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09 川遊び

 楽しげな声を挙げながら、二人の少女が川遊びをしている。

 

 その光景からオルガは少し離れたところに居た。しきりに周囲を警戒している。

 決して覗きではない。

 

『良いわねえ。美少女二人が戯れている所をこうして眺められるなんて』

「うん? ああ……そうだな」


 エレナの言っていた水辺での戦闘に対する準備――それは水着の事だった。

 セパレートタイプの水着を纏って惜しげもなく肌を晒して。

 

 イオとエレナは互いに水をかけあって遊んでいる。

 

 ついさっきワニ型魔獣の奇襲を受けたばかりだと言うのに剛毅な事であるとオルガは感心するしかない。

 確かにこの辺り、くるぶしまでしか水が無く見通しも良いので奇襲を受ける事は無いだろう。

 

 一応二人、剣帯は身に着けて聖剣は佩いている。

 水着に剣を装備するというミスマッチさ。それが何とも不思議な調和を作り出しているのは彼女たちが聖騎士の卵からだろうか。

 

 だが、ワニ型以外の魔獣だっているだろうし、そうでなくとも防具無しでは只の野犬だって十分に危険だ――という事でオルガだけは変わらず警戒態勢を取っている。

 見方を変えれば二人を護ろうとしている。

 

 とは言え、彼も流石に暑いのか。川の水で濡らしたタオルを首に巻いて、ちょっと気を緩めてはいた。

 もうすぐ秋を迎えるとは言えまだまだ残暑が厳しい。あと一週間もすれば急激に冷えてくるのだろうが。

 

「なあ、オルガ。これだけ見晴らし良ければ直ぐに分かるって。お前も水の中に入ったらどうだ?」


 容赦なくエレナを水浸しにしたイオが、次なる犠牲者を求めてそう提案する。

 実際問題として、マリアも警戒しているのでイオが考えている以上に体制は盤石だろう。

 

 だがそれに甘えてばかりもいられない。

 先ほどマリアにも水中は見えないという弱点がある事が分かった。

 

 彼女に頼り切りになるわけには行かない。何より、何もかもマリア任せで聖騎士としてやっていけるのかと言う問題もある。

 少しでも自分の力を身に着けて行かないといけない。

 ――理由はそれだけではないのだが。

 

「いや、良い。二人で楽しんでくれ」


 オルガは頑として動かない。

 

「オルガさん。魔獣が来ても私は即応できます。だから一人でそんなに気を張らなくても……」


 なるほど確かに。

 エレナならば鎧など無くとも聖刃化する事で無類の耐久力を得られる。

 エレナを盾にするようで気乗りはしないが、それも適材適所と言う物。

 まして当人が志願しているのならばオルガに積極的にそれを止めるつもりも、権利も無い。

 

「いや、ホントに気にしないでくれ」

『……所でオルガ。さっきからどこを見ているの? 人と話す時は目を見てって言わないかな? 前にも言った気がするんだけど』

「黙れ、マリア。俺は今周辺を警戒している」


 低く、押し殺した声でオルガはマリアに口を閉ざせと告げる。

 何とも余裕の無い事だとマリアは疑問に思った。

 

 今のオルガの態度は警戒と言うよりも敵を前にした時のそれだ。


『いや、警戒は良いんだけど。何でさっきから二人の方だけ見ないのかなって』

「…………偶々だろ」


 随分と答えるのに間があった。

 

「おい、オルガってば!」

「っ!」


 顔も向けず、碌な返事もしないオルガに業を煮やしたイオが、川から上がってオルガの前に回り込む。

 未だ未成熟なイオの身体はどこもかしこも細い――しかし決してひ弱には見えないしなやかに鍛え上げられた肉体だ。

 腰に手を当てて仁王立ちしながらイオはオルガに苦言を呈した。

 

「さっきからお前態度悪いぞ。ずっとオレ達に背中向けて。水着持って行こうって声かけられなかったからって不貞腐れてるのかよ」


 確かに。オルガだけは声をかけられなかったので水着の準備は無い。

 尤も声をかけられていたら用意していたかと言えば――それも疑問だ。

 恐らくオルガは声をかけられていても今の状況は変わらなかっただろう。

 

「いや、不貞腐れてなんかない」


 そう言いながらもオルガは視線を逸らす。

 少しイオから距離を取る。

 

 その動きにマリアは益々眉根を寄せる。何とも、オルガらしくないと思ったのだ。

 良くも悪くもオルガは前に出るタイプだ。

 誰かを護りたい。

 誰かを助けたい。

 

 その言葉を現実にする為に、己の事を顧みずに誰かの前に立つタイプだ。

 行動原理の細かい所は分からないが、少なくとも大筋ではそうだとマリアは見ていた。

 

 そのオルガが、戦闘以外とは言え今自ら退いたのだ。異常事態と言ってもいい。

 

「えっとオルガさん。先ほどから思っていましたが、顔色が……少し赤いです。もしかして日差しにやられたのでは」


 イオに水をかけられて、髪を濡らしたエレナがオルガの方へ歩み寄ってくる。

 その雫がイオとは違い成熟した曲面を描く肢体を流れていく。

 水滴の流れを思わず目で追ってしまったオルガは、更に視線を逸らして後退る。

 

「いや、本当に大丈夫だから!」


 怪しい。

 イオとエレナの視線がオルガに突き刺さる。

 エレナの言う通り、熱中症にでもなったのかと疑う程にオルガの顔は赤い。まるで熟した果実の様。

 

『んん? んんん?』


 そんなオルガを、ふわふわと浮いたマリアが怪訝そうな顔で見つめる。

 そのマリアへ、オルガが視線を合わせた。

 口元だけが動いて、マリアだけに意思を伝えてくる。

 

 ――た・す・け・て。

 

『ああ。なるほど』


 その口パクでマリアは理解した。オルガのこの態度の訳を。

 

『要するに……恥ずかしいのね、オルガ』


 小さく、オルガは頷いた。

 

 何時か。オルガはイオに言った。

 

『身近に女の子なんて殆どいなかったんもんで今一どういう扱いをすればいいのか分からない』


 つまりはそういう事だ。

 イオとエレナの水着姿は女の子慣れしていないオルガには少々刺激が強かった。

 それこそ直視を躊躇う程に。

 

『でもオルガ? 私、貴方と出会った時とか全裸だったと思うけど。何で水着でそんなに恥ずかしがってるのよ』


 全く見知らぬ他人と、それなりに話すようになった相手とでは感じ方が違うだろうとオルガは言いたい。

 あの時のマリアは得体のしれない侵入者。だからそこまで気にならなかったというか気にしなかった。

 

 だが今回は違う。

 言葉を交わして、普段は制服やら戦闘着やらを着ている相手が素肌を晒している。

 そこに何も感じない程オルガは一般的な感性から逸脱していなかった。

 

 それを理解しているのかいないのか。

 徐にマリアも己の服装を二人の様な水着に変えた。

 

 いよいよオルガは三人の居ない方向へと身体ごと向き直る。

 

『……なるほど。今はもうダメなのね。ごめんごめん』


 学院の制服に着衣を戻してマリアは手のひらを合わせながら笑う。

 揶揄う様なニュアンスは含まれていないが、謝意に満ちているとも言えない謝罪だった。


水着回だがしかし、オルガが視線を向けないので碌に描写されない。

エレナは揺れてる。イオは揺れてない。マリアは無い。

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― 新着の感想 ―
[一言] たゆん・ぺたん・ストーン
[一言] マリアは無い、無い、な……い……(。´Д⊂)
[一言] >マリアは無い 悲しいなぁ…
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