魔法都市
そこはクワンティコ魔法都市。超魔法都市。そこに住むすべてのものが魔法を使える神秘の国。
そこは要塞のような作りをしていて大きな壁が都市全体を囲んでいる。
「すごいや!!大きな壁」
「ダダさんこっちです。」
大きな壁に一箇所だけ鉄でできた門がある。そこで門番の魔法使いらしい男が二人立っている。一人がこちらに気づきこちらに軽く会釈する。
「やぁ。ハーフエルフのユリシーヌ先生」
「・・・・?」
ダダはなんだかその魔法使いたちの態度に嫌な気持ちになった。彼女をわざわざ『ハーフエルフ』というところに彼女が言っていた階級社会と呼ばれる片鱗を見たのかもしれない。門番の魔法使いの男二人はニヤニヤと嫌な笑い顔でユリシーヌを見下ろしていた。
「で、そちらは?」
「ルルーシカ・アレンスタンの弟子です」
「なんと!!あのアレンスタン様の!!素晴らしい。登録証をお願いいたします」
「・・はい」
「ダダくんか。これから学校に行くんですね。今後の活躍楽しみにしております」
「ありがとうございます」
大きな分厚い門を抜けるとそこはすぐに沢山の人や物で溢れた街になっていた。
『アウレラ街』や『アウロラ』では見かけなかったとんがり帽子のような屋根がいくつもある。
さらに驚いたことに人々は箒や大きな杖にまたがって空を飛んでいるではないか。このクワンティコはとても変な作りになっていた。まるでここ自体が大きな一つの山の上に作られているように中心部になるにつれ地面が盛り上がっていたのだ。そこを円を描くようにだんだん高くなる地面に合わせて建物や家が建っており中心に立っているお城のような建物はダダたちの場所からとても高い位置に建てられていた。
「ここは下町のような感じなの中心部に登れば登るほど住んでいる人の階級も建っている建物も洗練されていくわ。ね。まさに階級社会でしょ?」
ユリシーヌは少し皮肉めいたように微笑んだ。
「僕はあんまりいい気分がしないです。」
「正直ね。そういうところお姉さん好きだわ」
「・・・っ!」
ユリシーヌさんのおどけた顔にダダは顔を赤くした。
(そうか、僕、これからたくさんの人に出会うんだな。)
「ちなみに学校はあの一番大きな建物よ」
「え!あのど真ん中のですか?!」
「えぇ。こう見ると近い高さの関係で近くにあるように見えるけど実際はかなり遠いわ」
「いや、十分遠い気がします・・」
「ふふっ。距離感を見る素晴らしい目の持ち主ね」
「ありがとうございます・・」
「学校に向かうときはここの『魔法円』に入るわ。さ、行きましょう。」
「はいっ!」
とぷんっーと音がして二人は魔法円にゆっくりと落ちていく。いつかのあの感覚が呼び起こされる。とん。地面に足がつきダダはその黒い目を開けた
「おおおおぉ・・・」
遠くで見てもかなり圧巻だが近くで見るとさらに凄い。馬鹿でかい鉄格子の門のてっぺんには大きな紋章がつけてあった。いつかの封筒に押してあった青い封蝋に刻まれた紋章と同じだった。その鉄格子の門は独りでにギギギと鈍い音を立てて開いた。途方もなく大きな土地に城のような作りをした建物が寄り集まったような作りをしている。いくつも塔がありとんがり帽子がいくつもある。
「真ん中は学び舎、右は男子寮、左は女子寮よ」
「大きすぎて迷いそうです」
「あながち間違いじゃないかもね。迷子になると先生たちが魔法で連れ戻してくれるまで見つからなくなることもあるわ」
「うわー」
「学校の敷地はとても大きいわ。この敷地だけで軽く街ぐらいの大きさがあるの。森や池もあるから探検してみるといいわ。色んな生き物に会えるけどあまり奥まで行くと帰って来れなくなるから気をつけて」
「ええぇぇ・・・」
ユリシーヌはニコリと微笑んだ。
「こんなことほんとは言っちゃいけないんだろうけど。私はあなたを応援してるわ。私が門番にハーフエルフと馬鹿にされていた時あなたは自分のことでもないのに彼らに不快な顔をしてくれたわよね。私、嬉しくなっちゃったわ。その優しいあなたが消えませんように。」
「貴方はとてもいい人だ。ここまで僕を連れてきてくれた事は仕事の一つかもしれないけど、そこで僕に沢山のことを丁寧に細く教えてくれた。僕は貴方がなんであってもそんな貴方を慕っています。ハーフエルフである貴方を」
ユリシーヌは驚いた。彼は自分が思っていた以上に大人びた少年なのだと感じた。
「ありがとう。ダダさん。では寮に向かいましょうか。」
「はいっ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「入寮の子かい?」
「はい。ビターさん」
「よろしくお願いしますっ」
ビターと呼ばれた『ホブゴブリン』は眼鏡をかけてなぜか口紅をしていた。男子寮の建物の入り口から入ってすぐの受付口からこちらを覗き込んできたビターはなぜかネグリジェを着ていた。
