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30 一日目終了

 そこからしばらく歩いて、無事水場を発見できた。

 それなりに大きな池だ。澄んでいて、飲用にも使えそうである。

 

 とは言えその側に拠点を置くわけにもいかない。

 森の中の水場という事は野生動物や魔獣の水場でもある。それらに襲われては意味がない。

 

 少し離れて、その痕跡が残っていない場所――つまりは獣道でも何でもない場所を探して初めて野営道具を設置した。

 

「その茂みの辺りに焚火置こうぜ」


 その中でイオがそう言う。周囲が茂みに囲まれていて扱いにくそうな場所だ。

 

「もう少し広い場所の方が良くないか?」

「いや、夜だと目立つぞ。火」

「む」


 確かにとオルガも考え直す。

 他の候補生たちも敵にカウントした方がいい現状だ。

 火が見つからないようにする必要があるだろう。

 

「そう考えるとテントも枝とか着けて偽装しておくか……」

「だな」


 少しでも見つけにくくしておいた方がいい。焚火に使う枝を集めつつ、偽装用の葉っぱなどを集める。

 この時期、枯れ葉には困らないのが救いだった。

 

 水筒に水も入れられるだけ入れておく。

 

 更に茂みの中へ荷物を隠して。

 

「さて。問題はここからだ」


 最初の目標である水場の確保は出来た。次は食料の確保だ。

 オルガ達が持ち込んだ食料は七食分。切り詰めれば一日一食は食べれるという物。

 

 これが寮ならば別に問題は無いが、慣れない環境での野営。

 加速度的に奪われる体力を考えればしっかりと食事は取っておきたい。

 

 ならばやはり、現地調達だろう。

 

「少しこの辺りで食べれる物を探そう。キノコ以外で」


 イオがブーイングするが気にしない。キノコギャンブルはダメ、絶対。

 

「……さっきの鹿はどうしますか?」

「取りに行きたいが……候補生同士の戦いもある事を考えるとな」


 もしもあれを他の誰かが見つけていたら。

 自分だったらどうするだろうかとオルガは考える。

 

 ……見張る。少なくともしばらくは見張って誰が回収に来るのかを確認する。

 そしてもしも少人数だったら襲ってリタイアに追い込むだろう。或いは尾行して相手の拠点の位置を割る。

 

 しばらくたっても来なければ適当に処分するだろう。

 毒物の可能性も否定はできない。そこまでやる奴が居るかは別としても、下剤くらいは仕込む奴が居そうだった。

 

 逆に、それを仕掛けて立ち去るかもしれない。誰か回収する事を期待してのトラップ。

 

 諸々考えると――危険だという結論に達した。

 その場で仕留めた肉以外は危なくて使いたくない。

 

「やめておこう。どうなってるか分かったもんじゃない」

「んじゃあさ。あの水場に来たの狩ろうぜ? いや、釣りもアリか?」


 そう言いながらイオがスリングを回す。

 確かに水場である以上何かしら獣は来るだろうし、魚もいるかもしれない。

 

「そうだな。後は木の実とか……」


 本当は分散して集めたいが、各個撃破の可能性もあるのでそれも却下。となるとやはりまとまって動くことになる。

 何とも不便だが仕方ない。

 寧ろ一度遭遇してそう言う事態への備えが出来ただけ良しとするべきか。

 

 そんな風にしてどうにか食料を集める。流石実りの秋と言うべきか。

 それほど困ることなく木の実の類は集められたし、冬に備えて身を蓄えたイノシシを一頭狩る事も出来た。

 

 手慣れた様子でイオがイノシシを捌いていく。

 

「上手いなイオ」

「まあな」


 ちょっと得意げにイオは手にしたナイフで肉を切り分けていく。

 

「量はあるけど、保存が出来ないからな。明日には食べきっておかないと」


 もっと塩とか有ればなあ、などとぼやいている。

 

『……もしかして、イオちゃんって結構料理できるのかしら』


 意外そうにマリアが言うが、オルガとしても意外だった。

 いや、そう言えば繕い物も出来ると言っていたし家事の類は得意なのかもしれない。。

 

「兄貴達とよく一緒に狩りに行ったんだ。その時に捌き方とかいろいろ教わったんだぜ?」


 なるほど。とオルガは納得した。淀みの無い手つきはその技術がしっかりと備わっている事をオルガ達にも伝えてくれる。

 

「後で俺にも教えてくれないか?」

「良いぜ。エレナは?」

「私も少し興味がありますけど……全員そこに集中するわけにもいきませんからオルガさん先どうぞ」


 私は見張りしてますと、エレナは周囲を警戒する。まだ日も落ち切ってはいない。

 この時間帯に襲撃があるかどうかは……相手次第だろう。用心に越したことはない。


「お前不器用だなあオルガ」

「やったこと無いんだよ。いきなりうまくできるか」


 イオに散々ダメだしされながら。どうにか肉の一塊を切り出す。

 気が付けば手が血まみれだ。

 

「残りオレがやっとくからオルガは手洗って来いよ」

「そうする」


 水場から汲んできた水を使って血を洗い落とす。

 赤く染まった水が、地面に吸い込まれていく。

 

 それをオルガは感情の無い目で見つめていた。

 

『……オルガ?』


 マリアにそう呼びかけられて。オルガの目に光が戻る。

 

「ああ。すまん……何だ?」

『いえ……何かぼんやりしてたみたいだったから』


 大丈夫、と目線だけで答える。何か言ったかとイオがオルガの方を振り向いていたのでマリアに声をかけられなかった。

 

 そうして、一日目の日が暮れた。

 暗闇の中では移動もままならない。イオの捌いたイノシシを焼いて食べて、保存食は残しておく。

 焚火に集めた枝を足して、火が消えない様にする。

 

「本当に良いんですかオルガさん。真ん中で」

「良いよ。俺睡眠時間短くても平気だから」


 三人で交代して見張りをする場合、一番つらいのは真ん中の一人だ。

 他の二人はまとまって睡眠が取れるのに対して、真ん中は一度寝て、起きて、また寝るという事になる。

 しっかりと休めるとは言い難い。

 

 だがオルガはそこに立候補した。

 

「……イオは結構疲れてるから最後にしておきたいし、少し長めに休ませてやりたい」


 小声でオルガはエレナにそう補足するとエレナは心得たと言うように頷く。

 

「分かりました。では最初は私から」

「ああ。んじゃイオ先に寝ようぜ」

「変なとこ触ったらぶっ飛ばすからな」

「変なところないだろお前」

「ぶっ飛ばす」


 寝る前とは思えない騒々しさを伴いながら、オルガとイオはテントに入って寝袋に包まる。

 そうして目を閉じれば――疲れていたのかすっと意識が落ちていった。

イオは意外と女子力高め。

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― 新着の感想 ―
[一言] 変な所無い、つまりパーヘクトボデー。
[一言] 湧き水なら大丈夫なんだけど、池の水って腹壊しそう。まあオルガは胃腸が強そうだからなんとかなりそう。
[一言] 女子力とは? 獲物の解体って力仕事だから確か……まあ良いや
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