41 ベット
「小隊戦? 何であたしらがそんな事しないといけないわけ?」
「興味ないんですけどー」
「……そう言う訳だからさ、帰ってくんない?」
案の定と言うべきか。
ブラン達には取り付く島が無い。
「まあ待て。話だけでも聞いておいた方が良いと思うぞ?」
「別にアンタらからちっぽけな点数を奪ってもあたしらとしては手間ばっかで得が無いんですけど」
「600点」
「は?」
「こっちは評価点600点を賭ける」
中型魔獣三体分の点数にブランも眼を剥いた。
黙って話を聞いていたエレナもそれは同様。
「冗談。アンタら二人にそんな点数が無い事は知ってんだよ。空手形で小隊戦は成立しない」
「ところが善意の提供者がいるんだなこれが」
少し得意げな顔をしているイオ。
実際その提供者を用意したのはオルガなのだが、まあその顛末を知れば多少の意趣返しにはなるであろう内容だった。
そこでブラン達は気が付いた。
沈鬱そうな不景気な面構えをした二人がオルガとイオの後ろにいる事を。
「アンタたちは確かカスタールの」
下っ端1と下っ端2である。
哀れ、ボスを失った彼らは困り果てていた。
あのままカスタールについて行けば安泰だっただろうに……今ではすっかり没落コースである。
そこへオルガが追い打ちをかけたのだ。
徹底的に潰す。この後の試験でもずっと狙い撃ちを続けて絶対に俺の手で退学させてやると。
ボスを叩ききったオルガとイオは二人にとっては恐怖の象徴その物だ。
そこでイオが助け舟を出した。
ちょっと大勝負に出るんだけど、評価点が足りそうにない。その手伝いをして欲しいと。
勝負の勝ち負けに関わらず、手伝ってくれたら自分はもうそちらには関わらない。オルガにもそう言って聞かせると。
まるで救いの主の様にイオを崇める姿はオルガも見ていて面白かった。
言うまでも無いが、ここまで込みで全部仕込みである。典型的なドア・イン・ザ・フェイスだった。
「俺達の不足分は負けた時はこいつらから徴収していい」
「はん、それで四対四でやろうって?」
「いいや。戦うのはオレとオルガの二人だけだよ」
二対四は変わらず。
「……何か気に入らないんですけど。こっちに有利過ぎて薄気味悪い」
「そりゃあ、こっちが望むのは評価点じゃないからな」
「は?」
「俺達が勝ったらそこのエレナを引き抜かせてもらう」
自分の名前が出てきたことに肩を震わせるエレナ。
何故? と視線で問いかけてくるがそれには答えない。
その条件にブラン以外の二人が口々に言う。
「は。何。もしかしてあの地味子に惚れちゃった?」
『……確かに。あの胸は男子垂涎だとは思うわね』
マリア、ちょっと黙れ。
「それともアンタ達も結局楽がしたいって?」
「好きに想像すればいい」
ただ単に、泣いている相手が放っておけないなんて。
そんな理由は実際に戦うオルガとイオだけが知っていればいい事だ。
「こっちからの条件は以上だ。十分な好条件を用意したつもりだが?」
「別にあたしらはこんな事しなくても魔獣を狩ってるだけで進級できるんですけど?」
「そうかな? 中型魔獣がこの後も安定的に出て来てくれて。その全てをお前らが独占出来れば別だろうけどな」
その言葉には思うところがあったらしい。
流石に今後全ての中型魔獣の依頼を独占できるとはブランも考えていなかった。
残り十五体。運よく短期間で二体倒せたがこの運が今後も続くと期待するのは虫が良すぎる。
そう考えると三体分の点数と言うのは中々に大きいのだと気付かされた。
「それに、評価点を稼げば周りからも狙われやすくなる」
脅すように。或いは心配するように。
そんな声の調子を心掛けながらオルガはふと思いついたように言った。
「中型魔獣二体討伐と言うのは中々の抑止力だろうけど、有利な条件の勝負から逃げたという話が広まればそれもどこまで効くか」
寧ろ断られたらオルガは積極的にこの話を広めるつもりだ。
かなり手間と時間がかかる事になるがその場合は、他の三人の点数を奪わせることにシフトする。
エレナの実力は本物。だが他の三人は今の評価点に見合った実力とは思えない。
集中的に狙われたら点数はあっという間に奪われるだろう。そうなればエレナ一人を残して他の三人は退学だ。
だが逆にここで、相手を返り討ちにして点数も奪えれば大分余裕が出来る。
対魔獣のみならず、対人であっても戦える。下手に手を出せば点を奪われるだけだと。
「……良いし。その勝負。受けたげる。ただし、小隊戦を行うのは一週間後。あたしらも中型倒したばっかで疲れてるし」
「ああ。それで構わない」
聖剣が霊力で動いている以上、その特殊能力も霊力を使うはず。
聖剣<オンダルシア>の消費は果たしてどれほどか。
短期間で二度も戦ったのだから相応に消耗しているハズだった。
だから一週間後と期間を開けるのはオルガ達にも予想できたこと。
「じゃあ一週間後に」
「退学処理の準備しておきな」
「そっちこそ、お別れ会する時間はやらんぞ」
当然だが互いに勝つ気しかない。負けるつもりで挑む勝負何て有り得ない。
宣戦布告を済ませたオルガとイオは、下っ端二人に解散を命じて作戦を立てる。
「……でもよ。本当にこの作戦で良いのか?」
「ああ。と言うかこれ以外に無い」
綱渡りも良い作戦だなとイオは思う。
オルガも思う。
人数差がある時点で綱渡りになるのは仕方ないのだが。
「つってもよ。保健委員をオルガ一人で押さえるってのはきつくね?」
「そっちも三人を一人で押さえろって話だからな……きついぞ」
小隊戦の基本ルールはリーダーを倒した方が勝ちと言う物だ。
つまり極論、他の三人は無視してもリーダー一人を狙い撃ちにすれば勝ててしまう。
そう言う意味では人数差はある程度覆せる。
「まず間違いなく、相手はエレナをリーダーにしてくるだろうな」
「仮にあのブランとかだったら?」
「その時はもうそいつ狙い撃ちだ」
オルガの朧・陽炎斬りでの不意打ち。初見殺しのその技で一撃だ。
あれを知らずに避けるのはほぼ不可能だろう。
だが最有力候補。最も強いエレナをリーダーとしてきた場合だ。
彼女は自分の意思で今のやり方を辞められないだろう。辞められるならば、あそこで泣いたりしていない。
だからまず間違いなく全力で来る。望んでいない今を守るために。
「オルガをリーダーにして、一対一の勝負に持ち込むか……さっきも聞いたけど勝ち目あんの?」
「そりゃあな。無ければこんな勝負申し込まないさ」
そうオルガは自信満々に見えるように振る舞う。
マリアの呆れた様な視線が痛い。
「それよりも、そっちは三人抑えられるか?」
「そうだなあ……まあ一週間あるし、とりあえずそれで一人は落とすとして……ま、何とかするさ」
イオもそう請け負う。開幕、溜め込んだ<ウェルトルブ>の一撃で一人は落とす心積もりらしい。
一先ず今日は解散としたオルガに、マリアの視線が突き刺さる。
『……本当に無茶を言うわね。修行を繰り上げて欲しいなんて』
まさかの再登場