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36 致命

「エレナ! 戻ってきたのかよ」

「うむ! 助かったぞエレナよ。オルガはどうしたのだ?」

「マリアさんにお願いしてきました」


 姿の見えないオルガの背後霊。見えない存在に頼らざるを得ない状況にイオは舌を出した。


「眼が見えないのにまだ戦おうとしてましたよ」


 六本腕が立ち上がる。流石に今度はさっきのような一撃を食らわせるのは難しいだろう。


「バカだな」

「うむ、馬鹿だ」


 自分たちの小隊長を二人はそうこき下ろす。普通、そんな重傷でまだ戦おうなんて思わない。


「まあ、そんな馬鹿が逃げる時間稼ごうとしてるオレ達も馬鹿だけどな!」

「うむ。ぶっちゃけイオよ。あんまり役に立たないから逃げても構わんぞ?」

「そうですね……<ウェルトルブ>はそろそろ打ち止めでしょう?」

「夜だと結構調子良いんだよな、こいつ。というわけでもうちょい行けるぞ。後さっきも言ったけど仲間は見捨てないっての」

 

 六本腕が再び四刀を駆使して切りかかってくる。そこに術理がないのが幸いか。闇雲に振り回すだけの剣。一本一本ならばそれほどの驚異ではないとエレナは思う。

 だが、それが四本。更には間合いを自在に変えてくる。これが厄介だ。


「お二人は援護を。もしも私が斬られたらすぐに逃げてください」


 エレナが離脱している間、二人が生き残れたのは結構な奇跡だ。そしてそんな綱渡り、長続きするはずもない。

 前衛が倒れたら今度こそ全滅の危機だろう。


「そん時はエレナも引きずっていくからな」

「うむ。その過程で胸が削れるのは不幸な事故だ」

「それはやめてください」


 嫌そうに顔を顰めながら。エレナは相手の刃を弾く。返す刀で腹部を狙う。腐敗の刃。いくら再生が早かろうと腐り落ちた部位を再生するのには時間がかかるだろう。


 それを繰り返して倒す。他に勝ち筋がない。何ともまあ、面倒な相手だとエレナは思う。

 と言うか、再生能力に関しては自分の方が上の可能性を考えると……自分は敵としてはもしかして相当に面倒くさいのでは。

 そんな面倒くさい自分が面倒くさいことを言い出して戦う羽目になったオルガとイオに別の意味で謝りたくなってくるエレナ。


 その彼女の背からイオは数分チャージした<ウェルトルブ>の射撃で六本腕の剣を狙う。

 もう潤沢な力は無い。数日分溜め込んだ貯金は既に底を着いた。故に無駄な攻撃は出来ない。

 あの聖剣だか魔剣だか。その持つ腕にダメージを与えて、取りこぼすことができればラッキー。


 全く持って、自分の戦い方はリスキーにも程がある。そんな自分に文句ばかりを言う仲間が居る小隊。

 うん、オルガとかウェンディとかリスキーな生き方してる二人にリスキーな戦い方とか言われるのは腹立つな、とイオは思った。


 生み出した水の糸による拘束。

 本来ならば柔い魔獣ならば輪切りに出来るそれが、完全にただの糸扱いであることには忸怩たる思いがあるウェンディ。


 彼女の聖剣は水を操る。ただそれだけだ。

 それ故にイオの<ウェルトルブ>の様な破壊力は望めないし、エレナの<オンダルシア>の様な理外の能力もない。


 代わりに与えられたのは汎用性。器用貧乏大いに結構。その汎用性は、自分の努力で幾らでも高められる。

 だけどこういうときには己の力不足を痛感する。

 自分一人では何も出来ない。それを突きつけられる。


 人助けだってそうだ。小隊とは別に、自分一人で解決するつもりで居ても小隊を巻き込んだこともあった。

 それに対して文句を言いながらも手伝ってくれるオルガとイオ。ちょっと悪どい提案をしてくるエレナ。

 そんな仲間たちを失くしたくない。そう思っているのに。自分には力がない。

 

 ――手元にあるのが、真に己に適合する剣ならば話は違ったのだろうか。そんな考えが一瞬頭を過る。


 糸が引きちぎられた。


「ウェンディさん!」


 エレナの脇をすり抜けて。六本腕がウェンディに迫る。


「水よ!」


 弾けた水を再構築。再び糸と成して縛りつけようとする――が。

 <ノルベルト>に切り裂かれた糸がウェンディの支配から離れてただの水に戻った。

 一度触れた水でないとウェンディの聖剣ではコントロールできない。

 それだってある程度の範囲に限られている。離れた場所の水までは操れない。

 

 つまりはあの水はもう使えない。


「む!」


 何が起きたのかはよく分からない。ただ確かなのは六本腕の行動を縛る物は何もないということで。


「壁よ!」

 

 残った水全てを纏めて自分の前に水の壁を作る。それが一瞬で蒸発させられる熱量。

 そんな攻撃をした直後でも己の首を刈取ろうとしている六本腕の姿を見て。


 ウェンディは己の死を直感した。

 ああ、だけど。とどこかで安堵している自分にも気付いた。

 少なくともこれで自分は。仲間を助けられなかった瞬間は見ないで済むと。

 

 そんなウェンディの耳に。


「オーガス流剣術捌式」


 ここには居ないはずの人間の声が届いた。

 ウェンディの横を駆け抜けて、一人の人間が飛び込んでくる。


「陰陽・封神突き」


 繰り出された突きを、六本腕は刃の一つで受け止める。瞬間、湧き上がっていた炎が一瞬で消えた。その能力を封じ込められた。


「オル……」


 その背にウェンディは声を掛けようとする。お礼を言うべきか。それともどうしてきたのかと問いただすべきか。

 いや、そもそも。


「オルガさん。そんな眼で!」


 エレナの声。その声にイオもオルガの顔を見る。その両目は切り裂かれたまま塞がっている。

 むしろ激しく動いたからか。エレナが施した止血も甲斐なく、再度出血していた。

 血を涙の様に流しながらも、オルガは剣を振るう。


 どう見ても、オルガには前が見えていない。だと言うのに。


「参式」


 六本腕の攻撃を避ける。勘や当てずっぽうなどではない。確かに相手の攻撃を見切って。反撃を刻んでいく。

 六本腕の剣戟から伸びる幻の刃さえも紙一重で回避して。頬に薄皮一枚の傷を刻みながら、それ以上の傷を相手に与えていく。


「飛燕・木霊斬り」


 オルガの動きに合わせて生み出された霊力の分身。その数は三。

 幻の刃と自身の刃。合わせて四つの斬撃が同時に六本腕に叩き込まれた。


実はウェンディ。適合しているが、本当にナイスカップリングな聖剣では無い。つまり二番手……

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― 新着の感想 ―
[一言] オルガがすごく頼もしく見える!スゴイ!
[一言] なん、だと……何故オルガは普通の主人公みたいなことができてるんだ!
[一言] 半分憑依?顔だけにゅっと出てる?
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