ゾンビの町で生き延びるために
あの日は大きな地震があった。あれからすべてが変わってしまった。
今自宅からは山崩れが起きたのであろう裏山や倒壊したマンション、そして歩く腐乱死体が見える
水道管が破裂したのであろうが、道路が水びたしになっており臭いが流されているのだろう。
現実感が全くない。
だからこうして冷静でいられるのだろう。
あの腐乱死体は・・・
腐乱死体とは言いづらいな、ゾンビと呼ぶことにする。
あの青白い顔をしたゾンビどもはあーうー言いながら歩いているが
中年のおばさんの死体の手にはスーパー帰りなのか、スーパーの袋があり、
中年のおじさんの手には仕事用だと思われる鞄をもっている
どうやら彼らは日常生活を送っているつもりらしい
かといって安全だろうと思い近づくと一斉に襲い掛かってくる。
一度それで痛い目を見た。
それ以来素早く家に帰り籠城している。
現在家の電気もガスの水道もすべて止まっている。
万が一に備えておいた時のための防災用品でなんとかこの2日を過ごしてきた。
甘く見ていたので食料品を備蓄していなかったのが悔やまれるが仕方ない。
しかし家にある食料も食べつくしてしまった。
なにか行動をしなければここで餓死してしまう。
外に出るのは怖いが、死ぬのはもっと怖い。
隠れながら近所のスーパーまで行こう。
走れば5分、歩いて10分ほどの距離にあるため、見つからなければ何とかなるだろう。
仮にほかに生きている人がいなければ保存食は残っているはずだ。
万が一に備えて包丁を持っていくことにした。
周りにはゾンビしか見えない、銃刀法違反で捕まることもないだろう。
仮に捕まればある意味正常な人に出会えたということでもあるしな。
出かけるのは8時ころにすることにした。
あたりが暗く周りを見渡すのが大変だろうが、こちらが見つかりにくいというメリットもある。
仮にゾンビたちが日常生活通り動いているのであればこの住宅街では夜に出歩いている人は少ない。
またスーパーの閉店時間は9時である。
閉店後に無理やりはいってもいいが万が一、警報装置等があれば大きな音がなり
ゾンビが集まってくるかもしれない。
そのためこの時間がいいと判断した。
動きやすいジャージに着替えて玄関のドアからあたりの様子をうかがう。
どうやらこのあたりにはいないようだ。
ひとまず安心した。
駆け込む可能性もあるので家の鍵をかけずに音を立てないように出かける。
歩くたびにじゃぶじゃぶと水をける音がしてしまう。
誰かが近づいてくるのにはすぐ気づくだろうが相当慎重に歩かなければならないだろう。
音を立てないよう10分ほど歩いた。
やっと半分の地点まできた。
ふうっと一息ついてあと半分、頑張ろうと思い気を引き締めた。
さらに1分ほど歩いたとき、どこかで自分以外の足音が聞こえた。
おそらく次の通りを曲がった先だろう。
足音はだんだん遠くなっている
しばらく息をひそめてやり過ごすことにした。
10分ほど隠れた後、再びスーパーに向かうとなんとかたどり着いた。
やはりこんな状況でも営業中らしい。
店内に明かりはついていないが、外に営業中ののぼりが立っている。
恐る恐る店内に入ってみるとなにか腐ったようなにおいがする。
おそらく生鮮食品がもうだめになっているのだろう。
なにしろ電気がつかえないからな。
だったら捨てておけよとも思うが彼らゾンビがそもそも考えて行動しているのかもわからない。
そういう文句を言っても仕方のないことなのだろうと
が、もう誰かに文句を言うことも出来ないだろ
ひとまず乾パンやシーチキンなどの缶詰類、水やお茶をかごに詰めた。
持てるだけ持って帰ろう。一日でも長く生き延びてやるのだ。
2つ分だけ持ち帰るかごを作り終えたので早速帰ることにする。
長居は無用だ。
閉店時間を迎えたのだろうか。
外に出ると営業中ののぼりを撤去しているゾンビがいた。
こちらを見つけると襲い掛かってくる。
恐怖に駆られて必死に逃げた。
幸いゾンビは動きが遅い。なんとか逃げ切れたようだ。
しかし大きな音を出してしまった。
彼らを引き寄せてしまったかもしれない。
このまま家まで急いだほうがいいだろう。
走ると両手にもったかごがガチャガチャとうるさく余計に音を立ててしまった。
周りの音がよく聞こえないが仕方ない。急ぐことを優先した。
家の近くまで行くと家の前に何人かゾンビがいる。
これはやばいととりあえず引き返そうとしたが、後ろにもゾンビが何人かいる
音を立てすぎて集まってしまったようだ。
逃げ場がない。
包丁を振り回し威嚇をする。
「こっち来るな!」
おそらく恐怖心というものがないのであろう。
何も言わずに彼らはだんだんと近づいてくる。
とりあえず前の奴をなんとかしようと思い、手を振り上げるとガツンと後頭部を殴られた。
目が覚めるとベットに寝かされていた
おそらく病院だろう。周りから隠されるようにカーテンがあり
カーテンを開けるとほかにもベットがあるのがわかる。
なぜこんなところにいるんだろう。
考えていると足音が聞こえる。
誰か近づいてくるようだ。
とりあえずカーテンを閉めて様子を見よう。
「目が覚めたんですね」
話しかけられた?
驚きすぎて固まっていると
「道端で倒れていたらしいですよ。気を付けてくださいね」
と続けて言われた。
ついに普通の人間に出会えたらしい。
本当によかった。
しかし俺は彼らに殴られて倒れたはずなんだがどうなっているのだろうか。
「すいません、俺は歩く死体みたいな連中に殴られて倒れたと思うんですが、
どうなっているんですか?
彼らは何なんですか?なぜ私は無事なんですか?」
「落ち着いてください。そもそも死体ってなんのことですか」
そういいながらカーテンを開けられた。
そのナースの格好をした彼女の顔は青白く、手や足は怪我をしていた。
そして彼女の向こうがわにある鏡が視界にはいった。
鏡の見える俺の顔も青白い・・・
俺は生きているのか?それとももうゾンビの仲間なのか?それすらわからない。
ただ、これからはゾンビに襲われることはないのだろう。






