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10 繋がる夢

「おい、マリア?」


 オルガの訝しむ様な声にマリアは意識を引き戻された。


「お前大丈夫かよ。目開けたままぼんやりして……いや、と言うか白目剥いてたけど本当に大丈夫か?」

『平気よ……それより、オルガ。貴方って……昔っから女の子の扱い下手なのねえ……』

「いきなり何の話だ」


 同情半分、嘲り半分の言葉にオルガは少し苛立った様子を見せた。

 流石に、今オルガの過去を夢で見たからそう思ったなんて馬鹿正直には言わないけど、とマリアは思う。

 

 にしても、何故急にそんな物を見る様になったのか。

 

『……ねえオルガ。もしかしてだけど。私の事夢に見たりしてないわよね?』


 ふと思いそう尋ねるとオルガは露骨に視線を逸らした。

 

『スケベ』

「そういう夢じゃねえよ!? 最上級の侮辱は止めろ!」

『はあ!? どこが最上級の侮辱ですか! この……この前のヒルダちゃんに師事しようとした件と言い、一番弟子としての自覚が足りないわよ!』

「師だっていうなら少しは威厳持てよ。沸点低すぎんだよ」


 こうして言い争いをしている時点でマリアの負けである。師としての威厳を置いて来た彼女には酷な話だが。

 

「まあ良いわ! その反応だと見たのね」

『……何かお前の兄貴と言い争いしている所だった』

「…………心当たりが多すぎてどれの事やら」

『それでいいのかよ』


 仲が悪かったようには見えなかったが、特段良くも無かったのだろうか。

 

「そっちは?」

『スーちゃんと会ったところ』

「……そうか」


 マリアがそう答えた瞬間、オルガは明らかに安堵した。その反応を見てマリアは――。

 

『もしかして、私には見せられない様な誰かといやらしい事をしていた心当たりがあったり……?』

「お前に限定した話じゃない! ああ、いや。別にそういう事は無いが……」


 無いんだ、と同情的な視線をマリアは向けた。別に見たかったわけではないが。見せられても困るが。

 

「そういうお前は――」

『オルガ。今の私でも貴方を殺すことはできるのよ?』

「脅しがこええよ。いや、興味もねえよ」


 ドストレートな口封じにオルガはそれ以上は口にしなかった。賢明な判断である。

 

「兎に角、今俺達はお互いの過去を夢に見ているって事か?」

『そうね。何でそんな事になったのかは分からないけど……』


 と言うマリアだったがオルガは一つ心当たりがあった。

 

「これは完全な仮説……と言うか妄想なんだが」

『うん』

「この前の進級試験で使われた聖剣のせいじゃないか?」

『あれが何なのか知ってるの?』

「まさか。名鑑にも乗ってるの見た事ねえよ」


 とは言え、他の三人から得た情報を踏まえるとアレは内面を詳らかにする物だったと予測できる。

 そこから更に予測を広げると、人と人の心を繋ぐような効果じゃないかと思えたのだ。

 

 そうでなければオルガが心の中で考えた事を把握できるはずもない。

 その効果が、今もオルガとマリアの間で続いているのではないか。

 

『うーん。何かそう言われるとそうなのかもしれないと思えるわね』

「分からんがな」

『聖剣はさっぱり分かんないからなあ……どっから生えて来たのかしらあれ』

「不思議だよな」


 少なくともマリアの時代の後の誰かが生み出したのは間違いないだろう。

 しかしよくよく考えれば、聖剣と言う物も良く分からない。あるのが当たり前なので気にしていなかったが。

 

 あんな武具を一体どこの誰が――。

 

「うん?」


 そう言えばとオルガは思い出す。そんな話をつい昨日聞いた気がする。

 

