表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

ホルスあらわる





「たくっ!なによこれ」



女はぷっくりと膨らむ唇から息を漏らした。

淡いキャラメル色をした薄い生地のロングコートを羽織りフードを深くかぶっていた。



秋の肌寒さが木々にもわかるのか、森は冬の訪れに準備をするように自分のまとう葉の色を変え始めていた。

昼下がり、女は柵で囲われた森の前にいた。



「相変わらず変ね!」



それは初めて見るものからすれば奇妙な光景だっただろう。

森は異様な静けさで佇み、まるで生を感じない。生き物の声はおろか葉の擦れる音すらしない、まるでハリボテの大きな絵をそこに立てているような森だった。もっと異様なのは柵の外。そこから先はまるで世界が違うかのように大きな街があったのだ。街は人で賑わい様々な種族がワイワイと街を賑わせていた。




『中立国家アウロラ』その都市からそう離れてはいないところにこの街『アウレラ』はあった。

都市部より他国との物流、交流が盛んな場所でもあった。アウレラ中心部にある巨大な噴水は、この街1番の観光名所でもあり、その噴水広場から東西南北に別れた大通りが放射状に伸び、街にはこれでもかと言うほどの店や家がひしめき建っていた。

中立国と言うだけあってどんな者でも受け入れるその国は、多種多様な文化に溢れていた。


そんな西の大通りの一番端にその森はあった。この人工物の街は柵から10メートルのところで不自然にプツリと

切られていたのである。まるで国境線でもあるかのように建物、人工物が10メートルなく鉄の柵があり森。

それはなんとも奇妙。奇天烈な光景であった。


柵は頑丈に幾重にも結ばれ、高さは4メートルほどあった。

子供がすり抜けれるような隙間もなくまるで鉄の壁のようにも見えた。

ちなみにここもある意味『アウレラ』の名所みたいなものであった。もちろん悪い意味で・・・



「オネェさん!」


女が柵の前でブツブツと悪態をついていると5歳くらいの黄色い髪と青い目をもった猫の耳を生やている猫人(キャットピープル)の男の子が話しかけてきた。


「・・・?なぁにボク?」


女は少し驚いたがすぐにフードをとってキャットピープルの男の子に柔らかく微笑んでみせた。キャットピープルの男の子はフードを下ろした女に一瞬目を見開き顔を真っ赤にして黄色い尻尾をうねらせた。



「・・・・も・・森はダメだよオネェさん。絶対にこの柵からあっちに行っちゃだめ」


もじもじと下を向きながら女の服の袖を掴むとくいくいっとひっぱり街に戻ろうよと促してきた。



「・・・・えぇ。もちろんわかっているわ」


女は見下ろしていたキャットピープルの子供に目を細めてさらに優しく微笑んだ。


こんな子供でも知っている。ここは迷いの森。


もう一度森の方を振り向いてから女はキャットピープルの男の子の方に向き直った


「こんな森誰も入らないわよ」


そう答えると男の子のはパァっと顔を明るくして思いっきり笑顔をつくった


「うん!そうだよねっ。ここは迷いの森だもん。入っちゃったら悪い何かが人を攫っていくんだもん。そんな危ないところにわざわざ行かないよ。ごめんね。オネェさん、知らずに森に入っちゃうのかもって思っちゃって・・・」


「ありがとうボク。・・・そうね、こんな生を感じない不気味な森。きっとさぞ悪いものが住んでるんだわ」


くすっと意地悪そうに笑いながら女は言うと膝を折って男の子の頭を優しく撫でた。男の子は眼前におりてきた彼女の大きな双丘に目を大きく見開いた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー



ぞくっとルルーシカは背筋に感じる寒気に身をビクつかせた。


「っう・・また悪寒。」



部屋の端に置かれたくたびれた淡い紺色のソファにちょんと腰掛けていた彼女は、分厚い本を手に持ちながらすぐそばの大きな窓に目をやった。

外には寒空の中、黒い髪の少年が地面に置いてあるペンとにらめっこしていた。



「ぐぉぉぉぉぉぉ。」



ダダは唸りながら赤面していた。

先日のことが脳裏に焼き付いて何度もその光景をフラッシュバックさせる。今は先日の稽古で宿題として出されたペンを浮かす練習をしている。それがクリアできるまで先に進めないと言われ彼はここ何日か家の庭でずっとこのペンとにらめっこをしていた。



