02 隊のこれから
「……何となく?」
少し悩んだ末にオルガが出した結論は誤魔化すという物だった。
やはりマリアの事を抜きに説明するには無理があるし、かといってマリアについて説明するのも難しい。
例えばオルガが目を閉じている間にイオがしていた事を当てればとか考えたりもした。
だが、それで証明できるのはオルガが見えていない状態でも見えることが出来ることであって、姿の見えない第三者の証明ではない。
無論、それをとっかかりには出来るだろうが……やはりマリアの存在を信じさせる事は難しいと感じた。
霊力云々は最早オルガ自身どうやって説明すればいいのか分からない。
オーガス流剣術と言う名自体はイオも知ってはいるが、まさかそれが剣の強化までしているとは思っていないだろう。
そうなるとオルガとしては全部誤魔化す方向に行くしかない。
とは言え、これで納得してくれるかどうか。そこがオルガにも疑問だった。
『思いつく限りで一番不誠実な解答ね』
そう思うならカバーストーリーを考えるのを手伝って欲しいとオルガは思った。
「何となくか。何となくなら仕方ないな」
「それで納得してしまうんですね……」
「いやまあ、オレも何か誤魔化してるなーとは思うけどさ」
バレバレだったらしい事にオルガは冷や汗を一筋流した。
「逆に言えば言いたくないか言えないって事だろ? それを態々掘り返しても良い解答期待できねえし」
「べ、別に誤魔化しては無いぞ?」
「はいはい」
「お二人は……本当に仲良しですね」
しみじみと、エレナがそう言うとオルガが得意気そうに。イオが煩わしそうに言う。
「まあな」
「そうでもないぜ?」
二人して顔を見合わせた。
「照れてるのか?」
「照れてねえよ」
どうも、他人から仲が良いと言われる事には抵抗感があるらしいイオをオルガはからかう。
その様子を見てエレナがころころと笑った。
「そう言うところですよ」
「まあこの自称仲良しのオルガが教えてくれない位だからな。きっとさぞかし重要な秘密なんだろうよ!」
「そう言われるとな……」
ただ現実問題として。オルガがオーガス流について伝えたとしてもイオが使えるかどうかは別の話だ。
マリア曰く。オルガ以外の人間は軒並み霊力が少ないらしい。
オルガでオーガス流を扱うのに合格程度らしいので、それよりも少ないとなると怪しい所だ。
そもそも最初の切っ掛けとなる自身の霊力の知覚もオルガには手伝えない。
等々言い訳は幾らでも出てくるが、やはり一番はイオを信じ切れない。
学院に入学して早一月半。一番の付き合いだが、姿の見えないマリアの存在を信じて貰えるかどうか。
目に見えない何かを見えると言って、疎遠になるのも嫌だ。
そう思うくらいにはイオとの友人関係を大事に思っていた。
同時に、自分のいう事を無条件に信じてくれるほどの信用は築けていないとも割り切っていた。
更に付き合いの浅いエレナに対しては言うまでもない。
「それよりもさっきエレナが気になる事を言ってたよな。聖剣との対話とか」
話を逸らす意味も含めてオルガが話題を変えた。少し気になっていた所ではあるのだ。
聖剣って喋るのだろうか。
『いやいや、確かに私たちの頃も剣と対話するのだ……とか言ってた奴らいたけどね。普通剣は喋らないかな!』
「はい。聖剣に宿る意思との対話です」
『嘘お!? 幻聴じゃなくて? 剣が喋るなんて常識的に考えて有り得ないわよ!』
幽霊と言う非常識な存在が常識について説くのは面白いなと思いながらオルガは会話を進めた。
「意志があるのか。聖剣に」
「えっと、はい。意志と言っても何となくこう思ってるかな? 程度の物ですが。少なくとも<オンダルシア>は私が呼びかけると反応してくれます」
「俺の<ウェルトルブ>はうんともすんとも言わねえんだけど」
