外そうな顔してんだお前」

「いや、意外だっての。読書とかするタイプじゃねえだろお前」

「調べ物だっての」


 二人でそうやり合っていると、ウェンディが思い出したように手を打ち合わせた。

 

「そう言えばオルガ。あの時アイツが魔獣化した人だって見破ってたな」

「そうだ。とっとと吐けオルガ。昔見たことあるってどこで見たんだよあんなの」

「そのまま忘れておけよ……」

「まあまあ。そう言わずに。話してみてください」

『私も気になるわね。私が言う前から気付いてたわよね? そんな話どこで知ったのかしら』


 四人からの追及にオルガは溜息を一つ。


「昔、ちょっと殺されそうになった」


 オルガがスラムに住んでいた頃の二つの事件。その内の一つがこれだ。

 スラムに潜伏していた人型魔獣――魔族による連続行方不明事件。

 その被害者の一人にオルガもなりかけたというだけ。それだけの話だ。

 

「昔って言うと……」


 イオがオルガの生まれを思い出して言葉を濁した。

 それを引き継ぐ様にオルガは軽い調子で告げる。

 

「スラム育ちなんだよ。俺は」

「む」

「えっと」


 余りに軽い調子で告げられた出自に、ウェンディとエレナが戸惑う。

 

「聞いてくれよ。コイツ、その時の幼馴染に惚れられてたからって自分はモテモテだと思ってたんだぜ?」


 そんな空気を払しょくするかのようにイオが冗談めかしてそう言うのでオルガも乗っかった。

 

「まだ二分の一だ。モテないと決めるのは早い」

「いやいや。寧ろその一が奇跡的な確率だって気付けよ」

「うむ? 私はオルガの事好きだぞ」


 良く分かっていない顔でウェンディがそう言う。それを聞いてオルガが少しばかり得意げな顔をした。


「ほら。三分の二。お前が少数派だぞ」

「エレナ! エレナはどっちだ!」


 まさかの解答にイオが焦ったように残る一人へ尋ねる。


「え? ええと……ええと。嫌いじゃないですよ?」

「四分の三だな」

「馬鹿かよお前。嫌いじゃないって事は好きでもないって事だよ。四分の二……つまり変わらず半々だ」


 しばしオルガとイオとでその判定について話していたが、途中で盛大に脱線している事にイオが気付いた。

 

「スラムの連続行方不明事件って言えば実家の辺りでも少し話題になったぞ」

「ええ……人型魔獣が関わっているとは知りませんでしたが」

「私はそれ自体が初耳だ!」


 ウェンディは一人知らないと言い放つが、まあ寧ろ知っているイオとエレナの方が珍しい。

 スラムでの出来事何て一々意識を払わないだろう。

 

「……ちなみに、その事件の事も図書館で調べたけど、二年以上にならないと貸し出し不可の書架にあった」

「やっぱ情報制限されてるよな」

「ですね。一年と二年の間に明確な壁があります」

「うむ? でも先生に聞けば色々と教えてくれるぞ」

「まあな」


 オルガ達も、魔獣の生態を調べるのに何度か聞き込んだことは有る。

 そう考えると規制されているのは魔族に関する事だけなのだろうか。と言うかその聞かなければ教えてくれない事をもっと広く講義すべきではと思わないでもない。

 

「まあ普段噂すら聞かないって事は早々会う事も無い奴なんだろう」


 とオルガが結論付けた。事実、偶然遭遇したオルガを除いて他の三人はその存在を知りもしなかった。

 ウェンディだけはヒルダから聞いていた様だったが……まあ彼女は例外と見るべきだろう。

 ならば遭遇数は少ないと見るべきだろう。

 

 ――噂が立たない程、徹底的に目撃者が消されているのならば話は別だが。

 

「取り合えず俺が知ってるのはそれくらいだ。人から稀に魔獣になる奴が居るって事」

「後は二年になった時に調べるしかねえか」

「うむ! その為にもまずはクエスト、だな!」


 その日は取り合えず水場の近いクエストが見当たらなかったので解散とした。

 流石にサバイバル試験が終わったばかりで疲れが残っている。

 

 散り散りになって一人になるとオルガはマリアへ向き直った。

 どことなく何時もよりも色が薄い気がする彼女へ。

 

「それでお前は調子どうなんだよ」

オルガは基本的にハードラックとダンスってる奴です。

巻き込まれ率も高い。巻き込まれにも行く!

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― 新着の感想 ―
[一言] マリアはやられる毎に存在が薄くなるのか?
[一言] マリア、大丈夫か? まだ本調子じゃないだけなのか、それとも……
[気になる点] いや、現状女しかいないのにモテてないは 流石に周りからは見えんやろ。 要らん恨みを買ってるのはこの間の覗き事件で確定してるしw [一言] 色が薄い……つまり次は無いのか。
2020/12/12 13:23 退会済み
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