43 四人目
どういう事だろう、とオルガはマリアに相談したくなった。
ヒルダはお役御免という事だろうか。そんな引き抜き的な事はしたくなかったのだが……。
「あーウェンディ。小隊の定員って知ってるか?」
「う、うむ。四人だ!」
知ってるのか。
「ほら、オルガ。さっさと頷けって」
「そうですよ。ちゃんとウェンディさんは勝負に勝ったんですから」
やっぱりこいつ等買収されてる。
それはさておいて。
「そのな、ウェンディ。ヒルダさんはどうするんだ?」
「は?」
「え?」
「うむ?」
「……」
四者それぞれの反応にオルガは気圧される。何を言っているんだこいつはと言う視線が突き刺さる。
「私は変わらず、お嬢様にお仕えさせて頂くつもりですが……?」
「あ、分かったぞオルガ。お前メイドさんをこき使いたいんだな?」
「そうなんですか?」
「む……いや、ヒルダは私のメイドだから貸すわけには……」
何故、自分がメイドを侍らせたいという話になったのだろう。マリアでもあるまいし。
そうではなく。
「違うわ。てめえ、イオ。そんな事言ってると隊長権限で隊員全員メイド服にさせんぞ」
「隊長にそんな権限はねえ」
「と言うかそれ、オルガさんも着るんですか」
話が盛大に逸れつつあるオルガは強引に方向を戻す。
どうして誰も何も気にしないのかと言う疑問と――もしかして自分はとんでもない勘違いをしているのではないかと言う悪寒。
もしかして。
「ウェンディとヒルダさんは小隊、じゃないのか?」
「オルガ。メイドさんだぞ? 何で聖騎士候補生だって思うんだよ」
いや、それはそうなんだが。とオルガも心の中で同意する。
何でそう思ったかと言えばそれは――。
「だってヒルダさん聖剣持ってるだろ」
その事実。ただ一点のみだ。聖剣を持っているから聖騎士候補生。そう思っていた。
その言葉にイオとエレナは疑問符を浮かべていたが、ウェンディとヒルダは違う。
ウェンディは感心した様な目を向けているし、ヒルダは。
「……オルガ様はどこでそれを?」
目を細めて、オルガの瞳を見つめてくる。
そこに確かな圧を感じながらもオルガは答えた。
「な、何となくそんな雰囲気を感じて……勘?」
俺に憑りついている幽霊が教えてくれました。何て言えない。
現状幽霊なんてものが証明できない以上疑われるのは発言だけではなく頭もセットだ。
「……一先ずそれについてはオルガ様の誤解です。私は聖騎士候補生ではありません」
「ほら。お前の勘違いだったんだよ」
「そう、だな」
イオはオルガの勘違いだと結論付けた様だったがオルガとしては一つの可能性に気付いてしまった。
もしもヒルダの言葉が正しいのだとしたら――聖剣を持ちながら聖騎士候補生でないというのならば。
それは正規の聖騎士という事だ。
そして聖騎士を仕えさせているウェンディ。聖騎士は国に仕える騎士。つまりは――。
いや、考えすぎだろうとオルガはそれ以上思考を回すのを止めた。こんなのがまさかそんな訳は。
それよりも先ほどからオルガの返事を待っているウェンディをこれ以上保留にするのは可哀そうだ。
答えなど最初から決まっている。寧ろ戦力的な意味合いでもウェンディはオルガ達の小隊に欠けていたピースを埋めてくれる。
まず動くというバイタリティは心配ではある。だがしかし客観的に見ればオルガも大差ない。
近くで見ていれば止められるだろう。イオかエレナが。
「よろしくな。ウェンディ」
「うむ! よろしくだ、オルガ!」
輝くような笑顔を浮かべながらウェンディがオルガの手を握って上下に振る。ちょっと痛い。
「ったく、オルガの変な勘違いのせいでオレ達まで気を揉んだぜ」
「そうですね。余程根に持っているのかと」
「……そうなのか?」
そんな素振りは微塵も見せなかったのでオルガとしては疑義を申し立てたい気分だ。
いや、確かに良く考えれば買収されてるんじゃないかと思う事は何度かあったが、アレだろうか。
「だってウェンディとか今時一人で居る数少ない候補生だぜ?」
「能力的にも人格的にもそれほど問題なく、うちの隊に欲しい人材でしたし。勧誘の素振りも見せないので余程あの誤解を根に持っているのかと」
「でも仲は良さそうだし、能力に疑問でもあるのかなとか。それとも賠償終わるまではそのままにするつもりなのかなとか」
そう言われて納得した。確かに。後からそうだったと言われたらそんな素振りらしきものは見せていたなと。
「すまん、俺の勘違いだったみたいだ」
聖剣持っているメイドの存在は流石に想定していない。だが取り合えず。
「これで四人。うちの小隊もやっとフルメンバーだな」
そこにメイド一名。幽霊一名。オルガからすると六人と言う大所帯だ。
「これで隊全体の評価点も底上げされたし、中型魔獣とか危険なクエストも行けるぜ!」
「今回みたいにマイナスもあり得るテストがあるのを考えると、進級に必要な評価点よりもマージンを持たせたいですね」
「うむ! 中型魔獣の討伐なら経験があるから足は引っ張らないぞ!」
三人寄れば姦しいというが。どうやらそれはうちの小隊にも当てはまるらしい。
イオ、エレナ、ウェンディがワイワイと次何をするか話し合い始める。
隊長は自分なんだけどな……と思いつつも、まあどうせジャンケンで負けたから座った様な物だから良いかと気にしない事にした。
こちらの話が一段落ついて気になるのはマリアだ。
ついさっきも確認してしまったが、今も姿を現さない。
「そうだ。オルガ様」
「はい?」
ヒルダに手招きされて、オルガは彼女の方へ歩み寄る。
少し三人娘から離れた所でヒルダはオルガの耳元に口を寄せた。
「先ほどの勘……大事にしてください。何時か、貴方を助けますよ。きっと」
そう言ってヒルダはウェンディの背後。何時も姿が見える時には居るポジションに戻っていく。
間違っていたのならばそんな勘は気にするなと言うだろう。それを大事にしろという事はやはり。
……深くは考えまい。
一先ずサバイバル試験は終わったのだ。
後は、マリアが戻ってきてくれたらオルガとしては全て元通りと言えるのだが――。
「早く、帰って来いよ」
その姿が見えないだけでこんなに静かに感じるのは流石に予想外だった。
予定調和。それはそれとして、オルガは考える事をやめた。真面目に考えると恐ろしい事実に……