27 サバイバル試験開始
『伍式! 伍式なら大丈夫だから! 弐式と似た感じの技だから!』
「本当かよ!」
『信じて!』
とマリアが泣いて頼むので、オルガも折れた。
マリアの大丈夫って信用できないんだよなあ、と言う本人が聞いたらまた泣きそうな事を考えつつその修行を行って。
そうこうしている間にサバイバル試験当日となった。
「何ていうか……割と皆荷物少ないよな」
「多分、金が無かったんだろう」
上級生が買い占めて転売している野営関連の品々。それらすべてを取りそろえるには大金が必要だ。
しかし、クエストをこなすにしても大体皆評価点の方を重視していた筈だ。
各所からの依頼はそれぞれが報酬金を提示する。そこへ推定される難易度から学院が報奨金を着けるという仕組みだ。
従って、難易度に対して報奨金は直結しない。
評価点は完全に難易度に比例しているのでそう言うのばかり選んでいると、報奨金は碌に入らない事も有り得る。
そう言う小隊はきっと今回の装備を揃えられなかった。
「……保存食は定期的に買いだめしておいた方が良さそうだな」
また今回みたいな試験が有ったらその度に奔走するのは正直手間だ。
少し遠方のクエストを受けて消費するようにする。そんなサイクルが必要かもしれないとオルガは思った。
「そう言う人達は……」
とエレナはそこで言葉を切った。それを口にすることで回りが実行しては堪らないと言うように。
オルガも彼女が何を言おうとしたのかは想像がつく。だがオルガも口にはしなかった。
それを口にして他の小隊に生き残る術を教える必要は無いと考えたからだ。
そうして彼らは試験会場に着く。
聖騎士養成学院。それがある王都から少し離れた郊外の森。
この森の中央では魔獣が良く発生するのだという。その為、年中魔獣が徘徊する様な危険な場所だという。
そんな場所を試験会場に選ぶ当たり、本当に学院は候補生の命については気にしていないのだなと思えた。
森の周囲をぐるぐると回りながら。時折止まって小隊を降ろしていく。開始地点はある程度ばらすつもりらしい。
確かにそうでもしないと入り口辺りが詰まる。
「オルガ小隊。降りろ」
その声と共に、三人は馬車から降りる。それぞれで荷物を手にしたら馬車は直ぐに次の地点へと向かった。
「一先ず、森の中に入ろうぜ。ここだと丸見えだ」
「そうだな」
イオの言葉に頷いてオルガ達は森の浅い場所で立ち止まる。
「ここなら木々が陰になって馬車からはもう見えないな」
「ですね。とりあえずまずは水場から探しましょうか」
「だな。オレ達の水筒には一日分しか入らねえし」
当たり前だが、それだけの水では一日しかもたない。
七日間を生き抜くならば水場の確保は必須だ。
「それから各々救命信号は落とすなよ。一応最後の命綱だからな」
各々が首から下げる様に言われている円環は打ち上げ式の花火のような物らしい。
錫杖剣の一部で例の加護を与えてくれるとか。
一応これを目印に救助はしてくれるとは言われているがどこまで当てにしていい物か。
無論、それが間に合う保証何てどこにも無い。肝心な救命信号が機能するかも分からない。
オルガが言ったように本当に一応、レベルの気休めだ。
『今回は私は口、出さないから。それで良いのよね?』
マリアの言葉にオルガは頷く。
マリアの手助けは極力避けたい。本当の本当に危険な時は教えてくれと言っているが無い物として扱う。
聖騎士になりたいのではなく、強くなりたいのだというオルガの言葉は今も守られている。
「行こう。魔獣の痕跡を追えば水場に辿り着く筈だ」
注意深く見れば足跡などの痕跡は多く見つかる。何時かの森歩きの経験が生きる形だ。
「……先頭は俺。イオ、エレナの順で行こう」
イオの聖剣は切り札だ。極力使わずに、どうしても対処できない相手が出て来た時に使う。
故にオルガとエレナが彼女を護る様な陣形になるのだがイオはそれが不満らしい。
「オレだって聖剣振らないと強くなれないと思うんだけどな」
「現状一発撃ったらおしまいだからな。実戦では温存しておいてくれ」
流石にその辺の雑魚に使うのは勿体ない。
イオもそれは分かっている。だがそれでも己への不満は消えない様だった。
「もうちょい使い勝手良くなればな、コイツも……」
現状<ウェルトルブ>が半分封印されているイオは足を引っ張っている。一撃は確かに優秀だが、それ以外の貢献が難しい。
それに焦りと不満を感じている様だった。
陣形を定めたまま、オルガは枝を払いつつ前を進む。
後続が少しでも歩きやすくするためだ。
「……言い忘れてたけど。蜘蛛が出たら俺は逃げるから。後は任せた」
「アレマジな話だったのかよ」
「蜘蛛?」
この三人の中ではオルガが一番体力があり、次にエレナ。最後がイオだ。
それもイオには不満らしい。これに関しては完全に年齢の問題もあるので仕方ない面も有るのだ。
七日間を生き延びるには体力配分も重要だ。その意味でもイオは年少故の弱みを晒している。
聖騎士養成学院への入学年齢下限で入学する者が少ないのはそれが理由だ。
身体が成長しきっていない状態で入学してもそれはハンデとなり得るからだ。
イオはその洗礼を諸に浴びていた。
無理をするなと言いたい所だったが、オルガは口を閉ざす。そう思われる事自体がイオの焦りを助長するだろう。
ただほんの少しだけ歩くペースを落とした。どの道、オルガも道を拓きながらなのでそこまでハイペースでは進めない。
「そう言えばオルガさんは迷宮と言う物を知ってます?」
「迷宮?」
『ああ。アレね』
マリアは知っている様だったがオルガは知らない。
そう伝えるとエレナは指を一本立てながら教えてくれた。
「魔獣と同じような物らしいです。所謂土地、地形が魔獣化した様な物だと」
「そんなのあるのかよ」
「あ、オレも聞いたことある。何か地形自体が変化して迷路みたいになるって」
「ええ。そう言う土地を総じて迷宮って呼ぶらしいです」
へえ。とオルガは相槌を打つ。何故そんな話題が出て来たのだろうかと思いつつ。
「この森もそう言う迷宮化一歩手前らしいです。魔獣の大量発生する場と言うのは迷宮になりつつある場だとか」
「ある意味納得だな」
魔獣が大量発生するのだ。それに煽られて土地が魔獣になってもおかしくは無いとオルガは思うのだった。
忘れがちですがイオはロリ。