33 増員不可
「しくじったな」
「だなー。こいつは失敗だぜ」
寮で昼食を摂りながらオルガとイオは検討していた小隊の増員という手が早々に潰れた事を話し合っていた。
「まあそりゃ皆同じこと考えるよな」
「結果的にオレ達が余り側になっちまったなあ」
クエストの形式を考えれば人数を増やして安全に稼ぐ方が良い。
とは言え足手まといとなる人員を入れても効率は上がらない。
実力のある四人を揃えるのが一番ベストだと考えて、昨日は一先ず二人としたのだったが――周りはもっと拙速だったらしい。
早々に四人の小隊を組んでしまったのが大半。
一先ずそれで固まった以上今日明日でそれが崩れる事は無いだろう。
「残ってる奴らは大体一人で良いと思ったか、問題のある奴らだしな」
小隊を組まずに単独で戦う事を選んだ候補生たちの選択が正しいかどうかはしばらく後の評価点で明らかになるだろう。
それ以外となると例えばカスタールに付き従っていた二人何かはどの小隊からも省かれて二人で活動している様だった。
敢えてトラブルを招き入れたいという人間はいない。
「あいつ等入れてみるかー?」
「冗談だろ」
「冗談だよ」
イオのさほど笑えない冗談を流しながらオルガもどうした物かと悩む。
大物狙いをしようにもクエストには受注制限があった。
端的に言えば小隊の合計評価点によって受注できるか出来ないかが決まっているのだ。
『そりゃ弱っちい人に強い敵は任せないわよね』
「ったく。盲点だったぜ……」
「俺が気絶して無ければなあ」
オルガがカスタールから奪った300点近い評価点を死守できていれば今もまた選択肢があったのだろうが。
現状二人の評価点は平均やや下くらいである。
「そうだ。いっそ、他の小隊に勝負吹っ掛けようぜ!」
「本末転倒だろそれ……それに受けてくれるとも思えないし……二対四だぞ?」
「だよなあ。やっぱキツイかー」
思考が煮詰まってイオからそんな短絡的な提案が飛び出してくるまでに至ったが、やはり現実的では無い。
安定して評価点を稼ぐためにギャンブルを行うのは手段と目的が逆転してしまっている。
「となると、オレ達に出来るのはこういう小物を倒して稼ぐしか無い訳だ」
そう言ってイオが取り出したクエストのビラは野犬退治の依頼だ。最近増えているらしい。
「そうだな。地道に行くか」
「そうそう。地道が一番……このペースだと到底進級できない事を除けばな!」
「言うな……」
流石に野犬退治だけでは進級の為の評価点は足りない。
どうした物かと二人で頭を悩ませていると。
食堂にざわめきが走った。
「うん?」
「何かあったみたいだぜ」
また退学者でも出たのだろうかと思っていると周囲の話を聞きまわっていたマリアがオルガの元に戻ってきて囁く。
『何か、結構な大物を倒した……らしいわよ』
「誰かが大物を倒したとかそう言う話らしいな」
「お前耳良いな……」
「何しろ勝手にあちこち飛び回るからな」
『ちょっと一番弟子? それってもしかして私の事かしら』
マリアが凄んでくるが素知らぬ顔をして、オルガとイオはもう少し詳しい話を求めて食堂を飛び出した。
校門側に魔獣討伐の証である首を持ち込んでいる一団。
「あれか」
『何かでっかい魔獣の首持ってるわね』
「あれは確か……」
講義で見た記憶があるオルガだったが、名前までは思い出せない。
狼系が巨大化した魔獣。
「グレイウルフ。中型魔獣だな」
「そうそれ」
魔獣には大雑把なカテゴリー分けがある。
小型、中型、大型。
小型魔獣は聖剣持ちが一人いれば余裕で対処可能な脅威だ。武装した兵士が複数人でも対応できる。
中型魔獣は聖剣持ちが複数人必要とされる魔獣だ。小型よりも大型で、聖剣の様な特殊能力を持つ個体もいる。
そして大型に関しては聖刃化を使いこなせる聖騎士が複数人必要だとされている。
もちろんこれらは一体の話だ。群れとなるとまた変わってくる。散々な目に会ったオルガ達の様に。
候補生の段階では中型魔獣を討伐したというだけで相当の快挙だ。
「グレイウルフって大型化した狼、で良かったよな」
「特殊能力は無しの、純粋身体能力が面倒くさい奴だって講義で言ってたぜ」
『ああ。思い出した。あれ私の時代にも居たわね。毛皮が高く売れるのよ』
ちょっと金策になりそうな話は詳しく聞きたい所だったが、今問題はそれを誰がやったかだ。
得意げな顔をしている少女三人。
「……そう言えば格の高い聖剣って女性を選ぶことが多いって聞いたな」
「らしいな。って言っても選ばれない時は選ばれないからなあ」
オレの業物だし、とイオが言うので確かに絶対の話ではないのだろう。
だが概ねそう言う傾向があるらしい。男で大業物に選ばれていたカスタールは結構レアケースだったのかもしれない。
聖剣の特殊能力次第では男女の性差など簡単に覆る。
だからその面子自体にオルガはさほど疑問を抱かない。
ただ気になるのは。
「……あの時の」
医務室でエレナと呼ばれた保健委員の少女を呼び付けた品の無い金色をした髪の少女だ。
彼女の小隊が中型魔獣を討伐したらしい。
「なあイオ」
「何だよオルガ」
「あそこの金髪。名前分かるか?」
「えっと……ああ。アイツか。ブランだよ。ブラン」
「ブラン……」
ちらりとマリアに視線を向ける。何を聞きたいのか、視線だけで読み取ったらしい。
『んー多分最初の点数は皆150点くらいかなあ』
マリアが見立てられるのはあくまで聖剣の格でしかない。
凡そ平均点。そんな連中が集まったところで、この時期に中型魔獣を狩れる物だろうか。
そこでオルガはもう一人、その集団にいる事に気付いた。
誇らしげな三人とは違い、沈鬱そうな面持ちをしているので同じグループだとは気付けなかったのだ。
「保健委員の……」
エレナが、暗い表情でそこに立っていた。
少ししたら教師たちが来てその場は解散となった。
「……オレ達も負けてらんないな。オレは午後も座学消化するけどオルガは?」
「俺は、ちょっと自主練してる」
「そっか。んじゃ、また後でな」
「ああ」
そう言ってイオと別れて一人になったオルガは人気のない辺りに辿り着くとマリアに向き直った。
丁度花壇があって、殺風景な壁に向かってやるよりはよさげな場所だった。
「それじゃあマリア。頼む」
『ええ。修行を次の段階に進めるわよ一番弟子。新しい型の習得を始めましょう』
オーガス流剣術の第二の型を習得すべく。
特訓を開始した。
懐かしい名前だ……またヤラレ役