「なあマリア」

『何? あ、もしも私がお風呂入っている所とか夢に見たらその場で舌を噛み切りなさいね?』

「要求がえげつないぞ。そうじゃなくて、例の学院長の話なんだが」

『何か分かった?』

「いや、聞きたい事があるんだけど……マリアの時代のそいつが作ってた道具ってどんなものだったんだ?」

『うーん、色々あったわよ。当たると爆発する矢とか。伸びる槍とか。燃える剣とか……』


 口にしてマリアもオルガと同じ事に辿り着いたらしい。

 

「何か、聖剣っぽくね?」

『……いやいやいやいやオルガ。流石にそれは偶然よ。だって、聖剣って魔獣魔族を狩るための道具よ? 魔族であるザグールが作る訳が無いじゃない……』


 否定するように首を繰り返し横に振るが、マリアもその類似性については認めざるを得ないらしい。

 

「逆にそれが目的だとしたらしっくりきちまうんだが……」

『魔族を殺そうとしてるって? 流石にそれは……一応族長みたいな奴よ? 仲間殺し何てするかな……?』


 マリアが否定する以上、オルガもそれ以上は何も言えない。

 ただもしもそうだとしたら何とも複雑な状況になってしまう。と言うよりも、学院長と言う存在も怪しくなってくる。

 

 まさか歴代全て同一人物ではないだろうか、とか。

 

『兎に角、あいつに関しては保留! 確証も無く動いて、オルガに迷惑を掛けたくないし! 怪しい動きをしたら即斬る方向で!』


 一応、気を遣ってくれているらしい。どこまでその気遣いが続くかは疑問だが。


「そもそも俺達が学院長の動きを知れる事が稀なんだがな」

『それは言わない方向で! オルガが必勝を確信できる位に強くなったら直ぐ斬りに行くわよ』

「……別に人の中に紛れて大人しくしているなら放っておけば良いんじゃないか?」

『ダメよ』


 冷え冷えとした声音でマリアは言い切る。

 

『アイツだけは殺さないと、同門で死んでいった人たちが浮かばれない』

「敵討ちか」

『そうよ。オルガだって、許せないでしょう。目の前に貴方の仇が居たら』


 その問いにオルガは視線を伏せた。マリアの眼を見ない様にしながら、小さく頷く。

 

『……ごめん。変な事聞いた』

「いや……言い出したのは俺だ」


 そこでオルガは言うか言うまいか迷った素振りを見せた。

 その果てに口を開く。

 

「なあマリア。お願いがあるんだが」

『何よ?』

「もしも夢で俺の仇を見たら……教えてくれ。俺がそいつを殺せる可能性があるのかどうかを」

『私が直接見るわけじゃないから、確かな事は何も言えないわよ?』

「それでもいい。マリアから見てどう思ったかだけでも良いんだ。それと――」


 言葉を切った。絞り出すようにオルガは言う。

 

「何を見ても俺を止めないでくれ」

『別にオルガのやる事に文句を付けたりはしないわよ』

「それでも、だ。約束して欲しい。俺がやろうとすることを決して止めないって」


 その必死さに気圧される様にマリアは頷いてしまった。


『別に良いけど……』


 そう言った時のオルガの表情をマリアは多分忘れられない。

 約束を取り付けられて安堵したというよりもそれは――まるで最後の一押しをされてしまったかのように表情を歪めていたのだから。

 

『ところでオルガ。こんなのんびり話をしていて良いの? ヒルダちゃんの手伝い朝からじゃないっけ?』

「しまった……!」


 夢の話なんかしていたら予想以上に時間が過ぎていた。

 慌ててオルガは支度をして部屋を飛び出した。

マリアでエロい夢を見るくらいなら舌を噛み切るつもりのオルガ

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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃ死亡年齢考えるにマリアのエロい夢て……。 うん、アウト。
2021/02/02 20:10 退会済み
管理
[一言] マリアはかわいいからエロい夢見てもいいのよ、オルガ?
[一言] > マリアでエロい夢を見るくらいなら舌を噛み切るつもりのオルガ どんだけだよww でも、分からなくもないw
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