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15 勝ち方の問題

 ウェンディと決闘と言う名の模擬戦を行うと決めた翌日。

 

『何してるのオルガ? 珍しく特訓もしないで』

「ちょっとな」


 少し気になる事があって、オルガは学院内を歩き回っていた。

 時間を無駄には出来ないので歩きながら霊力操作の訓練は行っているが、片手間なのでマリアの言う通りだ。

 

「あ、いたいた」

『いたいたって……ウェンディちゃん?』


 オルガの視線の先にいる人物をマリアも見つけて首を傾げた。

 

『敵情視察?』

「まあそんなとこ」


 ヒルダの言っていたことが本当かどうか。少し気になったのだ。

 だからこうして捜し歩いていた。

 

 見つけたウェンディは二つに結んだピンクゴールドの髪をなびかせながら、何やら紙の束を運んでいる。

 

 それを教師の部屋にまで持っていき、何やら礼を言われていた。

 

『お使いかしら』

「そんなところだろうな」


 運び終えた後はまた別の所へと走っていく。その最中声をかけられて壁の補修の手伝いを始めた。

 その様子を陰からオルガは見ている。

 

『ヒルダちゃんが言ってたみたいに本当に人助けに走り回ってるのね』

「むしろ一か所でジッとしていないから中々遭遇しないわけだな……」


 ちょこまかと、止まることなく動き続けるその様はどこか小動物めいた様子を髣髴とさせる物だ。

 何と言うか、餌付けしたくなる雰囲気とでも言うべきか。

 

「おや、昨晩ぶりです。オルガ様」

「っ!」

『うわっ! また出た!?』


 唐突に背後から声をかけられてまた気付けていなかったオルガとマリアは息を飲む。

 自分は兎も角、とオルガは思う。

 マリアが気付けないというのはこれで二度目。どうやらまぐれでは無いらしい。

 

 つい先ほどまで誰も居なかった廊下に、相変わらず顔以外は一切露出していない灰色のメイドが居た。

 

 とりあえずヒルダがオルガに対して害意ある人間でなくて助かった。

 この様では不意打ちを仕掛け放題である。

 

 そして一週間後の模擬戦に不参加と言うのもありがたい話だった。彼女一人でオルガ達三人は暗殺されそうだ。

 

「ひ、ヒルダさん……どうも」

「さん、などは不要です。私はただの使用人ですので」

「いや、そう言う訳にも……」


 余り礼儀を気にしないオルガでも何となくヒルダには腰を低くしてしまう。

 下手に抵抗すると不味いという野生の勘が働くというか。

 

 マリアが警戒し、その接近に近付けない程の実力者を相手にしておざなりな対応など出来ないと言うべきか。

 

「私なんてただの可愛いメイドさんです。そんなに畏まる必要は無いんです」

「えっと……」


 それは冗談なのだろうか。

 美人である事はオルガも認めるに吝かではないが、ただのではないだろうと。

 あと自分で可愛いを自称するのはどうなのだろうかとオルガは思う。

 

『馬鹿ねオルガ。顔の良い女なんて自惚れなきゃやっていけないわよ』


 そんなマリアの意見を全女性の代弁みたいに言われても……と思っているとヒルダがすっと目を細くした。

 

「それはそうとオルガ様は先ほどからお嬢様を付け回しておりますが――何か良からぬ目的でも?」

「良からぬ目的?」


 それは模擬戦前に不意打ちを掛けて怪我でもさせようとかそう言う事だろうかとオルガが考えているとヒルダは細めた目を開いた。

 

「どうやら違うみたいですね」

「今の一瞬で何が……」

「いえ。てっきりお嬢様に下劣な欲望をぶつけたいとでも思っているのかと」


 その発想は無かったな、とオルガは思う。

 同時にそんな事疑われていたのかと。

 

『そう言えばオルガの好みってどんな子なのよ。エレナちゃんみたいなバインバインでもなく、イオちゃんみたいなぺったんこでもない。中々分かりにくいわね。お尻に拘りがあるのかしら』


 その質問。答えないといけないのだろうか。

 

「ただ、ちょっと気になっただけだ。昼間は人助けばかりしているって言うのが本当かどうか」

「なるほど。ちょっと、ですか」


 含みを持たせて強調された「ちょっと」と言う言葉。

 オルガがどれだけウェンディを探して歩き回っていたのか知っているような口ぶりだ。

 

「それで、オルガ様から見てお嬢様はどうですか?」

「そうだな……」


 その問いにオルガは少し考えて。

 

「ああ言う奴が居て良かったと思ってる」

「ほう?」


 自分以外にも人助けをする人が居る。

 その事実は意外な程オルガの心に喜びを齎していた。

 その理由を、掘り下げようとしてオルガは――。

 

『いつか――――――てね』


 触れてはいけない何かに触れそうになって考えるのを止めた。

 とりあえず、人の善性を信じていたオルガとしてはそれが証明された様だった。

 きっと喜びもそこから来ているのだろうと結論付けた。

 だけど同時に感じる苛立ちの正体が分からない。

 

「だから、余計に分かる。アイツは――きっと止まらないだろうな」

 

 さらにその午後。

 

「あのメイドさんが言ってた通り、俺一人で挑もうかと思う」

「え。何で。三人で囲んでボコろうぜ」


 オルガの提案にイオが意外そうにそう言った。その言い方もどうなんだと思わないでもない。

 が、正論だ。

 今回こちらには何の非も無く、向こうが敢えて一人で挑むというだけの話だ。

 

 それに合わせてやる理由はない。

 

「えっとイオさん。その言い方はどうかと……でも、実際態々不利にする事は無いと思いますよ?」


 表現の仕方は別として、内容自体はエレナもイオに同意見の様だった。

 

「俺も最初はそう思っていたんだが……多分、三人で勝ってもアイツは諦めない」


 今日の午前中、ウェンディを付け回した結果の結論がそれだった。

 

 ウェンディは本当に色んな人の些細な手助けをしている。

 助けを求められていなくとも、何か無いかと探し回っている。

 

 流石にオルガもそこまではしていない。

 オルガから見たウェンディと言う少女は、昼間日の当たる時間帯は完全に私を滅却している様だった。

 

 嫌々であったのならば一言物申したいところだ。

 しかしそれを実に嬉しそうにやっているのだからオルガとしても文句つけようがない。

 

 そして同時に分かる。ウェンディはその正義感のある限り、決して諦めない。

 

 困っている人が居る限り、動き続けるだろう。

 それが虚像だったとしてもだ。

 

 ならば――。

 

「だから俺達がやるべきは決闘その物よりも誤解を解くところからだ」


 と言うある意味で振り出しに戻る結論をオルガは告げた。

大分図太いメイド

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒルダは実はお茶目な性格なのかな?
[一言] お前も人のこと言えないけどな 面倒くさい性格してるのは変わらない
[良い点] オルガはどこまでも真っ直ぐなんだよなあ。 [気になる点] もしかして四人目かもしれないと思うとちょっと不安。 ウェンディさんトラブルメーカーでしかないしw [一言] でも遠距離攻撃にも使え…
2020/11/11 12:06 退会済み
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