先見
「なんとしても曹操様をお守りするのだ!いいな!」
夏侯惇が縦横無尽に暴れまわっている。敵もここで負けたら終わりなのは分かっているのだ。死にものぐるいで戦っている。
「…!!まずい!」
夏侯惇の攻撃の隙に、敵の槍が伸びてくる。しかし、敵の攻撃が届く前に、夏侯淵が弓を放っていた。
「大丈夫か!姉上!」
「ああ、すまない!ありがとう!」
二人とも既に肩で息をしている。無理もない。もう数時間ずっと戦っている。
他の部隊を見てみると、よく戦っているとは思うが、孫堅軍も公孫瓚軍も疲弊している。
無理もない。むしろ、ここまで戦えているのも奇跡と言っていいくらいだ。
「くそ!狼煙をあげろ!」
勝利は、周りの部隊も一緒に生き残らなければならないことを強く理解していた。このままだと、被害が出ながらも自分達だけは助かるかもしれない。しかし、他の部隊も生き残らなければ、何進あるいは董卓などの部隊が、極端に大きな力を握ってしまうからだ。
勝利は敵陣に切り込みながら、味方を鼓舞した。
「もう少しで、援軍がくる!それまで持ちこたえれば、俺たちの勝ちだ!」
「援軍…?何を言ってるの?」
曹操は首を傾げたが、勝利が嘘をついているとは思えなかった。
ー
「あら、合図ね」
援軍要請の狼煙を見て、董卓は進軍の準備をするよう指示した。
「董卓様!本当に援軍にいくのですか!?何進殿には援軍に向かわなくていいと言われていますし、なにより助けてしまうと董卓様の覇道に影響が出てしまうのでは…?」
董卓の軍師、賈詡が詰め寄る。
「あら。ねえ賈詡、恐らく援軍にいかなくても曹操一派は生き残るでしょう。あの軍師が生きている限り、多分、私たちには天下を取ることなんてできないでしょう?」
賈詡は勝利と面識があるわけではないが、董卓の人を見る目の正確さは知っているため、そのような軍師がいることに少し戸惑った。
「そしてね、私は別に天下が欲しいわけじゃないの。このまま国が衰退していくと、民が困窮するし、他の国からも狙われてしまうわ。きちんと治めてくれるなら、国を纏めるのが誰であってもいいのよ。」
「私は…、董卓様以外がそのような立派な志を持っているとは思えません!ですので、董卓様が天下を取るように頑張ります!」
「ありがとう、賈詡。坊やがいれば、天下は恐らく待ってても手に入るのにね…。賈詡、あなたはここの陣の守りを固めておいて。」
賈詡は、董卓からそこまで言われる勝利に少し嫉妬しながらも、董卓の命令を思い出し、急いで準備に戻っていった。
ー
「援軍が来たぞ!董卓の旗だ!」
夏侯惇が叫ぶ。
「嘘…ほんとにきた。」
董卓は、戦場にかかわらず、いつもの怪しげな気品を漂わせていた。
「董卓、参上!味方が窮地との狼煙を受け、援軍に参りました!」
味方の兵が一気に活気付く。逆に、敵の兵は気後れしている。
「今だ!攻勢に転じろ!」
勝利が叫ぶ。同時に、敵の首を数個飛ばす。
それから、一時間。優勢にも関わらず、勝利は退却の合図を出す。
「退却しろ!自陣に戻れ!」
「ちょっと、どうして?勝利。敵を追い詰めているところじゃない。」
「いいか?曹操。このままいくと、俺たちは勝ってしまう。あくまで何進が与えてきた俺たちの役目は囮だ。このまま敵を倒してしまうと、こちらにも被害が増えるし、何進の被害は減る。ここで俺達が退却して、ここの黄巾兵の何進のところへ行かせた方が賢い。」
ある意味、反乱とも取れない言葉だった。
「あら坊や。卑怯なことを言うわね。でも、賛成。退却しましょう。」
いつの間にか近くにいた董卓が、笑みを浮かべながら言う。公孫瓚軍、孫堅軍を見てみると、戸惑いは見えたが、曹操・董卓軍がいないと戦えないことがわかっているので、退却するみたいだ。
勝利は殿を務め、自陣へ戻った。
曹操軍は、この戦の前までは500いたが、150戦死していた。
(恐らく何進軍も敵の殲滅まではいかないだろう。次の攻撃までに、曹操軍を立て直しておかないと。黄巾軍、もう少し長くもってくれよ…!)
勝利は、黄巾軍がもう少し長生きするのを期待していた。長生きし、官軍と戦いを長くしてくれるほど、何進軍の力を衰退させることができる。
しかし、勝利の期待は、予想してない形で裏切られることとなる。