女の人ってあんな、小さい面積の布を履くのかということを知ったダダは、もう衝撃的過ぎて思い出すたび顔を真っ赤にさせていた。

一人悶える彼をみてルルーシカはクスクスと笑った。

彼の成長の為には欠かせないものなんだろうなっと頬杖をつきながら窓から溢れる暖かい陽だまりの中彼女は目を細めた。



「んー、というか、僕って魔法使えるの?」



ペンに力を込めること2時間何も起こらない状況にまず、彼は自分が魔法自体使えるのか不思議になってきた。

弟子にすると言われた時も頭を撫でられたくらいだったし特に何かしたわけでもなかった。

ダダの知識の中には(主に本)なにやら難しい言葉をいったり文字を書いたり、あれ?杖とか棒状の何かとか使わないのかな?


あれ?あれれ?


ダダは遅まきながら色んな疑問を頭の中に浮かべていた。


あの時のルルーシカさんの服だって僕が捲し上げたというよりは風のせいだろうし、、

凝視してしまった僕からしたら服が上がったことよりもその中の真実の方が驚愕だったな・・・


彼はあれは風だったという誤認をしつつも、それでもやっぱり関心は魔法云々以上にルルーシカ(異性)であった。


彼は、女性はルルーシカしか知らなかったがその柔らかさ香り、色気、彼にはない全てが気が気ではなかった。

まぁ、一つの要因としてはルルーシカが普通の女性ではないというところにもあったが・・・




そんなことを考えているとルルーシカが家から出てきた。


「どう?何かわかった?」



何か、とは彼女が彼に出した宿題の一つ、魔法を使うという感覚についてだ。



「んー。わかんないです。僕のイメージは、こうっ指先というか手のひらからブワッと何かがというイメージなんですが。僕の指先からも手のひらからも一向になにも出ないし・・・それに・・その・・」



ダダは言葉に詰まっているとルルーシカが答えた。


「本当に魔法が使えるかってこと?」


彼はコクコクっと頭を上下させた。

そんな彼を慈しむように見つめ微笑んだ。


「そんなことだろうと思った。手を出してみて」


「?」


きょとんとした顔をしてダダは言われた通り手のひらをルルーシカに見せた。

彼女はその手に自分の指先と手のひらをそっと合わす


「えっ・・ちょっ」


ゾワっとする何かに彼は手を離そうとしたが彼女が微動だにせずじっと彼を見つめた。

その視線に瞳を奪われ少し陰った赤い宝石のような目を見つめ返した。


するとどうだろうモワッと手を合わせたところから何か靄のような白く濃い光がゆっくりと現れルルーシカの靄と絡まるように繋がったのだ。


「みて。これがあなたが魔法を使えるという証だよ」


「こ、これって」


「これは『血の契り』て言うんだ。同じ血が流れる魔法使い同士だけに起こる現象なの。こうやって私の中のものと貴方の中のものがこうやって繋がるの、ね。綺麗でしょ?」



「同じ・・?」


(え、それって。)


「いい?ダダ。魔法使いっていうのは・・そうね。種族みたいなものなんだ。エルフやドワーフみたいなもので、祖先から受け継いでいくものなの。」


ダダはびっくりして大きく口を開けた


「あなたが呼んでる本ではどうか知らないけど、この世界では少なくともそうなの。多種族のように魔法使い以外との子供を作ればハーフになるわ。もちろん血が混じれば交わるほどその血は薄くなっていく。特に魔法使いやエルフたちのような種族はそれが顕著でね 、血を割ればその力も同じように割れていくの。」


「え、え?えぇ?!」


ダダはびっくりして体をのけぞらせた。

ルルーシカはさらに続けた。


「だから特に魔法使いは純血を好むわ」


「まって!まって!まって!待ってください!」


ダダは両手を胸の前で振って困惑したように目を白黒させた


「ん?」


「・・ってことは、ルルーシカさんは僕のお母さん?!」


沈黙。



今度はルルーシカが口をぽかんとあけた


「ぷっ」


「えぇ?!」


ルルーシカは手で口を押さえ必死に笑いをこらえた。

少し間、笑いを噛み殺して落ち着くと、ルルーシカは困惑冷めやらぬ黒い瞳の少年の頭をポンポンと撫でて


「そうか、そういうことになるね!」


と笑った。ダダはさぁーっと血が引いていき、顔が真っ青になる



じゃあ僕は、お母さんの下着を凝視してたってこと・・・?

お母さん・・お母さんってお母さんてことはお母さんだよね?

母親、親、親族呼称のひとつママ、家族。えーっと。本では主人公の幼い頃に優しく包み込むような愛を・・・・(あれ?・・・)いや、待て、他にも寝付けない子供に寄り添って寝かせたり・・(寝かせつけられたこと・・ある?!あ、あれ・・?僕が拾われて間もない頃は、たしかに、ご飯食べさせてもらって、お風呂で体洗ってくれて、僕の知らないことを沢山教えてくれ・・て、太陽のような微笑みでいつでも優しく微笑んでいる・・・そんな女性・・)


・・そうだ、彼女は僕にちゃんと母親してたじゃないか!!そうか、これが・・母親!


そんな尊い母親なるものの服の下に僕は頭をいっぱいにし、さらには凝視してしまっていた?!



「あ、でも私貴方を産んでないわよ?」



「・・・ぅえっ?」



「私はあなたを身籠ったこともないし、出産なんて経験したこともないよ」


「え、じゃあ?」


はてなの羅列が頭にの上で踊り、目をぐるぐると回していたダダにルルーシカは綺麗な整った顔で微笑んだ


「だから、私は育ての親ってところだね」


ダダはその眩しい笑顔目をチカチカさせる。


「あぁ。なるほど、・・・ってそうじゃないですよ!ルルーシカさん!僕は貴女と血が繋がっているんですよね?」



っとルルーシカに迫るように足を踏み込もうとした時だった。


ルルーシカがハッとする顔をし、先ほどの柔らかい表情を一変させくるっと木々が生い茂る方に体を向けた。


「え?」


今まで見たことのないルルーシカのきつい顔に一瞬ダダはびっくりして踏みこもうとした足を止めた。


「・・・私の魔法を解いてる。」


ガサガサっと茂みが揺れ、何かが地面を踏む音が聞こえる。

その音はなんの迷いもなくこちらに向かってくるダダの心臓の音がどんどん大きくなっていく。

ガサッガサッガサッガッ。


そしてそれは現れた。


「「あ。」」



「・・・やっと見つけたわ!板女!!!!」



「ホルスタイン。」  



「に、・・にん・・げん・・・?」



三者三様の表情と言葉が入り乱れる。

少しの間、誰も動かず流れる沈黙の中、まず最初に行動を起こしたのは茂みの中から顔を出した女だった。

その目線は先ほどまで睨みつけていたルルーシカではなくその後ろで、目を大きく見開いた少年を捉えていた。



「・・・なに・・それ。」



柔くうねる茶色の髪の毛が深くかぶったキャラメル色のフードの中で揺れ、燻んだ翡翠色の目が大きく開く、すぐにまなじりをきゅっときつく細めるとぷっくりとした唇がぐっとへの字をつくり、茂みから身体を出した。



「あんた、なに考えてるの?板子」



ルルーシカは動かない。

ダダは茂みから現れたルルーシカ以外の直立二足歩行生物を凝視し続けた。そしてーー



ガッー


「ーえ。」


茶色い髪の女はその豊満な胸の前で両手を包み込まれむんずとつよく握りしめられていた。


「すごい!すごい!すごい!!人だ!!!」


その手をぎゅっと包み込んだ黒髪の少年は茶髪の女に破顔した。


「え、え、ちょ・・」


「・・・・」


いきなりの純粋無垢な好意の奇襲に茶髪の女は思わず一歩後ろに下がりガッシリと包み込まれた両手と愛らしい顔の少年に思わず頬を赤らめた。

その少年の後ろでまるで虫けらを見るような目をしたルルーシカが女に冷ややかな眼差しを送った。


「あ、あの!初めまして!」


ダダはまるで飼い主に頭を撫でまわしてほしいとせっつく子犬のような顔をした。


「なっ・・・・/////?!」

(撫でまわしたい!!!?)




