開花
「くそ、どうなってやがる!さっさと陣へ戻るぞ!」
黄巾軍は、蜘蛛の子を散らすように、這々の体で勝利のいる陣へ戻ってこようとした。
「な、なんだこれは…!」
しかし、戻れない。戻ろうとすると、行く時にはなかった落とし穴があり、他にも様々な罠が仕掛けられていた。
そう、勝利は、波才率いる黄巾軍が出発した後、帰ってこれないように数多の罠を仕掛けていたのだ。
崖の上から、勝利はその光景を見ていた。そして、冒頭。
「作戦はうまくいった!まずは弓を射かけた後、全軍、敵を正面から攻撃せよ!挟み撃ちにするぞ!」
言って、弓を射かけた後、勝利率いる200は崖を降り、なんとか罠を避けたものを次々と殺していった。
黄巾軍は、結局、数だけ多い質の伴っていない軍勢である。最早戦意をなくしており、曹操軍が見えてきたところで、勝敗は決していた。
「くそ、せめてお前だけは殺してやる!」
波才は、斧を振り回しながら、勝利の方へ走っていった。
「危ない!くそ、早く行かないと…」
馬に乗っているといっても、流石に曹操軍も罠を避けながらの追撃である。波才が勝利の下へ行くまでには、曹操軍は到底追いつけなかった。
「まずい…勝利、早く逃げろ!」
夏侯惇は次々と敵を蹴散らし、勝利の下へ向かおうとするが、しかし、届かなかった。
「勝利…!!」
しかし、夏侯惇は目を疑った。波才が勝利の下へ辿り着き、斧を振り下ろそうとした時には、既に波才の腕は切り落とされていた。
「な…」
なんだと!? と、波才が言う余裕もなく、言おうとした時には既に首が跳ねられていた。
「黄巾軍の武器は弱いな。この速度が限界か。」
勝利は、手加減していた。武器が壊れないように。
「敵将、討ち取ったり!この戦争、我らの勝ちだ!勝ち鬨をあげろ!」
隊長を失った黄巾軍は、最早どうすることもできず、次々と降伏していった。
「戻ったぜ、曹操」
曹操軍に戻ると、夏侯惇がすごい剣幕で話しかけてきた。
「お前、武術の腕もあるのか…!?」
「たまたまだ」
「んなわけあるかー!」
「姉者、落ち着け。」
「勝利。お疲れ様。無事で良かったわ。手柄は約束通り、何進に取られてしまったけど、貴方が無事で戻ってきたんだし、悔しい事なんて何一つないわ。」
「勿体無かったな。本当に手柄がいらないのか?」
「要らないわ。そんなもの、これから先いくらでも手に入るもの。そんなものより、私はもっと手に入り辛くて、もっと必要だったものが手に入ったの。わかる?」
勝利は首を傾げる。後ろで、夏侯惇が少し不満げに、夏侯淵は優しく微笑んでいた。
「貴方よ、勝利。手柄なんかより、貴方が手に入った時点で、今回の戦争にはお釣りが来るわ。正式に、私の軍師になりなさい。断るなんて許さないわよ。」
こうして、御堂勝利の、軍師としての生活が始まった。