23 新しい武器
ウェンディからのお詫びの品はそれから五日ほど経って届いた。
「うむ、オルガ! 約束の品が届いたぞ」
「早いな」
アレから毎日の様に挨拶に来て、毎日の様に風紀委員(非公式)に勧誘して来るのでウェンディにもすっかり慣れた。
毎日の様に駆け寄って話しかけているウェンディを見ると――何というか、小型犬に懐かれた気分だ。
無論、本人にはそんな事言えはしないが。
「こちらになります」
ヒルダは軽々と抱えた剣をオルガに手渡す。
その剣は思った以上に重さが無くて、オルガの腕が一瞬跳ね上がる。
「お気をつけてください。普通の金属よりも大分軽いです」
「みたいだな」
細腕の割に筋肉があるのかと思っていたが、実際に軽かったらしい。
「ありがとう」
「うむ。気にするな。お詫びだからな!」
そう言いながらウェンディは何故か嬉しそうだった。
何がそんなに嬉しいのかはオルガにもよく分からない。
「どうぞ、ご覧になってください。お嬢様はオルガ様の反応を見たくてそわそわしているのです」
「そ、そわそわはしていないぞ!」
していたな、と思いながらオルガは渡された剣を鞘から抜く。
『へえ……良い剣ね。素材は霊銀。鍛えたのは――ガル派かしら』
知らない単語をマリアがポンポン出してくる。何時ぞや、鑑定が得意だと言っていたのはあれは冗談ではなかったのか。
「総ミスリル造りで中央工房の名工が鍛えた剣です。数打ちの聖剣の成り損ないとも言われておりますが刀剣としては一級品かと」
ミスリルと言うのは聞いたことがあるなとオルガは記憶から引っ張り出す。
スラムで、一時期話題になったのだ。
魔獣の腹の中で生成される希少金属。魔獣を捕獲して養殖できれば取り放題ではないかと考えた組織があったのだ。
ちなみにその計画は当然の様に失敗した。
「数打ちの成り損ないって言うのはどういう事なんだ?」
そもそも数打ちの聖剣自体どうやって作っているのかは知らない。
ただ名工が何か特別な工程を踏まえて鍛えているのだろうという程度の知識しかない。
「私も専門外ですので詳しい事は分かりませんが――特殊能力の付与に失敗した様です」
「ふーん?」
良く分からなかったが――まあ要はそこ以外は聖剣と同じという事だろう。
『霊力は感じないわね。うーん。もしかして逆なのかしら。霊力があるから特殊能力があるんだと思ってたんだけど』
つまり特殊能力があるから霊力が宿っている? しかし何故そんな事になるのかはオルガの知識では到底分かりそうにない。
何時か頭の良い人が解明してくれるだろうとその誰かに任せる。
「ありがとう。ウェンディ。良い剣だな」
「うむ! そうだろう!」
ニコニコである。しかししばらくすると表情が曇ってきた。
「えっと……?」
何か悪い事をしただろうかとオルガも困惑する。ここまで急激に落ち込まれる心当たりがない。
「うむ……今日はそれだけだ……では、またな……」
「お、おう」
とぼとぼと去って行くウェンディを見送る。
「……所でオルガ様」
「はい?」
その後を直ぐには追わず、ヒルダが少しばかり不思議そうに問いかけてくる。
「オルガ様はお嬢様がお嫌いですか?」
「いや、そんな事はないけど……」
会った直後は人の話聞かねえなコイツと腹立たしく思った事も有ったが、今はどちらかと言うと子犬的な癒し系にカテゴライズされている。
好きか嫌いかで言えば好きな部類だろう。人間、笑顔で懐いてくる相手を邪険にするには体力を使う。
「ふむ……話は変わりますが。オルガ様の小隊は今三名ですね」
『本当に随分と話変わるわね』
「そうだな」
「四人目はどんな相手を入れるなどと言う構想はあるのでしょうか」
「そうだな……俺とエレナが前衛。イオが後衛ってフォーメーションが基本だからその両方をカバーできる中衛的な人間は欲しいな」
それは以前にも三人で話していたような内容だ。
だからオルガもすぐに言葉が出てくる。
「なるほど。中衛」
「そう。中衛だ。広範囲に睨みを利かせられるような、そう言う能力の聖剣持ちが欲しいな」
『ウェンディちゃんがヒルダちゃんと組んで無ければ良かったんだけどねえ』
何度目になるか分からない愚痴だが、全くだとオルガもマリアの言葉に無言で同意する。
「なるほど」
そう言いながらもヒルダの表情に納得は無い。
「えっと、まだ何か……?」
「いえ。お話ありがとうございます。少しお嬢様とも打ち合わせしますので……」
そう言ってヒルダも一礼して去って行く。
それと入れ違いになる様に、イオとエレナが入ってきた。
「あれ?」
「あら?」
新しい剣を眺めているオルガを見て、二人が不思議そうな顔をした。
「お、丁度いい所に。これ、ウェンディからこの前のお詫びだって。良い剣だろ?」
『えーオルガに剣の良し悪しが分かるの?』
マリアの揶揄う様な言葉。正直分かりませんと言うのが本音だ。でも学院の剣よりも良い物だというのは一目で分かる。
新しいおもちゃを自慢する様なオルガに、イオが困惑気味な表情を向ける。
「いや、良い剣だとは思うけどよ……風紀委員の奴は?」
「ん? 帰ったぞ?」
「え。帰ってしまったのですか?」
エレナの意外そうな言葉に寧ろオルガの方が驚く。
「いや、普段からアイツそんなに長居しないだろ。今日も誰かの手伝いしてるんじゃないのか?」
普段のウェンディのルーチンを告げるとイオとエレナは表情を見合わせた。
「いや。まあ……」
「そう、ですけど」
その歯切れ悪い二人の様子にオルガも不安になってきた。
「……何か俺やらかした?」
『うーん。何でしょうね。ちょっと私にも思いつかないわ』
思わず小声でマリアに尋ねてしまう程だ。
「いや、そうだ。今の話も大事だけど……一先ず置いておこう。オルガ大変だ」
「大変?」
「次の試験が発表されました。一週間後です」
エレナのその言葉に、オルガは学院が次なるふるい落としの場を用意したのだと知った。
プレゼントてはなく、賠償なので普通のテンション