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36 予期せぬ遭遇

 翌日、クエストの張られた掲示板――通称クエストボードをオルガは眺めていた。

 

 オルガ達が失敗したロックボアの群れの討伐。

 数が想定以上だったという事から報酬額も修正されて、必要な評価点も上昇したはずの依頼。

 

 何となく探していたが、見当たらない。誰かが受けたのだろう。

 

「おっす、オルガ。準備出来たぜ」

「悪いなイオ。俺の個人的な用事なのに」

「元を辿ればオレが原因だろ? 保健委員にはこの前も診て貰ったしな。オレからも礼って事で」


 付近に魔獣の群れがいる場所で単独行動は危険だ。

 故に、オルガはイオの同行を求めた。

 前回森歩きで苦労した事もあって、その練習という物も兼ねている。

 

 流石に一度通った道。今度はそれほど苦労することなく辿り着くかと思われた――が。

 

『誰か戦ってるわね』


 森に入ったとたんにマリアがそう言った。

 

『強い霊力を感じるわ』


 そう言われてオルガは何も感じない。

 ただ唐突に足を止めたオルガを見て、イオが振り返った。

 

「どうしたんだよオルガ」

「あー。誰か戦ってるっぽい」


 一瞬迷った後、マリアの言葉をイオにも伝える事にした。

 これは共有して置かないと危険な情報だと判断したのだ。

 

「誰か? 誰だ?」

「分からん……ただ、俺達が失敗したクエストは別の誰かが受けたみたいだったからそいつ等、かなあ?」


 順当に考えれば、こんなところで戦っている相手ともなればそう言う結論になる。

 態々用もなく入り込むとは思えない。

 

「……いや、まさかな」


 コユキソウという今回の自分の目的。

 それを同じく目的としそうな人物が一人思い浮かんだ。

 

 だが可能性は低いだろう。オルガが採取すると言ったのだ。確かに断ってはいたが――。

 

「どうする? 今日は引き返すか?」


 イオの問いにオルガは一瞬考え決断した。

 

「いや、少し様子を見に行こう。もしも、俺達みたいに苦戦してたら支援に入ってもいい」

「なるほど、恩を売るって訳だな。良いぜ。んじゃ、慎重に行こうぜ」


 偵察、と考えて二人は慎重に森の中を進む。

 前回の様に無造作に歩くのではなく付け焼刃ではあるが周囲の痕跡を探しつつ。

 

「人の足跡だな。これは新しい」

「だな。学院のブーツかこれ? 1、2、3……4つ?」

「俺も4人分に見えるな。となると、どこかの小隊か」


 4人も居れば少なくともあの群れ相手でも後れを取る事は無いだろうとオルガは少し安堵した。

 イオも同じことを考えていたのか。

 

「まあ颯爽と助けに駆け付けるってのは無さそうだな」

「だな」


 寧ろ下手を打って足を引っ張らない様にしないといけないなと思いながらも、二人は探索を続ける。

 もしも他の小隊だとしたら、その戦力を測る機会にもなる。

 

 その瞬間、森の中に咆哮が轟いた。

 

「……今の」

「ロックボア、にしちゃデカい声だったよな」


 イノシシの様な鳴き声ではあったが音量が大違いだ。

 しかし今の声で大まかな方角は知れた。

 

 ちらりとマリアへ視線を向ける。

 口元だけ動かして、意思を伝える。

 

『強い霊力はまだ健在よ。多分今も戦ってる』


 なるほど、とオルガは頷いた。少なくともこの声の主といきなり自分達だけで戦う事は避けられそうだった。

 

 そうして少し開けた場所に――正確には拓かれた場所に出る。

 

「デカ……」

「何喰ったらあんなにデカくなるんだ……」


 見た目はロックボアだったが、サイズが桁違いだ。

 その背中が、人間の頭頂を遥かに超えている。

 

 あれはもう小型魔獣ではない。中型魔獣のカテゴリだろう。

 

