15 雪解けの頃
うっかり投稿準備を忘れてました
サバイバル試験が終わってから半年が過ぎた。
それは即ち、オルガ達四人が組むようになって半年が過ぎたという事だ。
雪で覆われた二月ばかりを学院内で過ごしていた。
それから雪解けの季節となり。
冬を越えた強靭な魔獣が肥え太る前に片っ端から狩り。
月に一度はある学院の試験をどうにか乗り越え。
そんな忙しい日々の結果オルガ達は。
「やったぜ、評価点800点突破!」
「うむ! 我らの努力の成果だな!」
寮の食堂でイエーイと年少組二人が手を打ち合わせる。
正確にはウェンディだけは1200点と言う安全マージンを確保しているのだが。
逆にオルガは少し他の三人より低く700点だ。何時ぞやの筆記試験の差が響いていた。
「今日の魔獣は手強かったですね」
紫紺の髪に着いた土ぼこりを布巾で拭いながら、エレナはそう言う。
とは言いながらも、エレナの戦闘着に際立った破損は無い。つまりはそれだけダメージを負う事が少なかったという事だ。
以前は被弾前提の立ち回りが多かったエレナ。
最近は回復に力を割くよりも攻撃面に力を割けるようにした方がいいと改善していた。
「ふっふふ。オレの新技がぶっ刺さったな」
「うむ? アレは新技だったのか?」
「新技だっての! 二回撃てるようになっただろ!」
「そうだったのか……」
ウェンディにも気付かれない様な地味で、しかし大きなイオの成長点は<ウェルトルブ>の霊力解放を二回に分けられる様になったことだろう。
オレンジ髪の眼帯少女は一回の戦闘で一回しかまともな攻撃が出来ない事をかなり気にしていた。
間違いなく小隊内で攻撃力は最高なのだが、一発だけでは心もとない。
故に、その回数を増やすことはイオにとっても悲願だった。
それがマリアのアドバイスと言うのは当人も気に入っていない様だがそれはそれ。
強力な武器を手に入れたのは間違いない。
「ずっと頑張ってたからな。イオも」
四人分のお茶を汲んできたオルガが席に着きながらそう褒め称える。
何しろその実験台になっていたのはオルガなのだから自分も褒めたい。
「もっと褒めろもっと褒めろ」
「調子に乗っているな!」
「乗らせておいてやれウェンディ。漸くこれで一日一回限定の花火から脱却できたから嬉しいんだろう」
と、オルガが揶揄う様に言う。
二回に分けられるという事は、今まで一発で終わっていたのが二発撃てる――と言う訳ではない。
一回当たりが二回に分けられる。それは半々になってはいくが、イオも攻撃に参加し続けられるという事。
一度撃った残りの半分にチャージ分が上乗せされていくので威力も思った程は落ちない。
つまりイオは一発屋か、そこそこの継戦能力を得るかを選択できるようになったのだ。
この戦術の進化は大きい。
「ウェンディは相変わらず、水の扱いが上手いからな……後は水場の確保さえできれば」
「うむ……いや、今日の樽を持っていく作戦は失敗だったな」
ウェンディは相変わらず水の確保に難儀していた。
水場の近くならば小隊内でも無敵と言っていい多彩な戦術を誇るのだが、いかんせん水場があるとは限らない。
冬など水が凍り付いている事さえある。
故に水の確保は必須事項だったのだが……。
「いや、オレは最初からダメだと思ってたぜ樽」
「まあ。嵩張りますしねえ……」
『真っ先に樽が割られてたのはウェンディちゃんには悪いけど笑えたわ』
ケタケタ言いながらオルガの背後で浮かんでいる人影。太陽の光の様な金髪の持ち主。ただしその身体は透けている。
オルガの持つ聖剣(仮)な――と言うか只のボロ剣に憑りついているという幽霊の少女マリアだ。
「うむ……それに強度にも問題があった」
「と言うか根本的に水を運ぶ方法ってのは考え直した方がいいんじゃないか?」
どうしたってウェンディが気兼ねなく使える程の水を確保しようとすれば無理が出てくる。
何よりウェンディの心を折りに来るのは、苦労して運んでいざ戦闘! となると割と直ぐに容器が壊されて水が地面に吸われるのだ。
一緒にウェンディの涙も吸われてるのは間違いない。
「やっぱ聖剣の力で最初から運んでればいいんじゃないか? それなら零さないだろ?」
「前にも言ったが疲れるのだ。後やっぱり運べる量には限度があるからな……」
そりゃそうだ。とオルガも同意する。
サバイバル試験の時、一晩中水の中に潜んでいたウェンディなら出来るのではないかと思ったのだが。
水を退けるのと、水を浮かせるのでは難易度が違うらしい。良く分からんとオルガは思った。
「まあそれでも少ない水であれだけやれるんだから流石だよな。ウェンディ」
「うむ! 例え不完全であっても屈しないぞ!」
「それに引き換えオルガは……」
「オイこら、イオ。他の人をダシにして人を貶すのは止めろ」
オルガが露骨に嫌そうな顔をしてウェンディに苦言を呈する。
「いや、今日お前パッとした活躍無かったじゃん」
「うむ! 有効打零だったぞ!」
「いえ、その……攪乱してもらったので助かりました」
年少組が明け透けな意見を言う中、エレナだけはフォローの言葉を発する。
だがそれは事実なのでオルガも憮然とするしかない。赤い髪の少年が唇を尖らせているのを見てイオが笑う。
今日四人が討伐して来た魔獣はグレートホーンと呼ばれる、鹿が魔獣化した中でも巨大に成長した中型魔獣だ。
この魔獣何が厄介かと言うと。
「いやだっておかしいだろあれ! 何で俺ばっかり狙って来るんだアイツ!」
その角からは雷を落としてくるのだ。喰らっても身体がびりっと来る程度の物ではあるが、何度も受けていると辛い。
まして近接戦中にそんな物を受けたら大きな隙を晒すことになるだろう。
故に、オルガは逃げ回るしかなかった。魔獣は霊力の高い者程狙って来るという話はマリアからも聞いていた。
だがこれまで直接戦闘している相手を無視してまで狙ってくる様な事は無かったのでいざ戦闘中は意識していなかったのだ。
「お前鹿に好かれる臭いでも出してたんじゃねえの?」
「出すか!」
「うむ。動物に好かれるのは良い事だぞ?」
「私、猫ちゃんには嫌われるんですよねえ……」
話が脱線していく。どの動物が好きかと言う話になってしまった。まあ良いかとオルガは思う。
今日の戦いはオルガが攻撃するチャンスを伺えなかったことを除けば中々の連携でスムーズに仕留められた。
偶にはこう言う雑談の日が有ってもいい。
「オルガさんは動物、何が好きですか?」
「うん? ウサギ」
特に深く考えずにそう答えると意外そうな視線を向けられる。
「何だよ」
『……意外。可愛い物好きだったのね』
「狼とかそう言うのかと思ってた」
「うむ! ウサギは可愛いな!」
「ええ。とっても可愛いです」
でもオルガのイメージではないと言ったところか。
「良いだろ。別に動物の好みくらい……そう言うお前らは何なんだよ」
「オレ狼」
「うむ。犬だ!」
「狐ですね」
何か、四匹混ぜたら俺のだけ喰われそう。オルガはそう思った。
『私は獅子ね』
訂正。五匹混ぜたら、であった。
オルガは草食系。或いは僧職系。
悟りでも開いてんのかコイツ。