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28 争奪戦

『寝言は寝てから言いなさいと言いたいけど……モテてるわね』


 やたら声をかけられる。

 特定の相手はいないかと聞かれる。

 

 そこだけ切り取ればモテモテだ。

 

「まさかこんなに勧誘が来るとは……」

『あのカスタールって結構評価高かったのね……』


 二人して意外に思いながら、どうにか水場へと辿り着いた。

 怒涛の声かけは、オルガがカスタールを下したことが原因らしい。

 

 余り他の生徒と接点の無かったオルガは知らなかったが、カスタールは一学年の中でも一二を争う強者と目されていた。

 高位の聖剣。

 当人の肉体的な強さ。

 戦闘向きの性格。

 そうした複合的な要因だ。

 

 そんなカスタールをオルガとイオが打ち破った。

 思わぬ伏兵に、皆が注目している。今はそんな状況らしい。

 

『でもお陰で小隊について色々と知れたわね』

「まあな」


 イオと組んでいるからと断り。

 それでも小隊は四人まで組めるから! と熱心な勧誘を受けたことは一度や二度ではない。

 そうした全てを、自分だけで決める事じゃないからと断り続けるのは少し骨だった。

 

『でもさオルガ。イオちゃんに助けて! って言われた時は直ぐに助けたのに、今回はそうしないのね』

「……何言ってるんだマリア。別に今日のあいつらは困ってないだろ」

『まあそうね』


 と言いながらもマリアはオルガの行動原理を測り兼ねていた。

 単に、本当に困っている人は助けるというスタンスなのか。

 請われたら誰彼構わず人助けをすると言う訳では無いのは確かのようだ。

 

 何故マリアがそんな事を気にしているかと言えば、オルガの隠れた頑迷さを知ってしまったからだ。

 自分が不利になるのだと分かっていてもその道を選ぶ。選んでしまうオルガ。

 

 誰かを護るという事にオルガは執着していると思えた。

 自分がどうなっても構わないと思う程に。

 

 その生き方は間違いなく、何時か破綻する。

 自分を二の次にしている以上、必ずそうなる。

 オルガみたいな奇特な誰かが守ってくれなければその未来は確定だ。

 

 最終的な目標は、オルガのその頑固さを正す事だが当面はそんな状況に陥らないようにする事だとマリアは考えていた。

 

『全く! 師の心弟子知らずって言うかな!』

「何か違くね、それ」


 唐突に怒り出したマリアに突っ込みながらオルガは身体を水で清める。

 

「……今にして思うとさ」

『うん』

「イオの奴が朝一でお見舞いに来たのってこういう勧誘合戦に先んじようとしたって事だよな」

『付け加えるなら、この調子だとイオちゃんも結構な勧誘を受けたと思うけどそれを断ってまずオルガに声をかけたって事ね』


 それなりに手間をかけて自分を勧誘していたのだと思うと、今しがた水を浴びて冷やされた身体が火照ってくる。

 

『照れてないで、支度しましょ。時は金なりって言うかな』

「照れてねえ」

『はいはい。剣は持った?』

「……持ってない」


 カスタールに折られたままだ。

 例のボロ剣はあるが、これで魔獣と戦うのは無茶である。

 あの時は最終手段として使っただけで、積極的に使いたい物ではない。

 

 どうもマリアはこの剣に憑りついているような節がある以上、壊されたらどうなるのかは分からない。

 

『って言うかオルガ、もしもあそこで負けて退学になっていたらどうするつもりだったの』

「どうするも何も……マリアが居れば学院に拘る必要も無いかって思ってた」

『でもこの剣借り物でしょ? 返却したら一緒に居られないわよ』


 と言うかそうなると私、あの黴臭そうな倉庫に閉じ込められるんですけど。とマリアに睨まれたオルガは慌てて言い訳する。

 

「いや、ほら。どうせこんなボロ剣じゃん?」

『人んちボロボロ言うな』


 どうやらマリアは自分が憑りついている剣を家の様に認識しているらしい。

 剣を家というのは無理があるとオルガは思うし、それに。


「ボロなんだからしょうがないだろ……」

『あんだと?』

「兎に角! マリアがいる以外は特別さなんて無いからその辺の鍛冶屋で似た様な剣を買って入れ替えようかなと」


 どうせばれないだろ、と言うとマリアも不本意そうな顔をしながら頷いた。

 

『確かにバレそうにないわね』

「だろ?」


 だからオルガはもしも退学になりそうになったらそれでマリアとの別れだけは切り抜けようとしていた。


『中々の悪ね。一番弟子』

「はいはい。俺は極悪人ですよ」


 言いながら、オルガは新しい鉄剣を支給してもらう。これで二本目だが、規格品なので違和感はない。

 

『でもオルガ? もう少し武器にはこだわった方が良いわよ』

「そうなのか?」

『上質な鋼なら霊力の通りも良いしね。言いたくないけどこれ、一山幾らのレベルの量産品よ?』


 確かに名剣の類では無いだろうなというのはオルガにも予想は出来ていた。

 聖剣に選ばれなかった以上少しでもいい武器をというのは分かるのだが。

 

「……金が出来たらな」


 無一文のオルガには中々遠い話だった。下手をしたら聖騎士になること以上に。

 

『剣の目利きなら任せなさい? 鑑定士のマリアって言われてたかな』

「あーその内にな」


 どこまで本当か分からないマリアの言葉を聞き流しながらオルガはイオとの待ち合わせ場所へ向かう。

 行けば既に弁当の入った包みを手にしてオルガを待っていた。

 日帰りとは言え水筒やら応急処置用の道具やらしっかりと用意している。

 ほぼ手ぶらのオルガとは対照的である。

 

 遠目にイオの装備を見てオルガは呟く。

 

「……剣より先にああいう装備揃えるべきかな」

『水筒は欲しいわね。水は大事よ』

「だよな……」


 報奨金入ったらまずは水筒を買おうと決意した。

 イオを待たせない様に気持ち早足になって近付くとイオが嬉し気に包みを手渡してくる。

 

「お、オルガ! 見ろよ。ハムサンドだった! 寮の弁当でも人気らしいぜ」

「美味そうだな」

『後で感想よ。忘れないでね』


 分かってると口の動きだけで応じて。

 

「よっし。それじゃあ行こうぜオルガ。初任務だ!」

「ああ」

『油断しちゃダメよ?』

「ロックボアがカスタールの刃鎧より強いって事は無いだろ」

「はは。間違いないな」


 そんな風に冗談を言い合いながら学院を出て、王都から数キロ離れた出現予測地点へ向かう二人と一人。

 その数時間後。

 

 ボロボロになった二人がどうにか学院へと帰り着いた。

 任務失敗という結果を伴って。

強い人と組んだ方がクエストも楽!

勧誘して来た内何人が寄生目的だったかは……

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― 新着の感想 ―
[一言] イオの聖剣能力だと群れは厳しそうですね。
[一言] 死霊術師の時代では食糧にもなったロックボアだが この時代だとやっぱ強いのか。
2020/10/17 20:50 退会済み
管理
[一言] 群相手はやはり無理だったか。
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