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38 無駄なんて無い

 どうにもスッキリとしない……もっと言えば苛立ちを抱えながらオルガ達は学院へと戻る。

 本当はもう少しコユキソウの探索を続けたかったのだが、あれだけ荒れた森の中に留まるのは少々怖い。

 

 通常いないような深部の魔獣が出て来てもおかしくない環境では花探しなどしていられなかった。

 

「あー! 何なんだよアイツら!」

「どうどう」

「オレは馬か! オルガだってムカつくだろあれ! アイツら何もしてなかったじゃねえか!」

「まあな」


 あの光景はオルガとしても腹に据えかねる物があった。

 いや、恐らくは二人だけではない。学院に居る聖騎士候補生の大半が不快感を示すだろう。

 

 無論、小隊内で戦力の不均衡が生じることは有る。

 その結果一人に活躍が集中する事は大いにあり得るだろう。

 

 その位ならば不快とまではいかない。

 

 だがブラン達三人ははっきりと言えば聖騎士と言う物を侮辱している様にしか見えなかった。

 あんな、戦いもせずに聖騎士となろうとするなどこの学院の人間全てへの侮辱に他ならない。

 

 自分たちの在り方さえ否定されたようだった。

 

 少し気分を落ち着けるために遠回りをして。

 川辺を歩いた。思えば入学してから校外に出た事は殆どない。

 こうして歩いていても知らない場所が沢山あった。

 まだ夏の暑さが残っているこの季節、水場の冷気で涼を取る。

 

「あーやっぱ水場の辺りは涼しいな!」

「本当だな……気持ちがいい」

 

 歩いているとチラホラと釣りをしている人を見かける。

 

「ここの川魚は美味いって聞くな」

「……へえ」

 

 そう言われると興味が出て来た。元々森で探索する予定だった時間が丸々空いている。

 折角だから挑戦してみるかという事で、釣り竿になりそうな枝を探し始める。

 

『むむ。オルガ。私の大いなる勘によるとこの枝良さげよ』

「勘かよ」

 

 とは言え二人とも釣りなんてやった事が無い。ここはマリアの勘を信じてみようという事で、その枝を折って剣で適当に削る。


「糸は……」


 流石に戦闘着を割くわけにも行かないと思っていると、イオが一匹の蜘蛛を捕まえて来た。

 通常の物より大型化しているのは魔獣化が進行しているのだろう。それならば糸の強度は十分だ。

 

 ただ、オルガはその拳ほどもある蜘蛛を見て仰け反った。

 

「うっ……」

「何だよオルガ。お前蜘蛛苦手なのか?」

「まさか。ただちょっと……嫌いなだけだ」

「苦手なんじゃねえか」


 ほれほれと、顔に近寄らされるとオルガは割と本気の動きで距離を取った。

 

「やっぱ苦手だろ」

「違う。だが蜘蛛型魔獣が出たら俺は逃げる。いや、もしかしたら気絶するかもしれないから後任せた」

「……滅茶苦茶苦手じゃねえか」


 意外なオルガの弱点を知ったイオは、その蜘蛛から取った糸を枝の先に括った。

 

「後は、針か」


 流石にこればかりはその辺に転がっている物でもない。

 その辺の釣り人に分けて貰うかと考えていると。


「あ、オレ持ってるぞ針」

「……何で?」

「いや、裁縫道具位持ち歩くって。戦闘着破れた時とか繕えるだろ」

『嘘……イオちゃん縫物できるの……? 意外』


 マリアに完全に同意だったが、それを言うとイオがむくれそうだったのでオルガは口を閉ざす。

 

「……意外って顔してんな」

「まさか」


 口は閉ざしても表情はどうしようもなかったが。

 裁縫針で釣りって出来るのか? と言う根源的な疑問を抱きながらもその辺の虫を突き刺して、釣り糸を垂らす。

 

