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13 夜の密談‗貴方のおうちはどこですか

 妙な事になったなとオルガは思う。

 既に寮内も消灯となって一時間程度が経過している。

 

 そんな時間帯だからこそ。こっそりと中庭に出て来たオルガは気兼ねすることなくマリアと会話が出来ていた。

 

「マリアはどう思う?」

『ウェンディちゃんの事? まあ悪い子じゃなさそうね』

「いや、人柄の話じゃなくて決闘の事」

『悪い子じゃないからあっさり騙されたんでしょうね。エレナちゃんも言ってたじゃない。ベネチアって子の事』


 元ブラン小隊の一人。

 どうも今は残った三人も解散してしまったらしい。元々エレナに依存しきった小隊だったのでそれ自体に不思議はない。

 

 ただその内の一人がオルガ達の悪評をばら撒いているらしい。

 達と言うか、オルガのだが。

 

「にしたって、あれはねえな。どんな面の皮してれば自分たちのした事を他人のせいにして悪評ばら撒けるんだ?」

『そうね。きっと波紋斬りでも斬れない位に分厚いんでしょうよ』


 溜息混じりにエレナもそう言う。

 他にも少し聞き込んでみたら色々と話が出て来た。

 

 例えばオルガは小隊でハーレムを作ってるだとか。女と見れば声をかけずにはいられないだとか。

 

「風評被害も良い所だ」

『……そうかしら。だって今、オルガって美少女三人に囲まれてるわけだし』


 コイツ、サラッと自分も美少女にカウントしたぞ。オルガはマリアの面の皮の厚さも大概だと思った。

 

「お前は見えてない」

『じゃあ二人ね。十分妬ましいでしょうよ。特に男子からすると』

「んな事気にする奴、この学院にいるか?」

『寧ろオルガがストイック過ぎね。別に私は構わないけど……一日中剣を振って、休みも碌に取らないなんてオルガ位よ』


 その事実はオルガも認める所だった。

 確かに他の候補生たちは休日は街に出て遊んだりしている様だ。

 

 イオとてそれは例外ではない。曰く、休む時は休まないと却って効率が悪い。

 

 その理屈はオルガにも理解できるのだが、ジッとしていると落ち着かないのだ。

 

『だから普通の男子たちは可愛い女の子とお近づきになりたいんだと思うわよ。カスタールだってそうだったじゃない』

「いや、あいつを普通の男子にカテゴリーするのは間違ってると思う」


 どう考えてあれは普通ではない。大分頭のネジが飛んでいる。

 

「別に、俺は女子と遊びたいとも思わないんだがな」

『えー。イオちゃんとエレナちゃんと言う美少女二人を侍らせてその発言は面白みが無いわ』

「お前は俺に何を求めているんだ……?」

『だってほら……私はもう、誰かと恋愛なんて出来ないんだし。オルガにも青春を謳歌して欲しいじゃない』


 少ししんみりした表情でそう言うマリア。

 確かに、オルガとしか会話できない現状で恋愛と言うのは非常にハードルが高いだろう。

 

 それはさておき。

 

「お前その理由今思いついただろ?」

『バレたか』


 舌を出してわざとらしく首を傾げて見せるマリアを半眼で睨む。

 ちょっとだけ、信じそうになったのに。

 

「と言うか今から俺の恋愛事情を見たいなんて言い出すなよ。それは契約の範囲外だ」

『チッ。食事の感想じゃなくてそっちにすべきだったか』


 割と本気で後悔している様子のマリアにオルガは呆れつつ、その契約について触れる。

 

「そう言えばマリアの言ってた特徴を持つ土地を少し調べてみたんだが」

『あ。どうだった? どうだった?』


 基本的にマリアはオルガと行動を共にしているのでオルガが見た物はマリアも見ている。

 だがマリアがオルガに追従できない時がある。

 それは帯剣が禁止されている場。

 

 マリアがオルガの持つ聖剣(仮)なボロ剣から一定以上離れられないのだから、剣を持ち込めない場所にはついていけない。

 

 この聖騎士養成学院内でも帯剣が禁止されている区画はごく一部。

 その数少ない一つが図書室だ。

 

「海辺で漁をしている場所。……まあ当たり前だけど結構あったな」


 そう言ってオルガはミミズがのた打ち回った様な縮れた字の書かれたメモを取り出す。

 

『大分字、上手になったわね。辛うじて私でも読めるわ』

「そりゃよかった」


 つい半月ほど前まで書けなかった身としては上出来だろう。語彙はまだ五歳児とどっこいどっこいだが。

 

 そのメモ、漁を行っている現在の地名とその特徴をざっとまとめた物だ。

 

「どうだ? 何か引っかかりそうか?」

『うーん。この崖が多いって言うのは違うわね。砂浜ばかりだったもの』

「それだったらこっちはどうだ? 遠浅な海岸で有名なんだが」

『そんなに言う程でもなかったと思うわ。でも400年経った間にそうなったのかしら?』


 短時間だがオルガの調べた地名は全てマリアの記憶とは一致しなかったらしい。

 

「やっぱりお前に地図を見せた方が早い気がするな」

『そうね。そうすれば今の地名も分かるだろうし』


 ただ問題は地図は図書室にしか無くて、マリアは図書室には入れない。

 後は。

 

「大陸地図を買うしかないのか……」

『でも高いんでしょ?』

「そうだな」


 自前の剣を用意できていないオルガからすればとても遠い目標だ。

 何しろ地図と言うのは高い。それを作るまでの労力を考えれば当然だろう。

 それに地図とは即ち地形――軍事情報でもある。

 ある程度の金子を持ち信用が無ければ買う事すら出来ない。

 

 そのどちらもオルガには無い物だった。

 

 図書室の地図も、今のオルガが閲覧できるのは学院周辺の地図位だ。

 学年によって閲覧制限がかかっている。

 一番見たい大陸全体となると三年にならないと見る事も叶わないという。

 

 写す事すら今のオルガには出来ないのだ。

 

『そうなるとオルガには是が非でも三年に進級してもらうしかないわね』

「……後二年近くかかるぞ。良いのか?」

『大丈夫よ。だって私、400年近くも寝てたみたいなんだから。二年位誤差誤差』


 そう言ってマリアは笑うが、オルガとしてはもう少し早く手掛かりを見つけたいと思う。

 マリアは気にしていない風を装っているが気にならない筈が無いのだ。

 

 死の瞬間の記憶がないという事は、家族や友人知人。そうした人たちの消息も分からないという事だ。

 400年経って、皆死んでしまっているだろうが――それでもそれを知る事はマリアの慰めになる筈である。

 

 どうにか。もう少し早く調べる事は出来ないだろうか。オルガはそう思うのだ。

マリア。住所不定。出身地不明。無職。

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― 新着の感想 ―
[一言] 寝てたのに400年の感覚分かるのすごくすごい。
[一言] マリアが恋愛してる姿が想像できないんですがw
[一言] 定職に就いている幽霊的存在とかいるのかね? この世界なら居そうだなあ・・・
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