「マウンテンボア、だったかな。ロックボアが更に成長した奴。でも何で急に……」


 イオの疑問に答えたのはマリアだった。無論イオには聞こえていないが。


『多分この前オルガ達が中途半端にロックボアを倒したからじゃないかな。イノシシって雑食だし』

「……群れの死骸を食べて力が増したって事か」

「うげ、マジかよ」


 だがそのマウンテンボアの影になっていて気付かなかったが――真っ向から立ち向かっている人物が一人。

 まさか、と思いながらその相手をオルガは見つめた。

 

 目元を隠すような紫紺の髪。その特徴的な色合いは学院で他に見かけた事は無い。エレナだ。

 

 まさかと思っていたことが現実となってしまいオルガは驚嘆する。

 しかも小隊で居るはずなのに、戦っているのは支援要員の筈の彼女一人だけだ。他の3人はどこに行ったのか。

 マウンテンボアにやられてしまったのか。それとも――エレナを囮に逃げ出したのか。

 

「イオ――」


 口を開きかけて、オルガは躊躇う。

 マウンテンボアはこちらに気付いていない。今からならば不意打ちを仕掛けることは可能だ。

 

 ただそうなれば、オルガは兎も角イオを巻き込む。

 誰かを護る。オルガの戦う理由はそれだ。

 だから、この場で剣を抜くのに否はない。

 

 だがイオは違う。こんな戦いに巻き込むのはという一瞬の躊躇い。

 その躊躇いが伝わったのか。それでもオルガが声にしなかった部分まで含めてイオは頷いた。

 

「行こう!」


 オルガの無茶に、イオも付き合うと。そう言ってくれた。

 学院支給の長剣を抜刀して――だが二人は遅かった。

 

 ロックボアの数倍の太さに成長したマウンテンボアの牙。

 それがエレナの腹部を深々と貫いたのだ。

 

 致命傷。上半身と下半身が分かたれていないのが不思議な程の大穴。

 凄惨な光景に、オルガもイオも、一瞬動きを止めてしまう。

 

 地面を濡らす血の赤に。

 知らずオルガの剣を握る手にも力が籠って。暴発しそうな程溢れた霊力がしかし冷徹に刀身に注がれていく。

 

 オーガス流剣術弐式。朧・陽炎斬り。

 数十メートルの間合いを飛び越えるべく顕現した霊力の刃がマウンテンボアの腹部を切りつける――が、その外皮に弾かれた。

 

『っ! 落ち着きなさいオルガ! あの魔獣相手にそんな薄い刃は通らない!』


 次に打つべき手は、近付いての接近戦。

 上等だと、オルガは思う。

 少ないながらも言葉を交わした知己の仇。それを取ってやると。足を一歩前に踏み出して。

 

 マウンテンボアの絶叫が森に響き渡った。

 

「……え?」


 マウンテンボアの眼に聖剣が突き立てられている。

 他の三人のうちの誰かが? とも思ったが、その持ち手は――今尚牙に貫かれたエレナ。

 

 最後の力で一矢報いたのだろうかと考える。いや、違う。

 牙から身体が抜け落ちた。辛うじて一か所が皮膚だけで繋がっているような有様。

 

 その身体に骨が蘇る。

 植物が成長するかのように筋繊維が伸びて繋がり、そして滑らかな皮膚が張られる。

 一瞬で先ほどまでの傷が無かった事になったかのような超速再生。

 

 致命傷すらも癒す聖剣<オンダルシア>の力だった。

つまりゾンビ。

第一犠牲者はマリア

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― 新着の感想 ―
[一言] どうせこの後あのお嬢様、使える物を 有効活用して何が悪いみたいに言うんでしょ?w 大体仕掛けは分かったが……梅上さんは 本当、クソなキャラを書くのが上手い。 誉め言葉です(強調
2020/10/22 06:55 退会済み
管理
[一言] 霊力が続く限りのゾンビ作戦はキツイっすw
[一言] あー、前の中型もそれでか クソ令嬢、首置いてけ
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