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38 仲間

「良いわね。貴女。この状況に迷わず飛び込んでこれるなんて素晴らしいわよ」


 エレナはその言葉に答えず。力任せにフェザーンの爪を弾き飛ばす。

 そして。

 

 エレナが<オンダルシア>を構えた。自分の身体で刀身を陰にするように、下段に構えて姿勢を低くする。

 

「聖剣<オンダルシア>よ」

「<オンダルシア>! 災浄大業物が一振り! これは大物ね!」


 フェザーンが歓喜の声を挙げた。災浄大業物の名は有名だ。それ故に、知っていてもおかしくは無い。

 

「悪鬼を斬る剣をここに。我が身が汝の心金」

「そして聖刃化……良いわよ貴女。とってもいい! 前の持ち主と比べてどれだけ使えてるか……採点してあげる!」

「我、この身を一振りの聖刃となす!」


 白い羽衣がエレナの肩にかかる。

 彼女に過剰な守りは必要ない。その再生能力がどんな傷も一瞬で癒す。

 普段は他者の回復を行うために扱わない聖刃化。それを使わなければ戦いにならないとエレナは判断したのだ。

 

 そして弾かれた様に前へ出る。

 

 積極的な近接戦。被弾する事を恐れずに前へ。

 エレナが聖剣を一振りする度にその身体へ二つ傷が刻まれる。

 一瞬表情を歪めながらも、エレナは護りに入らない。

 

「あははは! 大した物ね! 随分と剣に気に入られてるというべきかしら!」


 一瞬で傷を癒す再生能力にフェザーンは歓喜する。

 

「前に戦った聖騎士は、痛みに耐え切れなかったけど……アナタはどうかしら?」


 エレナの全身から血が噴き出る。一瞬で切り刻まれたのだ。

 だが次の瞬間には己が生み出した血煙の中から涙を堪えながらエレナが飛び出してきた。

 腐敗の刃が突き立てられる――が、腐らない。どころか刃が通ってすらいない。

 強靭な毛皮が<オンダルシア>の刃を防いでいた。

 

 オルガはそれを見て援護しようと足を前に出す。――先ほどエレナが剣を構えた時に、さりげなく治療を施していった。動く。

 

「オルガ!」

「イオまで! どうして」

「どうしても何も、お前一人で突っ込みやがって……後で説教だかんな。で、アイツ誰だよ」

「魔獣だ」


 尤もな疑問に、シンプルな解答。


「よし。後でじっくり聞く。ウェンディ! 水、これだけあれば足りるか?」

「うむ! 助かったぞ友よ!」


 水を持てるだけ持っていたのがこの場では吉と出た。

 水場その物と比べれば微々たるものだが十分な量の水を確保してウェンディも戦線に復帰する。

 

「不発の救援信号上がったのを見て来たけど大正解だったな」

「……ああ、あれ不発だったのか」


 途中で完全に破壊されたからか。不発とは言え上がっただけマシと考えるべきか。

 

「イオ、ヒルダを見なかったか?」

「メイドさん? 見てないぞ」

「むう……やはり我らで何とかするしかないか」


 そう言えば、初日以外見かけない謎めいた灰色のメイドを思い出す。戦力は少しでもほしい今、ふらっと現れない物だろうか。

 

「エレナが今は時間を稼いでる……オルガ。アイツの情報教えてくれ」

「アホみたいに高い身体能力……多分それだけだ」


 その根拠となるのはマリアの言葉だ。

 有獣種。そう言った。その特徴は高い身体能力だと。

 他に注意すべきことがあるなら言う時間はあった。だがマリアが真っ先に伝えたのはそれだ。

 

 抜けている所の多い師匠だが、戦闘に関してミスは無い。ならば最大の注意点こそがそこだろう。

 

