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14 評価点

 この学院には評価点という物がある。

 

 より正確にはそういう物があると今聞いた。

 主に生徒同士の模擬戦でその点数の移動が行われるという。

 

 そうした結果0点になった生徒は退学……という事になるそうだ。

 

『……随分とまどろっこしいのね。全員戦わせて最後まで立ってた人を聖騎士にしちゃえばいいのに』


 と、説明を聞いたマリアがぼやいた。

 何と言うか、仮にも武門の長だったからなのか。マリアは結構そう言うところシビアだとオルガは思った。

 でもその考えはどちらかと言うと蛮族のそれだ。

 

 ミスをしたら一発アウトな環境に居たオルガとしても温いと感じない事も無い。

 ただそのアウト側にいる身としては多少なりとも猶予があるのは有難い話だった。

 

「つまりあれだろ。そうやって生徒同士で点数を奪い合えって事だよなこれ」


 そうイオが手元で一枚のカードを弄びながらそう言った。

 

 講義が終わった後直行して情報交換をしていたので、今日は制服姿だ。

 男と勘違いされた事を気にしているのか、先程からひらひらとスカートを揺らしてからかってくる。

 集中できないのでやめて欲しいとオルガは思った。

 

『スケベめ』


 ――うるさい黙れ。マリアに無言で抗議する。

 

「既にこの時点で点数が違うな」

 

 二人が持っているのが評価点が記載されたカードだ。

 如何なる仕組みなのか。シンプルな数字が浮かび上がっている。

 イオは100点。オルガは10点。

 

 酷い差だ。

 

「現段階での強さの評価って事かこれ?」

「多分。ぶっちゃけ……これやばいよなオレ達」


 小声でイオがそう尋ねてくる。

 それにオルガも小声で返して頷く。

 

「かなりやばいな。特に奪えるってところが」


 生徒同士の模擬戦による点数の移動だ。

 どう考えても弱みを見せた奴から食われる。

 

 ただ、そこにも温情措置はある。

 そもそも模擬戦自体自由に行える物では無いというのが一つ。

 

 試験などの場を除けば、当事者たちの合意が無いと模擬戦は許可されないというルール。

 それはオルガにとっては命綱と言ってもいいルールだ。

 そして点数の移動自体は基本的に点数が低い方が有利になるのだという。

 

 つまり、点数の低い相手に敗れたりすると通常よりもリスクを負う事になる。

 勝っても奪える得点は少なく、負けたら互いの点数が入れ替わる。ハイリスクローリターンだ。

 

 偽りの強者は許さないという様な制度だった。

 強いモノだけが点数を蓄えることが出来るのだ。

 

『へえ。直近の試験は……二週間後ね』


 二週間で、オルガは聖剣に対抗できるだけの実力を身に着けないといけない。

 ……一瞬無理ではという言葉が浮かんだがそれを振り払う。マリアの指導を信じるしかない。

 

「両者の合意があれば、点数の移譲も可能、か」


 もう一つの温情措置がそれだ。

 生徒二人の合意があれば点数を譲り渡すことが出来る。

 

 だがそれもどれだけの人数がやるだろうか。

 評価点は即ちこの学院での寿命だ。

 0点になったら退学なのだから気安く譲れるものではない。

 

「な、オルガ。もしもオレが0点になったら譲ってくれるか?」

「1点ならな」

「ならオレもお前が0点になったら1点だけ譲ってやるよ」


 そんな麗しい協力関係にマリアが呆れた様な視線を向けた。

 

「とりあえず、点数は隠しておこう」

「へ? 何でだよ」


 オルガの提案にイオは不思議そうに首を傾げた。

 

「そりゃあ。点数少ないってバレたら狙われる可能性があるからだよ」

「いや、そうは言うけどよ。万一負けたら大損だぜ? 晒しておいた方が躊躇わねえ?」

「その通り。万一だ。これが学院の測った実力の結果なら大体点数通りの強さになるって事だろ」


 つまりは確実に下の人間を狩って点数を稼ごうとする奴が出てくるはずだ。


「うげ、そういう事か」


 相手の強さが不明瞭なら兎も角、オルガの様な点数の人間は完全なカモとされるだろう。


『結構周りの人は点数高いわね。200点とか居るわよ』


 他人の目を一切気にしないマリアのスパイ活動によるとそう言う事らしい。

 概ね三桁。オルガの様に10点何て候補生は見渡した限りではいなかった。

 どうやら初期値は聖剣の格で決められているらしい。

 

「とりあえず、今日も自主練しようぜ……今日は吐かないよな?」

「……多分」

「本当にお前大丈夫か? 病気とかじゃないよな」


 心配そうにそう言われてしまうとオルガとしても心が痛む。

 ある意味病気よりも質が悪いかもしれないが。

 

 更衣室に向かうイオを見送って、マリアがふと口を開いた。

 

『……でもそうね。イオちゃんの聖剣の輝きが100点って事は』

「輝き?」

『私が霊力を見る時って光で見えるのよ。その強弱で強さが大体分かるって訳』

「へえ……今の口ぶりだと他の人は違うのか?」


 少し好奇心が刺激されて尋ねてみるとマリアは形のいい顎に指先を当てて考え込む仕草をした。


『そうね……匂いで感じる人も居たし色で感じる人も居た。面白い人だと音色が聞こえるとか』

「多種多様だな」

『その内オルガにも分かる様になるわよ。その時はどんな風なのか教えてね』

「俺が?」

『そりゃそうよ。オーガス流は霊力を使う剣技。感じることが出来なければ霊力を扱う事なんて出来ないわよ』


 確かに。

 

『私の感覚からすると……あのカスタールとか言う奴。多分300点位ね』

「300、か」


 もしかすると。とオルガは思った。

 あの男はこの評価点のシステムについて知っていたのではないだろうか。

 

 明確に示された学院の認識する強さのランク。

 その上下で何かしらのメリットデメリットがあるのではないかという予測。

 

 もしもそれが正しければ……なるほど確かに。10点と300点では話にならないだろう。

 

『これはチャンスねオルガ』

「チャンス?」

『ええ。皆貴方を侮ってくれている。自分に敵う訳がないって油断してくれる。それをチャンスって言わないかな』


 その考えはオルガには無かった。ただ窮地であるとしか考えていなかった。

 

『良い事一番弟子? 戦いなんて一発勝負。そんな中で最初から気を抜いている何て大チャンス。遠慮なくその首貰いましょう』


 言い方は剣呑だが、マリアのその言葉にオルガは頷きを返した。

 皆聖剣を持たないオルガには出来ることが無いと思っている。

 緩み切っている。

 そこを一撃で仕留めろとマリアは言うのだ。

 

『大丈夫よ。我がオーガス流は初撃必殺。油断している相手なんて瞬殺よ瞬殺』

「いや、流石に殺すとまずいんだが……」

『一番弟子。良い事を教えましょう。試合中の出来事は全て事故って言わないかな!』

「色々と台無しだよ師匠」


 やっぱりこいつ死生観違うわ……と思いながら。二人はイオが来るまであーだこーだと来る試験について言い争っていた。

マリアの基本思考は山賊的な感じです。肉の串を片手に持っているのが似合う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 帝愛の経営かな?
[一言] マリアの時代はどんだけ荒んでたんだ……w とはいえ、初見必殺は格下やハンデ持ちのみが 行えるワンキルのカード。言い分に関しては 全く反論はないですけどもw
2020/10/10 20:43 退会済み
管理
[一言] 美少女山賊ww どんな環境……この子が違うだけかw
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