人によって……もとい剣によって違うのか。
少なくともイオの<ウェルトルブ>は寡黙な質らしい。
『寡黙な質ならぬ寡黙な太刀……なんちゃって』
声だけでは分からないが、何となくくだらない事を言っているんだろうなとオルガは思った。
コイツ、基本的に剣技に関して以外はポンコツだからなあとエレナの頭上で浮いているマリアを優しい目で見る。
『ちょっと一番弟子。その視線をやめなさい。やーめーなーさーいー』
「んで、エレナはどんなことを対話したんだ?」
「そう、ですね。確か私は痛いのが嫌だとか。そんな話をしました。そうしたら……聖刃化が出来るように」
「痛いのが嫌だって言ってあの能力はちょっと趣味悪く無いか……?」
<オンダルシア>の聖刃化は痛みは消せない不死性だ。
少なくともエレナの言葉を叶える気は無いように思える。
「そこは、私も不思議ですね……?」
「つまりあのカスタールの糞野郎も剣と対話してたのか……? 何かアイツの柄じゃねえな」
「やめろイオ。ベッドの上で剣に話しかけてるアイツを想像すると笑いそうになる」
「ふはっ! やめろオルガ! 笑わせるな!」
「ダメ、ですよお二人とも。そんな風に言うのは」
そう諫めるエレナも声が震えている。
まああの風貌で剣に話しかける様な可愛げがあったらそれはそれで驚きだ。
「後はそうですね……聖剣その物の力も多く引き出せるようになった気がします」
「なるほどな。っていうか学院はこういう事教えて欲しいよな! 聖剣の扱いについて何てここでしか学べねえだろ」
イオの言葉にオルガも確かにと頷いた。
てっきり体系化しているのかと思っていたが、聖剣に関しては驚くほど座学が少ない。
いや、むしろ聖剣を扱う聖騎士を養成するための機関としては異常な程、聖剣に関する講義が無い。
個々人に任せきりになっている風ですらあった。
「聖剣はそれぞれ性質が違いますから……画一的な教育が難しいのでしょうか」
「確かに今の対話もオレには当てはまりそうにないけどさ……」
『っていうか私としては聖剣って何なのよ、って所から突っ込みたいわよ。どっから生えて来たのよこれ』
聖剣とは何なのか。
業物、数打ちは今も鍛冶師たちが生涯をかけて一振りを打つという。
ならば大業物、災浄大業物は? 鍛冶師一人が生涯をかけて打つ剣よりも更に高位の物。一体どうやって作られたのか。
「教師に聖剣について質問しても自分で調べろ、だもんな」
「結構放任何だな」
「ちゃんと教育した方が強くなると私は思いますけど……」
まあただオルガとしては恩恵を受けられる物では無いのでほどほどにしておいて欲しいというのが本音だ。
そう言う意味では今の教育体制はオルガにとっては都合がいい。
聖剣を持たないオルガからすれば、そんな物講義を受けても時間の無駄にしかならないのだから。
「まあ今日から毎晩声かけてみるぜ」
「ベッドの上で?」
「んふっ」
「やめろってオルガ。エレナが苦しそうだろ」
何やらツボに入ったのかエレナが苦しそうにしていた呼吸を整えて本題に入る。
「そんな訳でオレはまともに他の奴らと打ち合えないからな。やっぱり後衛か?」
身体強化も剣の強化も無いイオが聖剣使いと打ち合うのは最早自殺行為だ。
「……だな。イオには<ウェルトルブ>を溜めて重い一撃を打ち込んでもらう様な形になるのが良いと思う」
一気に解放された霊力は最早遠距離武器だ。
柱の様に振り下ろされる力の塊は多少の距離など物ともしないだろう。
「んでオルガが前衛と」
イオが地面に剣先でフォーメーションを書いて行く。
最初に各々自主トレをしていたが、これが今日の目的。
それは三人で隊の陣形を決めて、それに基づいたトレーニングを考えようという物だった。
マリアはブーメランが特技