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17 勝ち負けの価値

 オルガが何とか壱式を体得したその翌日。

 

「……いよいよだな」

「そうだな」


 と、オルガとイオは若干青い顔をしながら試験会場となる校庭に向かっていた。

 緊張の余り、二人そろって昨日はよく寝れなかったのだ。

 

『二人とも神経細いなあ』


 などと、幽霊が気楽に言ってくるのが腹立たしい。

 兎も角、いよいよ入学してから最初の試験である。

 

 その内容はシンプルな物だ。

 くじ引きで順番を決め、その順に相手を指名して行き、全員の指名が終わったら順次模擬戦を行う。

 そんな方式なので最悪連戦となる可能性もある。

 

 終わったら点数の移動が行われる。

 0点になったらその時点で失格――つまりは退学だ。

 

 自分の指名者が自分と戦うよりも前に0点となったら模擬戦は行われない。

 また、お互いに指名していた場合は二回目は行われない。一発勝負となる。

 

 全員の模擬戦が終わった段階で退学になっていない候補生は全員に10点が配布される。

 

『要するに全部勝てばいいんでしょ?』


 脳筋、と口には出さずにオルガは思った。

 それが出来たら苦労はしない。

 

「よう、イオ」


 声をかけて来た相手の顔を見て、イオは露骨に表情を顰めた。

 オルガも似た様な物だ。カスタールが取り巻き二人を連れて薄ら笑いを浮かべながら近付いて来た。

 

「久しぶりに会えて嬉しいぜ」


 先日の騒動以降はマリアの警戒もあってこの連中と遭遇することなく過ごせていた。

 だが、流石に試験会場でまで避け続けることは不可能だ。

 

「オレは全然嬉しくないね」

「まあそう言うな。いい加減俺達の関係もはっきりさせた方が良いと思ってな」


 にやついた笑みを浮かべながらそんな事を抜かすカスタールにイオは更に表情を険しいものにした。

 関係についてなど他人以外を望んでいないという顔だ。

 

「賭けをしようぜ、イオ」

「馴れ馴れしく名前を呼ぶなよ」


 俺は呼んでるけど良いんだろうか、とオルガはちょっと思ったがそれを言うと間違いなく話が逸れるので黙っている。

 それよりもカスタールの提案した賭けが気になった。

 

「この試験で勝負しよう。それで負けた奴は勝った奴に絶対服従。それでどうだ?」

「分かんねえな。何でそんなにオレに拘るんだよ」

「決まってんだろ。お前みたいな気の強い女を屈服させるのが俺の趣味なんだよ」


 嫌らしく笑うカスタールを見てマリアが言う。

 

『品性に欠けるわね。イオを女の子だって分かってる分オルガよりはマシだけど』

「……俺これ以下?」


 ちょっとショックだった。

 

「……良いぜ。その代わりオレが勝ったら二度とオレに近付くな」

「その言葉、忘れんなよ?」


 嫌らしい笑みを浮かべてカスタールが去って行く。


「良いのかよイオ。あんな約束して」

「別に勝てばいいんだよ。勝てば」


 と、イオは余裕を見せている。

 周囲のざわめきに乗じて、オルガはそっとマリアに問いかけた。

 

「コイツの聖剣ってそんなに格高くないんだよな?」

『少なくとも霊力についてはまあ並ね。あのカスタールの奴と比べると格が落ちると言わざるを得ないわ』


 ふーん、とオルガは空返事をしながらもう一つ尋ねる。

 

「この中で一番聖剣の格が高い奴って誰?」

『そうねえ。一番はあの保健委員ちゃんで、二番がカスタール。他は大体似たり寄ったりね』


 なるほど、とオルガは頷いた。

 その辺りを避けて後は出たとこ勝負かという判断だ。

 

 くじを引く。

 800人中の387番目。何とも言えない指名順だ。

 

「お、オレは124番目だ」


 点数を得ることを考えるならば、指名順は早い方が良い。

 後ろの方になると、指名者が居なくなっている可能性があるからだ。

 

 ちらりとカスタールの方を見ると、12番目とかいう強運を発揮していた。他も結構若い順番を取っている。

 マリアの感覚で、一番弱そうな聖剣を持った相手を見繕ってその人物を指名する。

 90点という非常に珍しい2桁仲間だ。

 

 そうして全員が指名を終えて、教師が集計を終えるまでの僅かな時間待機となる。

 

「800組の対戦表を用意するのは大変だろうな……」

「噂じゃ、超絶凄い事務の人が居て、十分くらいで作るらしいぜ」

「まさか」


 イオの怪しげな噂話を笑い飛ばしていると――十分くらいで対戦表が張り出された。

 

「……マジかよ」

「だから言ったじゃん」


 見ればオルガは全部で四試合だ。

 意外と狙われなかったなとオルガは思う。聖剣無しという噂は思った程広がっていなかったらしい。

 オルガが指名した相手は一番最後――つまりその前に三回戦う必要があった。

 

 だが、その対戦相手を見て思わず唸った。

 オルガの対戦表を見てイオも叫ぶ。

 

「おい、どういうつもりだよ!」


 叫ばれた相手――カスタールはにや着いた笑みを隠そうともせずに二人の元へ寄ってきた。

 

「何の話だ?」

「オレと勝負するんじゃなかったのかよ!」


 イオの対戦表には確かに、カスタールと他二人の名前が載っている。

 そしてオルガの対戦表にもカスタールと他三人。

 

 イオはカスタールを指名した。

 オルガはカスタールを指名していない。その事実から何が起きたかを推察するのは簡単だ。

 

「……何で俺を指名した?」


 カスタールがオルガを指名した。それに他ならない。

 見れば他の三人の内二人は取り巻き二人だ。

 完全にオルガを狙い撃ちにしている。

 

「はっ、てめえの脳みそは虫並みか? 言っただろう」


 額がぶつかりそうになるほど顔を近づけながらカスタールは言う。

 

「これで終わりと思うなよ、ってな」


 オルガの持ち点は僅か十点。

 もしも三連敗したら――確実に0点になる。


 オルガを退学にさせる。

 この形を作れることが分かっていたから――カスタールたちは試験が始まるまでさほど絡んでこなかったのだ。

 

 転じてそれは、カスタールがこの試験の内容を把握していないと出来ない事である。

 

「良い事を教えてやるよ落ちこぼれ。学年上位だとな、色々と融通が利くんだよ。試験内容を早期に知れたりとかな」


 やはり、そう言う優遇措置があったかとオルガは舌打ちする。

 だが今は関係ない。

 

 どうやって現実的になった退学の危機を乗り越えるかだ。

 

『オルガ』


 マリアがオルガの名を呼ぶ。

 まだ一月にも満たない付き合いだが、マリアが言おうとしている事は察しがついた。

 だからオルガは首を横に振る。

 

『何で!? 私なら絶対勝てる! こんな所でオルガの願いを諦める必要なんてない! スーって子を護りたいって言ってたじゃない』


 オルガのその選択が信じられないと言うようにマリアは叫ぶ。

 

『負けちゃったら意味がないって言わないかな!』

オルガは頑固

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、こういう時に頼ってたらダメになるからなぁ 負けたら意味無いけどw
[一言] 災浄大業物の事務処理聖剣
[一言] マリアと一緒に、負けたオルガの周りを"どんな気持ち?"って言って回りたい(笑)
2020/10/12 13:13 退会済み
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