15 臨時休校
「違うんだよ」
オルガはそう弁明した。
「あんな太い木を倒すつもり何て無かったんだ」
あんな、と示されたのは学生寮のど真ん中に倒れ込んだ大木。
確か大分前の卒業生が記念に植えていった物とかではなかっただろうか、とエレナは思う。
食堂は完全に破壊されているし、その余波で男子寮、女子寮の双方にも大きなダメージが出ている。
何なら、三日前の学院襲撃よりも被害が大きい。
「俺はその辺の木を斬ろうとして……まあ失敗して」
「失敗して何でこんなことになってんだよ」
「うむ! とても驚いたぞ!」
「いや、それについてはホント申し訳なかったというか」
「怪我人でなかったのは良かったですね」
と言うか、それ以外に良かった点が無いのでエレナとしてもフォローが難しい。
どう考えても一方的に巻き込まれた二人が怒るのは当然である。
「で、その失敗を見てマリアの奴が『あっははは。情けないわねオルガ。私が手本を見せてやるわ!』っていうから、見せて貰おうじゃないかと」
「……それでこれか?」
「早すぎて止める間もなかった」
『だ、だって! あんな細い木じゃ私の凄さ伝わらないし! 丁度いい感じの太さの木があったから斬ったらそっち倒れちゃうし!』
とマリアが必死に言い訳しているが、疑問を挟む余地もなく彼女が原因である。
「……やっぱこの幽霊お祓いした方が良いんじゃね?」
「何か俺もそんな気がしてきた」
『待ってー! もう教えられそうな技がないからってポイしないでえええ!』
泣きながら縋りついてくるマリアを掌で払う。完全に扱いが虫である。
流石に今回はオルガもフォローしきれない。と言うか結構ピンチである。
「うむ……天秤剣を使って取り調べをする様だな」
「うげ、マジかよ」
ちなみに、この小隊ではイオとウェンディはそもそも事故に巻き込まれた側だというのが分かっており、エレナは丁度教師と話をしていたのでアリバイがある。
つまり、アリバイが無いのはオルガだけなので必然オルガだけが取り調べを受ける。
「マジでどうするんだよこれ。この前の窓割ったのとは訳が違うぞ」
「大丈夫だイオ。俺には秘策がある」
自信満々にオルガは親指を立てて、教師の元へ向かう。
「ではオルガ候補生。貴方に質問です」
「はい」
「この木を倒したのは貴方ですか?」
その問いかけにオルガは胸を張って答えた。
「いいえ」
天秤剣は偽証を検知するとその天秤の皿が傾く。
皿は微塵も揺れなかった。
「貴方は事故当時、倒れた木の側に居ましたね?」
「はい」
「木を倒したと思われる人物の姿は見ませんでしたか?」
「いいえ」
と答えるとやはり皿は揺れない。
その様子を見て教師は一つ頷いた。
「なるほど……関係はしていない様ですね。ご協力に感謝します」
手短な問答を終えて、オルガは三人の元に戻る。
「切り抜けた」
「どういう裏技だよそれ」
「失礼な。本当の事しか喋って無いっての。木を倒したのはマリアだし、斬った時は俺の身体使ってるから見てないし」
「うわ、詭弁だ……」
「天秤剣もこういうところ弱いですよねえ……」
嘘ではないが、真実でもない。一部を伏せる事で真実とは真逆の言葉だって言える。
まあそんな事をするのは一部の悪党くらいだが。
オルガみたいな。
「犯人を知ってますかって聞かれてもマリアの特徴挙げておけばいいだけだしな。どうせ見えないし」
『くっ。言い返してやりたいけど私のせいだから何も言えない』
「うむむ……正義の為にはオルガを突き出すべきか……いや、しかし真犯人は背後霊だというし……そういう意味ではオルガは無実だし……」
何やらウェンディは己の中の正義と戦っている様で苦悩していた。
エレナは何やら教師や他の生徒達と話し合っている。
しばらくすると少し困った顔で戻ってきた。
「エレナ。どうしたんだ?」
「えっと……今教師の方から聞いたんですが――」
「オルガが犯人だってバレたか」
「馬鹿な」
「いえ。そうではなく。来週には進級の結果を発表して夏季休暇に入るそうです」
「は?」
余りに突然の知らせにオルガは口を開けたまま固まる。
「あれ? まだあと二か月位あるだろ」
「ええ……例年だとそうなんですが今年はもう一学年最後の試験を前倒しでやってしまったというのが理由の一つみたいです」
「最後の試験を前倒しってのも意味わかんねえけどな……」
「うむ。それでエレナ。他にも理由が?」
「ええ。先日の襲撃と今回の事故で学院内の施設も大分ボロボロになりましたから。早めに学院を閉めて修繕するみたいです」
「あーなるほどな」
「うむ。納得だ。ところでオルガよ。何故そこでこの世の終わりの様な顔をしているのだ?」
「……あ」
そこでイオが何か思い出した顔をする。
と言うよりも昨日話をしていたことである。
「そう言えばお前評価点まだ足りないんだっけ」
「そうでしたね。残り期間も短いですし……みんなで終わらせてしまいましょうか」
「最悪、我の点数を分けるという手もあるぞ」
まあ突破方法はあるさ、と三人でオルガを慰めるとオルガは青い顔のまま言った。
「座学の出席日数が足りない」
「ちょ」
「え」
「うむ!?」
『あーそう言えば全然出てなかったわね』
マリアだけ緊張感のない声を出す。
「おま、何やってんだよ!?」
「えっと……え、本当に? 全部で十六コマですけど……」
「うむ。一月もあれば十分終わるぞ?」
「いや、一月もあれば終わるから、今月一気にまとめてやろうかと思って……」
後回しにしたらこの結果である。
「あんなん座ってれば良いだけなんだから先にやっちまえよ!」
「その時間も惜しんで修行してたんだよ! 後こんな事になるなんて思ってなかったんだよ!」
とは言え、夏季休暇が早まったのはオルガの自業自得な面も有るので誰にも文句を言えない。
「誰か時間割持ってねえ? とりあえず残り日数で全コマ取れるか確認しようぜ」
「はい。多分ギリギリ何とかなると思うんですが……」
「うむ……他が全てオッケーで出席日数が足りずに進級できない何てなったら恥ずかしいにも程があるぞ」
「すみません……」
『やーいやーい。無計画ー』
お前にだけは煽られたくないと、オルガは本気で思った。
9月入学。7月から夏休みだったのが二か月位前倒しになりました。
別に月に限った話ではないですが、単位とかその辺も本当は全然違う物使ってるけどSI変換されてると思っておいてください。
進級条件は変わってないよ! オルガみたいにギリギリの奴はめっちゃ焦ってるよ!