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26 禁断の肆式

 一先ず、オルガ小隊は最終日までの生き残りを目標とした。


「やっぱ評価点は最高評価狙いたいよな」

「だな。俺もイオもまだ200点届いてないし」


 この小隊ではエレナだけ評価点が突出している。

 無論、この試験を最高評価で突破したとしてもその差が縮まるわけではないのだが平均の底上げは出来る。

 そうすれば今まで評価点で制限を受けていたような難易度高めのクエストも解禁されるだろう。


「とりあえず試験の場所の情報集めよう。食える物調べておかないとな」

「去年と同じだと思うか?」

「……一応調べてみても良いかもな。もしも一緒だったら有利だ」


 主に昼間は食料集めをすることで保存食の量をカバーするという方針だ。

 上級生は果たして素直に教えてくれるかどうかは疑問だが、試験会場について調べる。

 後は試験の日程から会場の場所を推測していく。


「っていうかこれ、どう見ても近場だよな。移動時間が半日もねえ」

「ですね。イオさんの言うとおり、このあたりで食べれる植物や動物の捌き方を調べておくと良さそうです」

「うっし。じゃあオレキノコについて調べてくるな!」

「待てイオ。キノコは危険だからやめろ。本当に危険だから」

『実感こもりすぎね、オルガ。毒キノコでも食べたことある?』


 正解である。あのときは死ぬかと思ったとオルガは遠い目で思い出した。


 そんな訳で、追加の保存食購入はなし。


「……テントもう一個追加しないか?」

「どうせ一人は見張りですから二人入れれば良いと思いますけど」

「っていうかそんな金ねえよ、オルガ」

「うっ……確かにそうだな……」

『ああ……二人と同じテントで寝るのが恥ずかしいのね』


 正解である。まあ、試験中はそんな事気にしている余裕があるとは思えないが。


 全くの余談ではあるが。他の小隊は大体同性で固めている。

 こういった試験時にトラブルの火種になるのは目に見えていたからである。

 男女トラブルで崩壊する小隊は毎年それなりにいるらしい……が、それはまだオルガ小隊の誰も知らない。


 ただ、オルガはその手の問題について全く何も考えていなかった。

 イオも全く何も考えていなかった。

 最初の二人とも、何も考えていなかったのである。


 体調も万全に整えるためにクエストも自重しようと決めた。

 

『ねえねえ、こんなのだったら楽じゃない? 行方不明者の探索!』


 逆にそれは試験までに終わら無さそうだから却下である。


 そうなるとあとは疲れを残さない程度の自主練をするくらいしかやることがない。


『じゃあ今日はかるーく、肆式の型稽古でもしましょうか』


 そして自主練となると張り切るのがマリアだ。

 ここぞとばかりにオーガス流の稽古を入れ込んでくる。


 オルガとしても扱える技が増えるということは戦闘での選択肢が増えるということ。

 新しい型の習得は望むところだった。


「いよいよ四番目の型か」

『次の技は私が最も得意とした技……もちろんオルガにもハイレベルな出来を求めるわ』


 これまでの型はマリアいわく、まあやっと使えるようになったかな? というレベルの出来らしく。使いこなしているとは言えないらしい。

 実際オルガとしてもまだまだ複雑な連携までは昇華出来ているとは言えないと言う自覚があるので暇を見てはこれまでの型も訓練している。


「まあ、頑張るよ」


 なんだかんだでオルガはここまで順調に技を習得できてきていた。むしろ、マリアの記憶にある門下生たちと比べてもかなり習得ペースは早い。

 それはオルガの一度自分のした動きは完全に再現できるという才と、決して驕ることなく己を鍛える姿勢にあるのだろうとマリアは思っていた。


 だからオルガもマリアも。どこか気を緩めていたところがあった。次の技もきっと習得できると。

 その一瞬の緩みが契機となって、オルガを悲劇が襲った。


『それじゃあいつもどおり行くわよ』


 いつも通りというのは最初にマリアがオルガの肉体を操って型の動きをなぞらせるアレである。

 飛ばしで覚えた捌式を含めれば既に五つ目。二人とも慣れたものだった。


 身体が勝手に動く感覚はいつまで経っても違和感が拭えないなと思いつつ、マリアが肆式を放った。


「っ……!?」


 身体中から鳴っては行けない音がした。

 あまりの痛みにオルガは崩れ落ちる。


『え? え? ど、どうしたのオルガ?』

「どうしたの、じゃねえよ……」


 突然崩れ落ちたオルガを気にしてイオとエレナが駆け寄ってくる。

 なのでオルガは小声で怒鳴るという器用なことをしながらマリアに言う。


「お前俺を殺す気か……! あんな動き出来るわけねえだろ!」


 そもそも早すぎて何をしていたのか。オルガにもよくわからなかったというの本音だ。

 ただそれでも分かったことは、身体のあちこちが本来動かせない方向に動かされたということ。


 オルガもすっかり忘れていた。

 マリアはオルガ自身の身体を動かす時ーー本質的にはそのダメージなど気にしないのだと。


 マリアが自分の身体を動かす感覚でオルガの身体を動かすと、実のところ結構な負荷がある。

 そして当人いわく一番の得意技である肆式でそれが顕著に出た。


 マリアの身体に最適化された肆式の型は、オルガには到底再現不能な代物に成っていたのだ。


「おいおい、オルガ。何だよぎっくり腰か?」


 そうイオが冗談めかして言うと、エレナはやや真剣な顔をして<オンダルシア>をオルガに触れさせて表情を曇らせた。


「あの、あちこち捻挫とか肉離れしているんですけど」

「お前本当に何したんだよあの一瞬で!?」


 想像以上に重傷だったオルガの状態にイオが目を剥いて突っ込んだ。


「ったく、試験までは軽く流すって話だっただろ」

「……面目ない」


 流石に試験までに全部治すのは無理だろうというエレナの判断で、<オンダルシア>による治療が行われた。


 お陰で全身元通りにはなったものの。


『ええっと……普通の肆式。普通の肆式……どんなんだったっけかな』


 この師匠。やはりポンコツではないだろうか。

 オルガはそんな疑いを強くしていた。


 一先ず、マリアが一般的な肆式を思い出すまで肆式は後回しにせざるを得ないだろうという事はオルガにも理解できた。

 何しろ型がわからなければオルガも練習のしようがない。


『ど、どうしましょう……肆式だけ継承に失敗したなんて言ったらご先祖様になんて言い訳すれば良いのか』


 どうせ一度断絶してたんだから気にしないだろと、言わないだけの優しさはオルガにもあった。

 とりあえず。


「肆式はしばらく封印だな……」


 オルガにとっては危険すぎる技だ。訓練で自滅したくはないオルガとしては当然の判断であった。


これだから天才は始末に負えない……そんな師匠。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「名選手に名監督なし」を地で行ってますね …ちょっと違うか 地の文さんの不吉な予告から察するほど大事には至らず良かったです …まぁ、優秀なヒーラーがいなかったら十分詰んでましたけど…
[一言] 馬鹿師匠生前から基本構造レベルで人間やめてた?
[一言] ポンコツマリアちゃんかわいい
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