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24 試験は既に始まっている

「サバイバル訓練か」


 エレナから手渡された試験概要を見てオルガはそう呟く。

 大分読むのには慣れてきたと、自分でもちょっと自信を付けてきたオルガである。

 小隊の中では彼女の評価点が一番高い。と言うより、学年でもトップクラスだろう。

 カスタールの言が正しければ、かなり早期に情報を得られたはずだ。


「魔獣生息域で一週間生き残れ、だってさ」

「結構ハードな試験になりそうですね」


 その意見にはオルガも同意だった。

 単純に魔獣がいる空間で野営するというのはそれだけで危険だ。


 下手をしたら死に繋がりかねない。

 例によって例のごとく、聖剣は探しに来てくれるだろうが、持ち主まで探してくれるとは思えない。


「リタイアする時の注意事項も書かれてるぜ。っていうかこれリタイア前提じゃね?」


 イオが概要の一部を指差す。その指を追うと確かに、とオルガも頷いた。


「三日目までは減点……四日目でプラマイゼロ。五日目から加点か」


 無論評価点の話である。特に初日リタイアは減点が大きい。隊員それぞれから150点マイナスというのはこの時期ではかなりのダメージになるだろう。最悪退学さえあり得る。

 逆に最終日まで残った場合は加点が隊全体に200点となる。


「少人数の方が加点が高くなるんですね。これ」

「一人だと200点かよ。すげえな」

「その代わり一人で夜の見張りもこなさないと行けないからな」


 実質、七日間を起き続けないと行けないと考えれば相応のリスクとなるだろう。二人だって結構キツイだろう。


 ーーただこれにも抜け道がありそうだが。


「支給品無し。開始は一週間後って急だよなあ」


 そうイオがぼやいたところでオルガは立ち上がる。


「買い出しに行こう」

「へ? なんだよ急に」

「もうお昼過ぎですし……買い物なら明日ゆっくり行きませんか? 偶にはオルガさんも一日オフにするのも良いと思いますよ」

「何悠長なこと言ってんだ」


 支給品なしということが問題だ。それはつまるところ。


「野営の道具だとか七日分の食事だとか全部自分で用意しろってことだよ。一年800人分の保存食の備蓄なんてここにはないぞ」


 そう言うとイオもエレナも顔色を変えた。

 速く知れたからと言って、それは絶対的なアドバンテージではない。

 どの程度の点数でどの位早く知れるのかが分からない以上、上位者とその小隊は情報を得たと考えるべきだろう。


「そういえばそうだった!」

「兎に角急ごう。食料無しで野営なんて無謀だ」


 現地調達という手もあるが、それも限度がある。

 他にもテントだとか寝袋だとかも無いと困るだろう。


 そして最大の問題は。


「やべえぞオルガ。オレ、そんなに金が無い」

「……俺もだ」


 二人して冷や汗を流す。辛うじて自分の分の保存食を最低限買えるくらいだ。

 野営道具まで買う金は無い。


「私少し持ち合わせがありますからそこは任せてください」

「エレナ。本当に助かる! 愛してる!」

「すまん。必ず返す」


 口々にそう言いながら三人は制服姿のまま街へと繰り出す。着替える時間も惜しかった。


「まず何から買う?」

「飯だ。絶対に最初に在庫が尽きる」


 一日三食。切り詰めて一食としても七日間サバイバルをするつもりならば全体で5600食。そんなストックがあるとは思えなかった。


 そうして駆け込んだ一軒目。


「とりあえず干し肉が三食分。キャベツの酢漬けが五食分。堅焼きパンが四食分か」


 全然足りない。だがもう一軒目の在庫はこれしかなかったのだ。

 嫌な予感を覚えながら二軒目。


「なあオルガ……これってさ」

「次行こう。次」


 二軒目は成果ゼロだった。

 そして三軒目。そこも同じく。


「オルガさんこれはもしかして」

「いくらなんでも早すぎる」


 オルガは苛立ちを堪えながら、二人が抱えていた思いを代弁する。

 試験開始の通知を受け取ってからまだ一時間と経ってはいない。


 同学年と思しき面々は、まだほとんど見かけていない。オルガたちはかなり有利なスタートだったはずだ。


 にも関わらずこの品揃え。


「手分けしよう。イオはこの通りから向こう側。エレナは反対側。保存食は見つけたらとりあえずあるだけ買っておこう」


 多少無駄になるかもしれないが致し方ない。

 それよりも今は必要数分を確保することが先決だった。

 それにオルガたちの予測が正しければ、きっとーー。


「オルガは?」

「別の場所で調達してくる」


 保存食ならば、オルガにはまだアテがあった。


 そう言って別れてから三時間。


「……オレの方はこれだけだ」


 そう言ってイオが悔しそうに手にした保存食を差し出す。固めに焼いたビスケット。

 一食にするのも厳しい量だった。


「私の方はこれだけです」


 テントが一つに寝袋が二つ。保存食はゼロだ。


「これってさ……絶対買い占められてるよな」

「まず間違いなくそうですね」


 幾らなんでも在庫が払底しすぎている。どこかの誰かが買い占めていると考えるのが自然だった。しかし誰がという疑問。一学年が買い占めるには幾らなんでも動きが早すぎる。


「悪い、待たせた」


 汗をかきながらオルガが二人に合流する。


「二人の方は……やっぱり芳しくなかったか」


 オルガも薄々予測はしていたのだろう。二人の表情を見て首尾よく行かなかったことを察したようだ。


「絶対誰か買い占めてるって。んで、オルガの方は?」

「一先ず、三人が一週間一日一食ずつは食べれるだけ確保してきた」


 そう言って手にした袋の中身を見せるとエレナが華やいだ声を上げる。


「凄いですね。どこで買ってきたんですこれ?」

「まあある意味エレナのお陰というか」

「私の?」


 不思議そうな顔をするエレナにオルガは頷いてみせる。


「この前の魔獣退治の依頼出してた村で買ってきたんだよ」


 そろそろ冬ごもりの時期でこのあたりもその準備を進めている。

 そうした中で、魔獣が森の浅いところに出てくるというのははっきり言って死活問題だ。


 中型魔獣なんてこの時期討伐が長引けば長引くほど冬備えが遅れる。

 それを倒したエレナというのは実はこのあたりの村でちょっとしたアイドルだった。


 ワニ型魔獣の件で、その彼女と一緒に行動していたオルガもあの村の住人とは多少交流している。

 オルガ自身、釣り人達からは結構感謝されている。

 そういう縁もあって、少し保存食を分けて貰えたのだ。


 そのあたりの事情を掻い摘んで説明する。


「その代わりこれが終わったらまた村行って保存食づくり手伝うぞ」

「ええ。よろこんで!」

「お安い御用って奴だな」


 とりあえずこれで最低限の食料は確保できた。

 少なくとも評価点の減点は免れるだろう。


「にしても一体誰が……」


 一体どこの誰が買い占めなんて行ったのか。その疑問が残った。


事前準備大事

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― 新着の感想 ―
[一言] サバイバルということは、小隊同士で潰し会うも協力し会うも自由ということかな。ワクワクしますねぇ!
[一言] 学校側が買い占めた可能性もワンチャン?
[一言] 最低絶対極悪魔人テンバイヤー現わる! ぼろぼろにされてほしい。   
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