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11 騎士物語3

「やはりマルクスは出てきませんね……」

「他の奴は死んだとか、怪我して田舎に帰ったとか書いてあるのにこいつだけ急に消えたよな」

「うむ。作者が書くのを忘れたのかと思うくらいだな」

「まあ正直居なくても問題ないってのがまた、な」

『みんな酷い! 一応私がモデルなのに!』


 だが、マリアがモデルだとすると。このマルクスと言う騎士は正直口だけとなってしまう。

 その時点で完全なモデルと言う訳ではないのだろう。

 

 何しろマリアの言を信じるのならば、彼女はどんな相手だろうと後れを取る事は無かったというのだから。

 

「まあ続き読んでみよう。エリオットの話の終わりまで読めば何か分かるかもしれないし」

「いや、って言ってもな……そんな特別な話じゃないぞこれ」

「そうですね。結構王道と言いますか。マリアさんの死につながる様な話ではないかなと……」


 まあダメ元で見てみようとオルガは続きを読んでいく。残りは僅かだ。


 騎士エリオットは多くの仲間たちと共に敵を倒していった。

 

 獣の様な人。

 耳の長い生き物。

 角の生えた生き物。

 

 空を呑む怪物。

 地を裂く巨人。

 

 多くの冒険を乗り越えて。その果てに死んだ。

 世界の終わりまで旅して、そこで最後の戦いを挑んで彼らは全滅したのだ。

 

「こんな終わりだったっけ?」


 最後の物語を読んだイオが首を傾げた。と、言われてもこれが初見のオルガには答えようのない問いだ。

 寧ろ、エリオットが倒したという敵が気になった。

 

 幾つかの特徴はマリアから聞いた穢れ落ち――魔族の物と酷似している。

 ならばそれ以外。空を呑む怪物も、地を裂く巨人も居たのではないのか。

 

 そして。

 

「最も強き者……?」


 最後に戦ったのだというその存在も。

 まあ尤も。どれもこれも記述が少ない。本当に実在したのかは何とも言えない所だった。

 

「何か心当たりあるか?」

『最も強き者……私ね』


 寝言を言いだしたマリアに、役に立たねえと思いながらオルガはウェンディに視線を向ける。

 

「他にもいくつか別の奴が書いた話があるんだよな?」

「うむ。騎士エリオット物語は何人かが書いている。これは一応原書と言われてる最初の話だな」

「ああ、これが原書なんですね。私も初めて読みました」


 どうやら少し珍しい物らしい。興味深げにエレナが本を眺めている。


「多分イオとエレナが読んだのはザッハーク版だな。あれが一番多く出回っている」

「……もしかして、ウェンディって騎士エリオット好きなのか?」

「うむ! 大雑把に四人の著者があるが、全部読んだぞ!」


 戯曲も見たとか言っていたし、結構熱心なファンらしい。


「そっちも一応読んでみるか……?」

「ううむ……しかしマルクスについては大した記述は無いぞ? 寧ろ原書が一番多い」

『……私、不人気?』


 まあ、嫌味な奴だしなあとオルガは納得する。

 

「結局マリアさんの事は良く分かりませんね……騎士エリオットも何かとても強い相手に挑んで敗れた、みたいですが」

「神様にでも挑んだのか?」

「んな罰当たりな事はしねえだろ。流石に」

『そうよオルガ。天罰下るわよ天罰』


 この程度の軽口で天罰を喰らっているならば。今頃オルガは天罰だけで三回は死んでいるだろう。

 

「結局数日かけて成果なしか」


 マリアについて手掛かりは得られなかった。

 マルクスは途中でフェードアウトし、騎士エリオットも世界の果てとかいう抽象的な場所での戦いが終わりだ。

 これでマリアの死因について知れたというのは……まあ無理のある話だろう。

 

「マリアはこの話見て何か思い出さなかったのか?」

『取り合えず私だったら全員苦戦せずに瞬殺だったという確信があるわね』


 コイツ、どれだけ自分に自信があるんだ


『言っておくけど。私が仕留めそこなった穢れ落ち何て片手の指で足りるんだからね。倒した数は多すぎて覚えてないけど』

「あーはいはい」

『信じてないなー?』


 流石に話盛ってるだろうとは思っている。

 

『この前オルガが戦ったアイツレベルだったら本当にもう瞬殺なんだからね! 目があったら死ぬって言われた位かな!』


 嘘くせえ。

 

「背後霊の奴は何て?」

「何も思い出さないとさ」

「何だ、無駄骨かよ」

『やっぱりイオちゃん私に辛辣じゃない?』

「でも久しぶりに読むと面白かったですよ、これ」

「そうだな」


 みんなで同じ本を読んで感想を言い合うなんて経験。これまでに一度だってなかったとオルガは思った。

 そもそもそれを言い出すならば、冬にこうして雪の寒さに凍えずに居るというのも初めての経験だなと。

 

 特にここ数年は夜眠って、朝目覚めることが出来るか。

 その事に確証を持てない様な生活がスラムの日常だった事を考えると今は天国の様だ。

 

 冬に地面を這い蹲って食料となる物を探す事も無く。何もせずとも三食が食べられて。

 夜寝る時も暖かなベッドの上で。朝目覚められないかもしれないんなんて怯える事も無くて。

 昼間はこうして仲間たちと一つの話題で盛り上がれて。

 

「――っ」


 頭が痛い。

 一瞬今頭に浮かんだ単語。それを認めてはいけないとオルガは首を横に振った。

 今が――だなんて。そんな事はない。

 自分は今も欠落している。

 大事な物が欠けている。

 

 そうでなくてはいけない。

 

 だから俺は誰かの大事な物を護りたいし。

 その為にならどんな事だってする。

 

 そうでなくてはいけない。

 

「なあオルガ」

「すまん。聞いてなかった」

「まだ何も言ってねえよ。お前の用事に付き合ったんだから今度はオレの用事に付き合ってくれよ」

「構わないけど……何だ?」

「特訓だ。こいつを使いこなすためのな」


 そう言ってイオは己の愛刀<ウェルトルブ>を軽く叩いた。

 

「背後霊の事調べるついでに、オレもオレ以外の<ウェルトルブ>の適合者について調べてたんだよな」


 そう言いながらイオは一冊の本を取り出した。

 

「何それ?」

「二十年くらい前の聖騎士の手記。学院時代の事が書いてあるんだけどさ」


 そう言ってイオが指差した箇所。

 その聖騎士が適合していた聖剣は別の物だが、試験で戦った相手に<ウェルトルブ>があった様だ。

 

「ここ見てくれよ」


 その記述を追いかけると、二十年前の<ウェルトルブ>の適合者は、短時間で二回強力な一撃を放っている。

 

「な! おかしいだろこれ!」

「確かにな」


 短時間で溜めたのか。或いは全部放出しなかったのか。

 はたまた他の理由か。兎に角、イオが今知る<ウェルトルブ>の特性からは外れた事が出来ている。

 

「と言う訳で、ここに書いてあることが出来る様に特訓したいんだ」

「それは良いけど……何で俺?」

「手伝ってやっただろ。だから手伝えよ」


 そう言われるとぐうの音も出ない。

 

「手伝わせて頂きます……」

「おう! 頼むぜオルガ!」


 そう言ってイオは歯を見せて笑った。

マリアが取り逃がした奴はガチでやべー奴

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マリアいわくイオの霊力は大したことないみたいだから そもそも溜まる基礎値が足りないとかいう 致命的な欠陥なんじゃなかろうか……。 [一言] 使ってれば霊力の最大値が上がるみたいな 記述…
2020/12/21 22:09 退会済み
管理
[一言] ウェルトルブには早く溜まる条件とかあるかも、その場から動かないと早く溜まるとか。
[一言] 実は二発目は霊力ブッパで聖剣そのものはどうあがいても単発だったりしない?
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