「ユリシーヌさん・・ビターさんは男の方ですよね・・?」
「・・・うん・・?」
「なによ。あらぁ可愛い坊やぁ」
「ヒィィィ」
「じゃあユリシーヌはここでいいわよ。女は入っちゃいけないからねぇ」
「・・でも。」
「なんだい。私とこの子の間に割って入ろうってのかい?野暮なことするんじゃないよっペッペッ」
「・・・頑張ってダダさん」
「ヒィィィぃぃぃぃ」
そしてダダはビターに引きずられていってしまった。
「ほらここだよ坊やぁ」
「は、はいっ」
「一階は食堂。風呂も一階。二回から上は上級生だから登るなら2年目からになると思うわ。二人一部屋でトイレも中にあるわ。」
「ありがとうございます。ビターさん」
「まぁ、礼儀正しい子。ンチュ」
と、ほっぺにキスされた
「ヒィィィぃぃぃぃ」
ほほほほっとネグリジェゴブリンは自分の仕事場所に戻っていった。
「僕の部屋は117号室か。」
カチャー
木製で出来たドアを開ける。そこにはベッドが二つと勉強机が二つだけの質素な部屋で広さは10畳ほどで思ったよりもかなり大きかった。入ってすぐ右側にはトイレがあった。ダダは長旅の疲れもあってすぐに右側のベットに寝転んだ。
「あーー疲れた。」
眠りに落ちようとうとうとしたとき
急に声をかけられた
「よっ!」
「うわっ!!!えぇ?!いつからそこに?!」
確かに誰もいなかったはずの部屋にいつの間にか一人の少年がいたのだ。身長は165センチ程で髪はオレンジがかった黄土色をしていて目は青くまるで子ライオンのような感じだ。見た目同様明るそうな性格でにかにかと驚いたダダに笑いかけている。
「驚いた?俺、マーク・タナー。マークって呼んでくれ」
「え、えぇ?!・・ダダって言います。」
「ダダ?ただのダダ?」
「んー・・まぁそうかな。ただのダダ」
「それ、うける」
マークはケタケタとひとしきり笑うとにっこりとした顔で満足そうに左のベットに腰を下ろした。
「透明になる魔法の練習してたら君が入ってきたんだ」
「あぁ、そういうことか。ってすごいね!透明になる魔法って!」
「いや、できるわけ無いんだけどさ。ここ大浴場だろ?女子寮覗きに行きたくてさっ」
なんとも清々しい変態にダダも思わず笑ってしまった。
「なんで透明になることが無理なのさ?」
「だって不可視魔法なんて超がつく高等魔法だからだよ」
「そうなんだ」
「なぁ、俺たち、もう友達だよな?外に遊びに行こうぜ?」
友達という響きが嬉しくてダダは快くマークの誘いを受けた。学校の正門(先ほどくぐった鉄格子の門)とは正反対に向かっていくとユリシーヌから聞いていた森や湖があった。
「すごいっ!すごいよ!!」
ダダは大きく腕を広げた。
「ダダは魔法使いになってどうするんだ?」
「僕、英雄になるんだ!」
「へぇ!いいじゃないかっ!英雄は男の浪漫!俺も迷宮に行きたいと思っていたんだ!」
「え、本当に?魔法使いはあんまり迷宮に興味がないんだと思ってたよ」
「あぁ。興味がないというよりは戦闘向きじゃない人種だからだろ?」
「戦闘向きじゃない?」
「うん?だってほら魔法使いは確かに他の人種には無い神秘を扱える人種だけど、万能じゃ無いし。それに自分のテーマの研究だってある。魔法使いは権力への執着より自分の知識欲の方が強いからね。ま、勿論例外は存在する。」
「例外か・・・僕はこの世界のこと本当に何にも知らないんだな・・」
「どういこと?」
「僕、記憶がないんだ」
「訳ありか・・ならここはとっておきだよ。ここは学校だ何でも学べる!!」
「うん、マーク僕と友達になってくれてありがとうっこれからよろしく」
「あぁ!」
二人ははしゃぎながら走りこけて野原に寝転がった。マークは腰元から杖をぬく。それを太陽にかざしながら彼は杖を振って魔法をかけるマネをする。
「僕らに栄光あれ!」
ダダはなんだかこのどこかむず痒く心温まる時間に幸福を感じた。
そしてルルーシカを思い出し、そして遠くに一人で来たことを実感した。
「ところで、ビターに何かされた?」
「え、なんで?」
「ほっぺにキスマークついてるぜ?」
「・・・・・。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その二人をこっそりと眺める男がいた。
その、男はダダを見た。
「ずいぶん、大きくなったんだな。・・それによく笑うようにもなった」
男は真っ黒いローブを羽織りフードを目ぶかにに被っていた。
「世界は動き出すよ。ダダ」
そう男は口元から小さく歯をのぞかせて、ゆっくりと風に溶けていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー