48 いざ次のクエストへ
「どうするか、ですか?」
「いや、オルガから聞いたけど……痛いの辛いんだろ?」
ちょっとだけ、怒った様な顔をしてエレナはオルガを睨んだ。
「あの、オルガさん」
「はい」
「口止めしたわけじゃないですけど……あんまり人に言いふらさないで下さい……恥ずかしいです」
「すみません。イオにしか話して無いです」
『やーいやーい。怒られた―』
マリアのからかいの言葉は無視して。
「ですが、小隊に入った以上我儘は言えません。例え相手が中型魔獣であろうと支えきって――」
「良いって良いって。どうせオルガが前衛やるし」
まあ、イオと二人の時は、オルガが大概前衛だった。
だからその配置に異論は全くないのだが。
「勝手に決めるなよイオ」
「やらねえの?」
「やるけど……」
痛いのは辛いと泣いている相手に任せようなんて思えない。
例え本人がやると言っていてもだ。
泣いている女子を盾にして何も感じない程オルガは人間性を捨てていない。
「なら良いじゃん」
「あの、私は本当に構いませんので……」
「いやいや寧ろエレナには唯一無二の回復役として小隊を支えて貰いたいぜ」
「そうだな。そっちの方が全体の底上げになる。」
聞けば、聖刃化していないとあの不死身の様な再生能力は無く、聖刃化してしまうと他人の回復は出来ないらしい。
前衛という役割はオルガでも出来る――と言ってもあの無敵っぷりからすると大分格は落ちるが――ので、他を補いたい。
それはオルガも同感だった。
それに、エレナは前衛としては強すぎる。
それに頼り切ってしまえば小隊としては兎も角オルガ個人としては成長が止まってしまう怖さがあった。
「……分かりました! 私がお二人を支えて見せます!」
「頼もしいな」
「よろしく頼むぜ! 細かい所はまた今度決めようぜ」
一先ず超暫定ではあるがメインはオルガが前衛という事になった。
後は――。
「固めの杯でも交わす?」
「そんな儀式を……?」
「やったことねえだろ。適当言うなイオ」
「いや、せっかくだし何か小隊として一致団結する様な何かをしたいなーって思ってよ」
確かに。これからも組んでいくのならば一体感を高める何かをしたいというイオの言葉も一理あった。
『そうねえ。私たちの時は……旗印を決めたりしたわね。皆でお揃いのマークを身に付ける物の中に忍ばせたり』
意外とマリアからまともな意見が出てきてオルガは少し驚く。
旗印を決める。名案だと思ったが――。
「悪くねえけどよ……今この場でパパっと決めるのも何か違くね?」
「えっと、はい。私もそう言うのはじっくり考えた方が良いと思います」
「そっか……そうだよなあ」
『確かに。二週間は考えたわね』
それじゃあ……とイオは考えて。
「そうだ!」
何やら思いついたらしい。
「一緒に風呂に入ろう!」
「よし。却下だ」
コイツ、俺が男だという事を忘れているのではないだろうか。
或いは自分が女だという事を。
会ったばかりの頃性別を間違えた事で文句を言われたが、多少は本人も言動に気を遣って欲しいとオルガは思った。
「別にオルガは良いんだよ、今更親睦深めなくても。オレとエレナで親睦深めるから」
「え? ええ?」
「ほら、行こうぜエレナ。オレお風呂好きなんだよね。小隊戦で汗かいたし、背中流しっことかしようぜ! 憧れだったんだー」
何やらテンション高く、イオはエレナの背を押して寮への道を急ぐ。
その勢いに押されながら、エレナはオルガの方へと振り向いた。
「えっとオルガさん!」
「はい」
「ありがとうございました!」
お礼の言葉と一緒に流されていくエレナと、流していくイオ。
二人に手を振って見送って。
『良かったわね。エレナちゃんを護れて。彼女もそれなりに喜んでいるみたいで』
「喜んでたのかな。あれは」
『私にはそう見えたわよ』
「なら良かったんだけど」
その内心まではオルガにも分からない。
余計な事をしてと思われなかっただけ良かったのか。
『……ところでオルガ気付いてる?』
「何を」
『私の見る限りで、この学年で強い聖剣を持っていたのはエレナちゃんとあのカスタールの二人。オルガはその二人を下した』
「それが?」
カスタール、エレナと言う一学年の中でも聖刃化を体得し、間違いなくトップクラスだった二人。
その二人を立て続けに下したことでオルガは嫌でも注目を浴びる事になる。
だけどオルガは余りにその事に対して無自覚であった。
『カスタール一人ならまぐれだと思われたかもしれない。或いは、噂程では無かったって思ってくれるかも』
事実、カスタールを倒したからと言ってオルガはそれほどに注目を浴びたわけではなかった。
周りの声も、思った程カスタールは強くなかったという評価だった。
『でも二人目。しかもエレナちゃんは中型魔獣と言う分かりやすい功績もある』
それも二体。
それは他の候補生たちにとっても分かりやすい、エレナと言う候補生の力だった。
『評価点はそれほどじゃない。でも、間違いなくオルガは強いって周囲からも認識された』
そうなるとどうなるか。
『狙って来るわよ。自分を高めるよりも足を引っ張ろうとする陰湿な連中が』
心が折れて諦めるではなく。
高みへ上り詰めるでもなく。
己の場所まで引き摺りこむ。
そんな連中のターゲットにされるかもしれないとマリアは懸念していた。
「構わない。どうせ、そいつらも全員最終的には蹴落とさないといけない相手だ」
学院を卒業できるのは十名前後。
小隊で言えば2つか3つだ。
それ以外の候補生たちは――候補のままで終わる。聖騎士には成れない。
オルガにとっては今小隊を組んでいる面々以外は全員この三年で乗り越えるべき壁でしかないのだから。
「だから、これからも指導頼むよ。師匠」
『もう。こういう時だけ師匠呼ばわりして』
呆れた様に。怒った様に。でも嬉しそうに。
師匠と言う言葉に複雑な感情を見せながらマリアは笑った。
『良いわよ一番弟子。貴方を強くしてあげる。貴方の願いが――護りたい人を護るという願いを叶える日まで』
「そして、マリアの最期を知る時まで」
『……ええ。私を、私の終わりまで連れて行って』
何時か。二人の願いが叶った日。
それは同時に二人の関係の終着点でもあるだろう。
来るべき別離に向けて、二人は歩き続けている。
フォーメーションは多分コロコロ変わる。
これで一章が終了です。ブクマ、評価、感想お待ちしております。
2章からは一日一話ペースになります。