「チッ」

ルルーシカはダダに気づかれないようにすごい険相で舌をうつ。


「ルルーシカさん!人です!ルルーシカさん!!」


少年がルルーシカに振り向くと、彼女はいつもの柔らかい顔でにこりと微笑んでみせた。

そして、すごい早歩きでスススっと歩み寄ると茶髪の女の肩を掴みダダに変わらぬ笑顔送りながら

「この人知り合いなの。ちょっと話してくるね」「ちょっ!まっ・・・」

と言い残し、またすごい速度で茶髪女を連れて森の中に消えていってしまった。



「え・・・、」



初めてのルルーシカ以外の人間に大興奮していたダダ

はもっと沢山話したかったのに、二人を飲み込んでしまった森をぼーと一人眺め。そして、寂しそうに一人肩をすくめた。







ーーーーーーーーーー




「痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいたたたたたたーっ!!!」


少年から遠ざかり彼の姿が見えなくなるとこまで来てからルルーシカは女の肩を離した。


「うっるさいわね。ホルスタイン!」


「誰が牛よ!!!私はホルスよ!!板子!!!この馬鹿力!!」


「あーあー、牛がモーモーモーモー発情期かしら」


「はんっ!言ってな!私、知らなかったわー!あんたが男になってたなんて。早くその髪も切りなー?遠くからあんたが見えた時、男がかつら被ってんのかと思っちゃったじゃない。」


「ほんっと煩いわね、牧場帰りなさいよ!搾乳してその無駄にデカイ脂肪を善良な人々のために使いな!」


キーキーといがみあう二人は小一時間くらいそれを続けた。ゼーゼーと息も絶えだね、ホルスと名乗った女はルルーシカに向き合って先ほどまでの茶番にふんっと鼻を鳴らした。


「で、なにあれ。」


「なにがよ」


「とぼけんじゃないわよ。あんた弟子とったんだって?」


「・・・・・」


右も左も木々や草に覆われひやっとした風が流れ込む。ホルスはキャラメル色ののフードを取り柔らかくふわふわの茶色の髪を片方の耳にかけた。燻んだ翡翠の目を細めて目の前の赤髪赤眼の女を見る。



「とったけど?だからなに?」


ルルーシカはダダに向ける時の顔とはまるで同じものだと思えない冷めきった顔でホルスを見下すように見た。


「あれ、ただのヒューマンじゃない。」


「そうよ、何か問題でも?」


「・・・なに企んでるの?あのあんたがただのヒューマンを弟子に・・?」


「・・私も心変わりはするってことね」


ホルスは目を白黒させるさせた。


「どういうこと・・?『超純血派』のあんたが・・・・?」


「ええ。」


「『プドリス』創設者のあんたが?」


「そう」


「あんた確か、昔手の甲にキスしてきたエルフの御曹子の城を・・」


「あぁ。そーいえば消し炭にしたわね」


「理由は?」


「魔法使いの純血じゃないから」


「魔法使いのユリスが言い寄ってきた時は?」


「世界の反対側まで飛ばしたわ」


「理由は?」


「純血じゃないから」


「じゃあ純血かつ大賢者フラロがお尻を触ってきた時は?」


「不潔だったから」



「ま、まぁ・・それは・・同感だわ。ていうか、あんたの二つ名は『アイアンチャスティ(鉄の純潔)の魔女』よ?!」


「えぇ。あれは光栄だったわ」


「・・・・。わ、け、が・・わからない・・」


『超純血派主義』を掲げ、魔法使いたちの歴史に大きく名を残した純血主義組織『プドリス』の第一人者として全世界にその名前を轟かせたあの、『超純血』の大魔法使い『アイアンチャスティの魔女』が?


先祖代々、伝説的な偉業を成し遂げ続けるという純血を誓う名家アレイスタン家一の天才。ルルーシカ・アレイスタンが、魔法使いですらないヒューマンの男を弟子にとる??


そんなことあってはならない。

そんなこと、アレイスタンの歴史がひっくり返ってしまうほどの事案だ。

ホルスが考えこんでいるとルルーシカは耳元に近づいて甘くて危険な声音で囁いた。


「だから、私の可愛い愛弟子にその乳臭い手で触ったりしないでね。」


ルルーシカは赤赤しい艶やかな髪をなでつけると、まるで挑発的するように下唇を噛んだ。

ホルスは思った。


(自体は思ったよりもずっと深刻なのかもしれない・・)



































評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