「まともに足で勝負してたらあっさり振り切られる。それと、守りも硬い。あの毛皮の部分は相当に」


 何しろ鏡面・波紋斬りさえ弾かれた。

 掠めただけとはいえ、並みの魔獣ならそれだけで仕留められる。だが霊力の振動波を以てしても切り裂けなかったのだ。

 

「オッケー。後は殴られたら死ぬと。十分だ」


 隙の無い相手だ。

 

「弱点らしい弱点が無いな」


 そう思っているとイオはあっさりと言う。

 

「何言ってるんだ。あるじゃねえか」


 とそう言いながらイオは自分とウェンディを指差す。

 

「アイツ結局殴る蹴るしかできないんだろ? だったらオレとウェンディが遠距離攻撃で仕留める。それで行けるだろ?」

「おお! アレだな!」

「おう、アレだ!」


 アレって何だ。気になるが聞く時間が無い。


 イオの作戦を聞いてオルガはエレナを援護すべく飛び出す。

 

(オルガはエレナと一緒に足止めしてくれ。オレとウェンディがアイツを仕留められるだけの攻撃の準備するから)


 その後少し先の岩の辺りを指差した。

 

(んで、二人であそこまで誘導してくれ。そしたら二人で仕留める)


 そんな事が本当に出来るのだろうかとオルガは訝しんだ。

 

(任せろって。オレ、最近コイツ使ってないから……一週間ちょい分くらいは溜まってるし)


 逆に言えばそれは一発限りの勝負という事だ。ウェンディの水にも限りがあるし、二度目は無い。

 

 その事に怯えるかと言えば答えはノーだ。

 寧ろ一度でもチャンスがある。それがどれだけ幸運な事か。

 

 エレナの背後からオルガが飛び出す。

 それを待ってましたとばかりにフェザーンが迎え撃った。

 

「丸見え、よ!?」


 空振り。完璧に合わせられたはずの迎撃が不発に終わり、フェザーンが姿勢を崩す。

 エレナを目隠しとした参式。飛燕・木霊斬り。姿の見えぬ状態からならば十分以上に囮として役立つ。

 

 その隙にフェザーンが狙った反対側から飛び出したオルガが脇腹目掛けて鏡面・波紋斬りを繰り出す。

 今度はしっかりと切っ先が食い込む。毛皮を断ち、肉を斬り。相手へ出血を強いた。

 

「やって、くれるわね!」


 フェザーンの反撃。しかし深追いはせずに直ぐに距離を取っていたオルガを捉えるには至らない。

 オルガを狙った隙をエレナが突く。

 

 その間にオルガは呼吸を整える。ほんの数秒の休息。それがどれだけ身体を休めてくれるか。

 そして再び攻撃に。今度はエレナが休憩の番だ。

 

 相手は格上。ならばこちらが生かせるのは数の利。

 ウェンディでは近接能力に不安があったため、こんな事は出来なかったが――エレナは強い。

 正統派の聖騎士としての実力は同期の候補生でもトップクラスだ。

 彼女となら交代交代で攻めることが出来る。

 

 そして、同じ小隊の彼女とならばウェンディにした以上に複雑なやり取りを無言で行える。

 僅かなハンドサインでイオの作戦を伝えた。

 岩場まで誘導。承知したとばかりにエレナが小さく頷く。

 

 相手に気取られない様に。数百メートル離れた地点まで誘導する。罠と見破られたら素直については来ないかもしれない。

 中々神経を使う戦いになりそうだった。

ギミック無くて単純なフィジカル強い系ボス。

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― 新着の感想 ―
[一言] タンクとタンク兼ヒーラー、一発だけとはいえ火力のある遠距離アタッカー、遠距離デバフ要員… あれ…これ理想的なPTでは
[一言] イオちゃん溜まってる!これで仕留められなかったらもう終わりだぁ…
[一言] 戦略系ゲームでこの手のボス相手によくやること レベルを上げてバフマシマシで囲んで叩く、相手は死ぬ(ゲーム脳
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