「よし、オルガ! どっちが多く釣れるか勝負しようぜ」

「良いぞ」


 何て勇ましい事を言っていたのも束の間。

 二人とも一匹も釣れず、近くの釣り人に分けて貰う始末だった。

 

 裁縫針で釣るのは難しいさ、と言うありがたいお言葉と共に。

 

 その場でその釣り人が捌いてくれた川魚を焼いて食べて。

 お礼を言うと笑ってその釣り人は言うのだ。

 

「養成学院の生徒さんたちには毎年魔獣やらの退治で世話になってるからな! 良いって事よ!」


 籠に魚を満載して帰っていく釣り人を見送りながら、イオは口を開いた。

 

「当たり前だけどさ。オレ達が受けてる依頼ってこの辺に住んでる人が困ってるから出してるわけだよな」

「だな」

「何か困ってる人の為になるんだって思ったらやる気出て来た!」

「奇遇だな。俺もだ」


 多少遠回りかもしれない。だが、間違いなく困っている人は減る。

 そう思えた時間だった。

 釣りをして。美味しい魚を食べて。先ほどまでの負の感情は何時の間にか消え去っていた。

 

 そして学院へと辿り着いて。

 

「この後はどうする?」

「……風呂入って寝る!」


 少し迷った末にイオはそう宣言した。

 まだ陽も高いのに贅沢な時間の使い方だとオルガは少し羨ましく思う。

 今のイオは怪我の治療が優先なので、それも一つの正解だろう。

 

「俺は少し剣を振ってくる」

「おう。明日はどうするんだ? また花探しに行くか?」

「いや」


 とオルガは首を横に振った。森が落ち着くまでは危険は避けるべきだろう。

 

「学内で身体を動かして……明後日からクエストは危険の少なそうな奴から再開しよう」

「別にそんな気使わなくても良いぞ? もう大体治ってるし」

「ダメだ。念には念を入れておかないと」

「心配性め」


 とイオは笑って寮の大浴場へと向かっていった。


『良いなあ……温泉』


 信じがたい事に。寮の大浴場はかけ流しの温泉である。

 オルガも利用しているが、あれは恐ろしい物だと認識している。

 入っている間は色んな理由が吹き飛んで、この為に入学したんだと思えてしまう程だ。

 

 大変危険である。

 

『ねえ、オルガ。私も少しくらい入ってみたいんだけど……』

「流石に脱衣所に聖剣持ち込んでる奴はいねえよ……」


 マリアが聖剣から離れられず、更衣室に聖剣を持ち込めない以上マリアは温泉を見る事すら出来ない。

 

『うう……私もお風呂入りたい』

「……幽霊だから関係ないのでは?」

『気分的に入りたいの!』


 と言うか、女子に入浴を視られて喜ぶ趣味は無いので、聖剣を持ち込めたとしてもマリアの願いを叶えるつもりはないのだが。

 

 水浴びをしたいのなら、その辺の川に飛び込んで良いぞ? と言うオルガの発言でマリアが一しきり怒った後。

 ふと気が付くと何時ぞやの花壇の辺りに辿り着いていた。

 

 ここ、結構自主練には良い場所なんだけどな……と思いつつも今日も先客がいた。

 何となく紫紺の髪の少女はここにいる様な気がしていたので、オルガに驚きは無い。

 

「よう、エレナ」

「っ!」


 肩を震わせて。


「……オルガ、さん?」


 気まずそうな声をしながら蹲っていたエレナが顔を上げた。

イオがプンスカしてるので、感情を発散するタイミングを逃した奴

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― 新着の感想 ―
[一言] この二人は何故裁縫針で魚を釣れると思ったのか…
[気になる点] 聖剣さえ使えりゃいいや、みたいな 教育方針で心構えが二の次ってんなら ただの力だけ持ったクズの量産にしか ならないようだが……それくらい 聖騎士って重要なのかな。 [一言] まあ連れが…
2020/10/22 19:40 退会済み
管理
[一言] イオが謎過ぎる、そんなでかい蜘蛛わしづかみって!
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