47 新しいメンバー
『凄いわよオルガ。良く二回に一回の一回を最初に持ってきたわね』
「……上手く行って良かったよ」
オルガの陰陽・封神突きは、マリアの言う通り二回に一回程度の成功率でしかない。
成功してよかったとオルガは心の底から思う。
失敗していた場合は……どうなっていたか。
「何だ、そっちも終わったのかよ」
「イオ。まさかお前……勝ったのか?」
「何でそんなに意外そうなんだこのヤロー」
良くも悪くもイオの聖剣<ウェルトルブ>は一発屋な気質のある剣だ。
溜め時間を稼げる前衛がいる時ならば兎も角、自分一人だけとなった時は聖剣など無いも同然でしかない。
そんな状態のイオが聖剣を持った相手に勝てるとは正直思っていなかった。
「まあ運が良かったよ。最初に二人ぶっ倒せたし」
「相変わらず一発目は凄いよな、イオの聖剣……」
だが確実に仕事をしてくれる頼りになる相棒だとオルガは思った。
――その相棒を二分の一と言うギャンブルに巻き込んだ事には申し訳なく思っている。
「嘘よ……! エレナが負けるわけがない!」
どうにか意識を保ったままのブランがヒステリック気味にそう言う。
そこはただ負けを認められないというよりも、エレナの強さに対して妄信めいた物がある様に見えた。
「だってアナタは強い! こんな聖剣も持っていない奴に負けるはずがない!」
「ブラン様……」
オルガに斬られて不揃いとなった前髪を見て、ブランが息を飲む。
「申し訳ございません。負けてしまいました」
「嘘よ……嘘。こんなのって……」
「そして重ねて申し訳ございません。私は今、負けてブラン様の小隊から離れる事に安堵しています」
そんなブランにイオが呆れた様に言う。
「そりゃ保健委員は強いけどさ。お前ら三人がもっとちゃんと援護してればオレ達の勝ちは無かったと思うぜ?」
それに関してはオルガも全く同感だった。
オルガはエレナに専心して漸く互角。
もしも一人でもイオを突破してオルガの妨害に走る者が居たら。
この結果は無かったと断言できる。
そもそもそんな者がいないからこそ、オルガ達がこうして勝負を挑むことになったのだが。
「だって、エレナは私達よりずっとずっと強くて。助け何て必要なくて……」
『ああ。この子はあれね……心が折れてしまってる。同じ人間を、別の何かだと思ってしまっている』
マリアの言葉に少しオルガは納得した。
ブランはエレナだけに戦わせていたが、それはエレナに対する悪意だけではない。
自分達程度では追いつけないという諦念。それが根っこにあったのだと。
それがエレナに対する扱いを正当化する物では無い。
ただ、隣に立つことを諦めてしまった。
そんな悲しい末路がこれだった。
「小隊戦前の取り決め通りだ。エレナはウチの小隊で貰っていく」
オルガのその言葉に。ブランは何事か反駁しようとして口を開きかけて。
何度か声にならぬ言葉を発しようとして、しかしその全てを飲み込んだ。
「お世話になりました。ブラン様」
「……アナタは一人で行ってしまうのね」
そんな恨み言めいた言葉にエレナは困ったように笑う。
「でも、先に歩くのを辞めてしまったのはブラン様だったんですよ?」
エレナをここまで追いつめて一人にしてしまったのはブランの方が先。
隣を歩いていたのにいつの間にか歩みを緩めて後ろに行ってしまって。
気が付いたら足を動かすのをやめて、遠い場所にうずくまってしまった。
その言葉に今度こそブランは黙った。
学院一年生の中で一番最初の小隊戦はこうして終わった。
「ブラン様とは、幼い頃からの友人でした」
寮へと向かう帰り道。
エレナがオルガとイオにそう語る。
「ブラン様の方が家の格は高くて。でもそんな事はあまり気にしない方だったんです」
「何か、こう」
「意外だよな」
オルガとイオがブランと言う人間に接した回数はそう多くはない。
その少ない回数が悪印象を持つには十分すぎたため、どうしてもマイナスイメージがついて回る。
てっきり。家の格を盾にしているような奴だと思っていた。
「良くも悪くも、気にしない方なんです。ただ、私の方が気にしすぎているだけで。だからあの人が言った言葉に振り回されてしまって」
困ったように、エレナが笑う。
「……きっと私も悪かったんです。嫌だって言えば。きっとブラン様は無理強いはしなかったのに」
それに、と続けた。
「ああは言いましたが最初に置いて行ってしまったのは私です」
聖刃化を身に着けて。
一足飛びにエレナはブランの手の届かない場所に行ってしまった。
それは才能だろうか。
天からの贈り物だろうか。
どちらにしても、ブランはエレナに追いつけないのだと心を折ってしまった。
自分とは違う存在だと線を引いてしまった。
『持つ者の宿命ね』
その持つ側の人間であるマリアがしみじみとそう言う。
『どうしたって何時か、他人とは違うんだって分かる時が来る。その時にそれでも前に進むか。歩みを緩めるか――どっちが正しいとも言えないわ』
エレナはもしかしたら待っていたのかもしれない。
ブランがもう一度隣に来てくれるのを。
だけどオルガ達がそのもしかしたらあったかもしれない機会を奪ってしまった。
今回の戦いに後悔はないけど、ほんの少しだけ罪悪感はあった。
「だからあんまりブラン様を嫌いにならないで上げてください。あの人、結構打たれ弱いんです」
「まあ……保健委員がそう言うならそれで良いけどよ」
とは言え向こうもオルガ達の顔など見たくは無いだろうから、当分接点は無いだろうけど。
少し事情を知った今としては、余りブランの事を強く言えない。
何故ならば、あれは未来の自分の姿かもしれないのだ。
強い才能に心を折られて。
立ち止まってしまう凡人の姿。この学院に入学した大多数が何れ至る姿だ。
そんな相手に追い打ちをかけるような真似は出来ないだろう。
「んで、保健委員は――」
「あの……イオさん。その保健委員って言うの出来れば……」
「あ、そうだな。わりい。エレナで良いか?」
「はい」
名前を呼ばれてエレナは嬉しそうに笑う。
そこでふとオルガは思った。
「……俺お前に呼び方それで良いかなんて聞かれたこと無いんだけど」
普通にいきなり呼び捨てだった。
「え。そりゃあほら。エレナは年上だしある程度敬意を払わないと」
「待って。俺も年上だと思うけど? っていうか敬意なかったのかよお前」
「おっと、バレちまったぜ」
わざとらしく口を塞いで見せるイオ。
その様子を見てエレナが楽しそうに笑みを浮かべていた。
「二人とも、仲が良いんですね」
「そうか?」
「おいおい、俺達は仲良しだろ?」
「きめえ」
ちょっとオルガは傷付いた。
「んで話を戻すけど……エレナはどうするんだよ。うちの小隊で」
ブランは昔は劇場版ジャイアンでした。今はテレビ版に卑屈さとか色々ミックス