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133/188

39 手に入れてしまった物

 相手の腕は残り四本。内魔剣と呼んだ聖剣を握っているのが二本。

 

 腕の再生は押しとどめたが、それでもフリーの腕が二本ある。

 単純な手数で考えても倍。

 

 その火力差をオルガは先読みで捌いていく。


 戦える。

 戦えている。

 魔族と比較しても十分に比類する様な魔獣を相手に、今自分は戦えている。

 

「ははっ」


 オルガの口から笑みが零れた。

 それを見てマリアはぎょっとする。

 

 マリアの記憶にある限り、オルガが笑みを浮かべた事など無い。

 まして声を出して笑うなど。

 

 今正体不明の魔獣を追い詰めているタイミングで笑った事に嫌な予感を覚えなくもない。

 初めて見た笑みが、そんな闘争の最中と言うのは――そう、所謂戦闘狂と言えるような人種が浮かべる物だ。

 

 ただその過去からの推測と、マリアの見て来たオルガの人物像が重ならない。

 少なくとも、オルガはこれまで戦闘を楽しんでいる様子は無かった。

 

 ならば何故?

 

 その答えは、オルガの過去を知らないマリアには分からない。

 

 まさかオルガが、魔族と戦えるだけの力を手に入れた事に浮かれている何て。

 マリアにとっては有って当たり前だったものを手に出来たと喜んでいる何て想像もしていなかった。

 

 だけどオルガにとってそれは何よりも重要な事。

 この学院への入学を――もっと言えば聖騎士を目指した理由はそれだ。

 

 魔族と戦うだけの力を手に入れる事。

 その願いの一端が今、叶った。叶ってしまった。とうとうその力を手に入れてしまった。

 

 嗚呼、そうだ。この力があの時にあればとオルガは悔いる。

 あの日に、スーを守れなかった日にこの力があれば、少なくとも一つは約束を守れたはずなのに……!

 

 湧き上がってきた苛立ちを剣に込める。過剰な霊力が六本腕を押し返して、その姿勢を崩す。

 ここに来ての力押し。

 瞬発的な肉体の強化。体内の霊力の流れを意識したことで、一気に四肢の一本に霊力を注ぎこむという事が出来るようになった。

 聖剣の強化と比較すればお粗末な物だったオルガの肉体強化も、ここまですればそれとそん色ない。

 

 一歩引き下がった六本腕。その間合いをオルガは躊躇なく詰める。

 初めて相手が退いた。ならばそこに付け込まない理由はない。

 

 漆式。乱星・空渡り。空へ飛ぶのではなく、地面で加速するためにそれを使う。

 今まで以上の加速に六本腕は間合いを見誤った。

 

 こう言う虚を突く戦い方はオルガの十八番だ。そのタイミングで、六本腕はどんな手段を取るか。

 

 魔力が流れ込んでいく。

 次に何をするのか。オルガには一目でわかる。

 

 時を引き延ばす。

 体内時間の刻みを更に細かく。極限の集中で、相手の魔力の微かな残滓。その動きさえも把握しようとする。

 

 分割された時間の中で六本腕が動く。

 魔力が注ぎ込まれたのは衝撃剣。近寄られる前に。広範囲の攻撃でまとめて吹き飛ばそうという腹だろう。

 

 だがしかし見えてしまえば対処は容易い。

 

 例えば。

 参式で分身を残し、オルガは別方向から斬り込むという手がある。

 例えば。

 漆式で更に加速。或いは方向転換し、攻撃を躱しながら切り込むという手がある。

 例えば。

 相手の初動に先んじて弐式でその腕を斬り飛ばすという手がある。

 例えば。

 襲い来る衝撃波を捌式で真っ向から押し留めるという手がある。

 

 増えた手札はオルガに幾つもの選択肢を与えてくれる。

 

 そのいずれもオルガは選ばない。

 今までの手札では何れも、この場で負けない為の方策でしかない。相手を一歩追い詰めても詰め切る物ではない。

 

 故にオルガが選ぶのはマリアの与えてくれた新しい一手。

 

 この状況を終わらせる最後の一押し。

 

 待っていた。

 向こうが衝撃剣を使うのを。

 

 相手の聖剣の中で大きな魔力を放出する唯一の剣を使う瞬間を。

 

 オルガが狙っていた勝機が生み出されるその時を。

 

 放たれる。

 魔力によって作られた衝撃波。霊力視のあるオルガにとってはウェンディの水の攻撃と大差ない。見て対処できる部類だ。

 

 その流れ。その勢い。

 全てが手に取る様に分かる。

 

「陸式――」


 そこへ自分の身を任せる。

 己の霊力を纏ったミスリルの刃を突き立てる。

 勢いに逆らわず、そのまま共に刃を流す。

 

 容易い。余りに容易い。強さも向きも全てわかっている物に合わせる。これほど楽な事はない。

 己の霊力を、その流れに合わせる。狂いもなく、向きを完全に一致させて同調させる。

 相手の魔力と己の霊力。その区別がつかなくなった頃合いで、その方向性を一気に捻じ曲げる。

 

 身体を半周させる。

 ミスリルの刃に己の霊力と、巻き込んだ相手の魔力を乗せたまま、その向きを逆方向に、相手へと向ける。

 

 即ち、敵の攻撃を利用した返し技。その名を。

 

「円舞・焔重ね」


 敵の炎を己の炎と重ねる様に見立てたのだろう。

 確かにマリアにとっては不要な技だ。相手の力を使うまでもなく、独力で斬れるのだから。

 

 オルガにそこまでの力はない。

 だがしかし、相手の力を十全に利用する眼があった。

 

 己の攻撃とオルガの霊力。二つの力を重ねた物を叩きつけられた六本腕の首が飛ぶ。

 一つ、二つ。

 しかし三つ目には届かない。半ばまで断ち切ってそこから刃が進まない。

 残った最後の一本。<ノルベルト>がオルガの刃を中途で押し留めている。

 

 この剣、最後の最後まで祟る! 悪態を堪えながら、オルガは相手の首を両断しようと更に力を込めて。

 しかしその間にも再生が始まるかもしれない事に焦りを覚えて。

 

「んで、誰が下がってろって?」


 そんな頼もしい声にふっと肩の力を緩めた。何だかんだで。突出したオルガのフォローに駆け付けてくれるのは彼女の役目だ。

 目が見えなくとも、何時もの様な笑みを浮かべているのだろうというのは容易に想像が付く。

 

「……そうだな。頼むよイオ」

「おうよ」


 オルガの刃とは反対から、接近していたイオの<ウェルトルブ>が刀身に輝きを纏いつつ斬り進む。

 そうして、両側から斬りこまれた最後の首は今度こそ、他の二つと同じく地面に落ちた。

カウンター技。マリアはそんな細かい事なんてしなくても勝てるので取り敢えず覚えただけ。

多分歴代の中で発案者の次位にオルガが上手い

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― 新着の感想 ―
[一言] っょぃ
[一言] 自力だけでぶった切れるマリアには不要な技だわなあ。 そしてオルガ、この作者の元で調子に乗った 主人公は例外なく地獄に叩き落されるんやで……(同情
2021/01/18 20:45 退会済み
管理
[一言] 激流を制するは静水!オルガはトキみたいになるのか。となるとマリアはラオウかな?
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