03 1か2か
「それでエレナだけど」
うーんとオルガとイオは頭を悩ませる。
「えっと?」
「いや、エレナを前衛配置した方が戦術の幅が広がるんじゃないかと」
先日は回復役として頼む! と言った物の、彼女の正統派な剣技を後衛で腐らせるのは惜しい。
「悩ましい所だよなあ」
単純な話として、オルガ一人が前衛では相手の人数次第では抑えきれない可能性は高い。
後衛を厚くしても前衛が支えきれなければ意味が無い。
『オーガス流は基本的に一人を相手にした剣なのよねえ』
などとマリアはぼやいているが、まさしくその通りである。
少なくとも今まで伝授された技で、多数の魔獣へ有効打を与えられそうな技が無い。
魔獣の群れを狩るには向いていないのだ。
聖剣でもない只の剣で複数を同時に斬れるかなど論ずるまでも無い。
「でしたら、私も前衛で。お気遣いは無用です」
痛いのが嫌だと、そう言ったことを気遣っているのならばそれは無用な物だとエレナは言う。
彼女とて聖騎士を目指してここに居るのだ。
例え涙を流したとしても、逃げ出すという選択肢は取らなかったのだ。
「お二人でしたら、私一人だけを先に行かせたりはしないでしょう?」
前の隊を思い出したのか。少し寂し気にエレナがそう言うと二人は揃って首を縦に振る。
「寧ろ、俺は着いてこれないなら置いて行くくらいのつもりだぞ」
「オレも。自分で切り開くために来たんだぜ?」
そう言ってイオは笑う。その笑みを見てエレナも表情を明るくした。
こうして二人が笑っているのを見てるだけで、オルガは――。
『うーん。こうやって可愛い子達が楽しそうにしているとそれだけで助けた甲斐がある……そうは思わないかしらオルガ』
マリアの言葉に、小さく頷く事で返す。
別に、二人が可愛いかったから助けた訳じゃないが、と心の中で付け加えながら。
「ただな。俺一人だと勿論だけど……エレナと俺の二人が前に上がるとイオが孤立するんだよなあ」
「あ、なるほど……」
気遣いだけが理由ではないというオルガの言葉にエレナは少し頬を染めた。
「でもよ。そこは考えてもキリ無くね? 向こうがどう出るか何て都度変わるんだからさ」
イオの言葉も尤もなのだ。
特に小隊戦を考慮するならば、オルガが孤立していたらオルガを狙うだろうし、イオが孤立していたらイオを狙うだろう。
魔獣だって集団で狩りをするような獣を元にしているならそれくらいの事はしてくるだろう。
「それでしたら私は遊撃、でしょうか。状況に応じて適宜上がったり下がったりと」
「ああ、そっちのが良いのか」
「いやいや。待てよオルガ。だったらオルガがそうした方が良くね? 前衛の安定感って意味だとエレナの方があると思うぜ」
うーんと三人で首を傾げる。
『悩んでるわねえ』
マリアにはきっとマリアなりの答えがあるのだろうが、それは口にせずに議論するオルガ達を楽し気に見ている。
最終的にオルガ達が出す答えを信じているのか。或いは取り返せる失敗も経験と思っているのか。
「<オンダルシア>の治療能力を考えると、私がお二人の元に動けるようにしておいた方が隊の継戦能力は上がると思いますが……」
「そうか。そう言えばそれもあったな」
戦闘中に傷を癒すことが出来る。前衛だからと言って回復をしてはいけないという法は無い。
それを考えればエレナが基本的に動き回る方が良いのだろうという結論が三人の中で一致した。
「じゃあ俺が前衛。イオが後衛。エレナは基本前衛で適宜ポジションを変える遊撃、と」
「こんな所か?」
「分かりました」
小隊は最大で四人。つまりあと一人加入させることが出来るわけだ。
「もう一人いれば戦術も枠を広げられそうなんだが」
「今一人でいる奴なんているかあ? そう言う奴って一人を選択した奴じゃね?」
「いえ、分かりませんよ。誰からも誘われなくて一人になってしまったという方もいるかも……」
「うわっ、何か切ないな、それ……」
『っていうかオルガもイオちゃんと出会って無ければそうなってたんじゃないかしら』
「……だな」
一応のフォーメーションが決まって雑談を始める三人と一人。
その体勢にも性格が出ている。
イオは地面の上に胡坐をかいているし、エレナは足を横に崩している。
マリアは俯せになりながら宙に浮いているし、オルガに至ってはそもそも座っていない。
「仮に四人目入れるとしたら……どんなポジションが欲しいよ?」
イオのその言葉にオルガは考える。
「……やっぱり中距離を攻撃できる様な聖剣の持ち主じゃないか?」
「そうですね。私も同意見です。オルガさんとイオさんの間に立ってどちらにも睨みを利かせられる能力の持ち主……」
イオが遠距離攻撃を行う一撃重視ならば。
求められる四人目は一人で広範囲をカバーできる攻撃を行える誰かという事になる。
「……そう言うの出来るのって大体高位の聖剣だよな?」
「えっと、そうですね……」
「俺も少しは覚えたぞ……大業物以上だろ」
果たして大業物以上に選ばれた候補生は何人いるのか。
少なくともここに災浄大業物と言う激レアが一人いるのだが。
「……いねえだろうな」
「そんな都合の良い奴いないな」
「き、希望を捨ててはダメですよ!」
そんな都合の良い人材がいたら是非ともお目にかかりたいとオルガは思った。
「……所で」
ふとエレナが思い出したように口を開いた。
「すっかり聞きそびれてしまったのですが……どちらが小隊長なんですか?」
その問いに。オルガとイオは。
『コイツ』
と声を揃えてお互いを指差した。
相手の言動に思わずと言った様子で顔を見合わせる。
「いや、イオだろ? そもそもお前が誘ってきたんじゃないか」
「いやいや、オルガだろ。小隊の方針決めてるのお前じゃんか」
え? とお互いに首を傾げる。その様子をエレナは苦笑して眺める。
「お二人とも相手がリーダーだと思っていたんですね……」
「小隊戦の時だってお前がリーダーやっただろ?」
「あれは小隊戦の時の作戦上だろ?」
むむ、と互いに睨み合って。互いに目を見開く。
「最初はグー!」
「ジャンケンポン!」
オルガはグー。イオはパー。
「はい。オルガがリーダーな」
「クソっ……」
「そんな雑な決め方で良いんですか……?」
非常に雑な方法で、この小隊のリーダーはオルガに決まった。
エレナは仲間が居ると頑張るタイプ