21 貰えるもんは貰っておきましょう
オルガがウェンディの何でもする発言に悩みだしてしばらくたったが、まだ三人が来る気配がない。
「……探しに行くか」
「うむ。もしかしたらお茶でもしてるのかもしれないな」
マリアと同じことを言う様なウェンディに、今のは冗談かと聞く気にもなれずにオルガと二人、先にイオとエレナが待機している場所へ向かう。
ウェンディ曰く、多分ヒルダもそこにいるからとの事だったが何故そう思えるのだろうか。
『驚いた。本当に居たわね』
「……何時森を抜けたんだ?」
ウェンディ達のスタート地点は川を挟んだ反対側。
距離を考えればオルガが森の外縁に着いた頃にヒルダも川辺に居た筈だ。
だがその姿を見た覚えはない。
「おーオルガ。先に頂いてるぜ。このメイドさんのお茶。滅茶苦茶美味いぞ」
「何でお茶会してるんだよお前ら」
しかも、マリアとウェンディが言っていた通り。本当にお茶会をしていた。
どこから持ち出したのか、テーブルと椅子を用意して、ヒルダが給仕をしている。
控えめに言っても意味不明だった。
どうしてそうなったのかさっぱり分からない。
「えっと、オルガさんが行ってくるとここを出て行ってすぐ位に、ヒルダさんが来て――」
「お嬢様方お茶は如何ですか? とお尋ねいたしました」
そう言ってヒルダが優雅に一礼する。
話を聞いてもさっぱり分からない。分からないので気にするのを止めた。
「んでそっちは引き分けだって?」
「ああ。まあな」
「やっぱつええな。風紀委員は」
聞きなれない単語にオルガは眉根を寄せた。
「風紀委員?」
ウェンディに視線を向けるとうむ、と頷いた。
「如何にも。風紀委員だ!」
「まあ、お嬢様が設立したので委員はお嬢様一人ですが。ちなみに非公認組織です」
それはただの自称ではないだろうか。
「えっと、引き分けという事は私の離脱も評価点の移動も無し、という事で良いのでしょうか」
「うむ。エレナ殿が今も虐げられているというのは私の誤解と思い込みに因る物だった。申し訳ない」
そう言って頭を下げる。
「ああ。お嬢様……ご立派です。自ら過ちを認められるなんて……本当に、あの年だけ上の男共も見習って欲しいです」
小声で不穏な事を呟いているヒルダの発言を深堀するのは止めておこう。オルガはそう思った。
「迷惑をかけたお詫びに、何でもするとオルガには言ったのだが……何やら悩んでいる様でな」
「……オルガ様。念の為に言っておきますが。もしもいかがわしいお願いをするようでしたらこの私、断固として反対させて頂きますので」
冷え切った視線を向けられるオルガだったが、完全な誤解。
寧ろ邪推の域だ。そんな事微塵も考えていない。
「いやいや。オルガには無理だろ。コイツオレ達の水着姿を見ただけで顔真っ赤にしてるんだぜ?」
「イオ、手前……」
何故それをわざわざ言うと、オルガが睨むがイオは楽し気に笑うだけだった。全く堪えた様子が無い。
「オルガさん。迷惑被ったのは事実ですし、何かしら貰っておいた方が向こうの気も晴れると思いますよ?」
「お前結構ハッキリ言うようになったね……」
「言わないと通じないのだと学びましたので」
それは良い事で、と思いながらオルガは考える。
そもそも何でもすると言うが、ウェンディに何が出来るのかもよく分かっていないのだ。
ウェンディの聖剣の特殊能力は非常に今のオルガ達の小隊に欲しい物だ。
最大威力こそイオの<ウェルトルブ>に軍配が上がるが、あれだけの数の水弾を操る中距離攻撃能力。
正直喉から手が出る程に欲しい。
だが流石にヒルダと引き裂くというのは後味が悪い。
と考えていると今一して貰いたいという事も無いのだ。
先ほど棚上げにした問題が舞い戻ってきてオルガが唸っているとヒルダが助け舟を出した。
「お嬢様。まずはお嬢様が出来る事をお伝えした方が良いのではないかと」
「うむ。そうだな……何でもできるぞ!」
見たところ年齢はイオと大差ない。
そんなウェンディが何でもできると言ってもたかが知れているだろうなとオルガは思えてしまうのだ。
そしてその回答はヒルダ的にも不合格だったらしく。指先を額に当てて言葉を選んでいる。
「その、お嬢様。もう少し具体的に――」
「ぐ、具体的にか。そ、その……誰かを殺せとかそう言う犯罪系以外なら一通り……」
それでもまだ大分範囲が広い。
「んじゃあさオルガ。武器でも頼んでおけば?」
そのやり取りをじれったく思ったのか。それとも森の中でお茶を飲む事に飽きたのか。多分両方だろう。
イオがそう提案してきた。
「武器、でございますか?」
ヒルダが怪訝そうな顔をする。
おや、この人は知らなかったのかとオルガは少しだけ意外に思った。
結構有名な話かと思っていたが自惚れだったようだ。
「そ、コイツ聖剣に選ばれなかったから学院の安物使ってるんだよ」
「安物使ってるのはそれはお前も似たような物だろ」
「オレにはちゃんと<ウェルトルブ>あるから良いんだよ。でもお前メインウェポンが安物って良くないだろ」
「まあ、確かに聖剣と比べると大分、いや相当格が落ちますからね」
へーとウェンディが力の抜けた返事をする。
そうしてその薄い胸を力強く叩いた。
「うむ! ならば任せると良い。我が家の家宝を進呈しよう!」
「いや、そう言うのは結構何で……普通のでお願いします」
推定どこかの貴族であるウェンディの実家の家宝なんて下手に貰っても困ってしまう。
普通に使い潰せるような物がオルガには合っているのだ。
「ご安心くださいオルガ様。私の方で責任を持ってオルガ様に適した武器を選ばせていただきます」
「え、はい」
オルガが欲しいとか言う前に、既に武器を貰う事が規定事項となってしまった。
確かにウェンディが選ぶより、ヒルダが選んだ方がまだ期待できそうだった。
だが――。
「メイドが選ぶ武器ってどうなんだ……?」
そのオルガのぼやきは誰かに拾われることなく、流されてしまった。
オルガ、武器を手に入れる