04 スリーマンセルデビュー
「よし、このクエスト受けるぞ」
とある日。
三人での連携練習も進み、オルガの謎の反復横跳びも益々キレを増してきた頃。
唐突にオルガがそう宣言した。
「クエスト、ですか」
「おいおい。オルガ。相談も無しにいきなりかよ」
エレナは己の聖剣を抜いて。
イオは鉄剣で自主練をしているところにオルガが持ち込んだそのクエストに各々反応する。
「隊長命令だ」
ちょっと得意げな顔をしてオルガがそう言うとイオはわざとらしく顔を顰めた。
「うわっ、見たかよエレナ。こういう奴に権力持たせちゃいけないね。絶対パワハラとかするぜコイツ」
「まさか……オルガさんは優しい人だって知ってますから。これもきっと人助けの為ですよ」
『エレナちゃんの信頼が重いわねえ』
すみません。そこまで年中人助けは考えてないですと、オルガは無性に謝りたくなる。
とは言え、今回は幸いエレナの言葉は当たっていた。
「……ワニ?」
「ワニだ」
「ワニってあのワニですか? 四本足で水辺に棲む」
「そのワニだ。近くの川に出たらしい」
「ワニってそんな感じで出没する生き物だっけ?」
「知らん」
要するにワニ型の魔獣が川辺に住み着いてしまったという話であった。
幸いにもまだサイズは小型。
十分に候補生たちでも対応可能だと判断されて学院のクエストとして受理されたらしい。
「水棲型の魔獣は討伐めんどいぞ?」
「そうですね……私たちの攻め手として特段有効な物は無いかと。イオさんが『かいまくぶっぱ』とかで水場を蒸発させて良ければ」
「エレナ、それナイスアイデア」
「却下だ却下。場所を見てくれ」
そう言うとエレナは疑問符を浮かべていたがイオは思い至ったらしい。
「ああ。ここあの川か!」
「そうだよ。俺達が釣りして坊主だったあの川だ」
「お二人で楽しそうな事してたんですね……」
一人仲間外れにされたエレナが唇を尖らせた。
まだエレナが小隊に入る前の話なので大目に見て欲しい。
イオが今度行こうぜと慰めていた。
「その川にワニ型魔獣が住み着いて困ってるって言う依頼なんだよこれ」
「あー確かにあの辺で釣りしてたおっちゃんたち困ってそうだよな」
「つまり、人助けですね、オルガさん!」
何故か目を輝かせているエレナにオルガは控えめに頷く。
『まあ実際、オルガはちょーっと前が見えなくなるくらいに人を護る事が好きみたいだしエレナちゃんの認識も間違っては無いわね』
マリアの揶揄う様な言葉にオルガは肩を竦める事で返事とした。
「ま、あの時魚貰った恩もあるしな……それにオルガが隊長として見つけて来たクエストだし」
隊長の所を強調しながらイオがニヤッと笑う。
「付き合ってやるよ」
「私は何時でも大丈夫です!」
「それじゃあ明日にしよう」
既に昼近いこの時間帯から学院の外で魔獣の探索から始めるのは厳しい。
見つけた頃には日暮れで仕切り直すくらいならば明日の朝から探索した方が効率がいい。
「オッケー」
「クエストですか。久しぶりですね」
「エレナには物足りないかもしれないけどな」
中型魔獣を狩ってきたエレナからすれば群れでもない小型魔獣の討伐など退屈かもしれない。
そう思って言うとエレナは首を横に振った。
「……あれは少々背伸びが過ぎました。あんな体当たりみたいな戦い方はダメですね」
実際、エレナの聖剣でなければ数回は死んでいるような戦い方だったのだから、オルガも頷くしかない。
「なあオルガ。ワニって食えるんだっけ?」
「食った事は無いけど……食えるんじゃないか?」
「そうか。食えるのか」
コイツ、ワニ食べる気か……? と戦慄しながらオルガはイオを見る。
流石にオルガもワニは未経験だ。トカゲはあるが。
そうして翌日。
制服よりも戦闘着を着ている時間の方が長いんだよなとオルガは思いながら二人の到着を待っていた。
「遅いな……」
『女子の支度には時間がかかるものよ』
「いや、今までそんなこと無かっただろ」
『そう言えばそうね』
コイツ、また適当な事を言いやがって……と思いながらもオルガは少し抱いていた疑問を口にする。
「そう言えばマリアって最近ずっと学院の制服だよな」
『え? ええ。そうね』
「他の格好しようとか思わないのか?」
『ぶっちゃけオルガしか見てないしねえ。お洒落のし甲斐が無いというか』
ぶっちゃけられた。溜息もセットで。
『着飾ってもオルガのセンスじゃ碌な誉め言葉が出てこなさそうだし』
「いや、それは流石に舐め過ぎだろ」
『ほー? じゃあこれは?』
ふっとマリアの格好が制服から戦闘着に変わる。
「強そう」
次に何時ぞやのワンピース。
「ひらひらして動きにくそう」
学院内で偶に見かける、使用人が来ているメイド服。
「防御力が低そう」
『ほらね』
「待ってくれ……もう一回チャンスをくれ……」
流石にオルガも自分の解答が落第だという事には気付いた。
頭の中が完全に戦闘力に関する評価になってしまっていた。
「今度はちゃんと服について感想言うから……」
『しょうがないわねえ。じゃあこれ』
何だかオルガには理解できないフリルたっぷりの膨らんだスカート姿。
拘束着みたい――と言う言葉が口から出かけてそうではないと思いなおす。
そう、単にこの格好が似合っているかどうか。それだけを言えば良いのだ。
その意味ではマリアの今の格好は――。
「可愛い」
「ひえっ!?」
おや、とオルガは思う。マリアじゃない声がした。
何故と思っているとマリアがくすくす笑いながら移動した。
スカートの影になっていた場所から驚いた顔をしたイオが現れた。
「な、なんだよオルガ。いきなり可愛いとか……その……背筋がゾワッとしたぞ」
怖気が走るほどだったらしい。寒気を堪える様に己を抱くイオ。
絶対コイツの事は褒めてやらねえとオルガは心の中で誓いながら取り合えずの言い訳をする。
「あーいや。ちょっと考え事をしてただけだ。うん」
「何だよ。びっくりさせんなよなもう」
イオの頭上で腹を抱えて笑うマリアを睨みながらオルガは口だけで言う。
この性悪、と。
オルガはボキャ貧