奇襲
勝利は奇襲を選んだ。徐栄軍に対し、袁紹兵3000を率いて、夜中に攻め込んだ。
しかし、徐栄はこの時勢いに乗っていた。反董卓連合の先方、孫権をすでに破っていたのである。
奇襲についても、警戒していたみたいで、戦は既に軍と軍がまともに戦い合う形になっていた。
「曹操!絶対に俺の側から離れるな!」
状況が違えばロマンチックな言葉だが、飛び交う怒号からもそのような雰囲気はない。
「お兄ちゃん!右翼が押し返されてるよ!」
見てみると、敵の主力が右翼に固まっているみたいで、少しずつ押されていた。跳ね返すためには、勝利が右翼へ行く必要があるが、そうはしなかった。
「よし、左翼から押し込むぞ!」
勝利が取った方法は一見すると悪手だった。被害が大きくなり、そもそも数で劣っている曹操軍はじりじりと削れていくだけのようにみえる。
それから数時間。左翼から押し込んでいる間に、いつの間にか右翼は瓦解し、曹操軍は取り囲まれていた。味方の兵も、袁紹兵であり、曹操を命をかけて守る気はなく、逃げ始めていた。
曹操ら3人は弓を射掛けられ、勝利が弾いてはいるが、押しつぶされるのはみえていた。
「どうしよう、お兄ちゃん!このままじゃ負けちゃう!」
曹洪が焦っている。しかし、予め作戦会議をしていた勝利も曹操も、焦っていなかった。
「勝利、そろそろいいんじゃないかしら。」
「そうだな。頃合いだ。」
曹洪は首を傾げているが、勝利が言う。
「近くに川があるから、そこに飛び込んで逃げるぞ!」
駆け出す。不運にも弓が飛んできて、誰にも当たらなかったが、曹操の馬に刺さってしまった。
流石に焦ったのか、曹操が狼狽する。
「どうしよう、勝利!これじゃ逃げられない!」
「お姉ちゃん!私の馬を使って!」
曹洪が馬を譲る。
「曹洪!あなたはどうするつもりなのよ!?」
「大丈夫だ。」
勝利は曹洪の首根っこを掴むと、乗っている自分の馬に乗せた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
曹操の心には、素直に喜べない気持ちが湧いてきたが、今はそんな場合ではないと思い、心に押し込める。
「曹操!飛び込むぞ!」
飛び込む。冷たい。しかし、馬の足が届く範囲であるので、どうやら逃げれそうだ。
敵が追いかけてくる。逃げていると、次第に川も敵で埋め尽くされてきた。
声がする。
「全軍!弓を放て!敵を打ち崩すのだ!」
「まんまと誘いに引っかかった敵に、鉄槌を下せ!」
夏侯惇と夏侯淵の声だ。どうやら作戦は上手くいったらしい。
そう。作戦は、追ってきて川に入った敵を、夏侯惇・夏侯淵の純曹操軍が、被害の少ないように討ち果たす、というものだった。
袁紹の力も落とさなければならない。3000の兵には申し訳ないが、危機に陥るところから、最初から、勝利の作戦通りだった。
「勝利、よくこんな悪い作戦が思いついたわね…」
「な?上手くいっただろ?」
敗戦の責任を負わされてはたまらないので、敵は討ち果たしておく必要がある。そのため、夏侯惇たちを残してきたのだ。
後ろを振り向くと、もう敵はいなくなっている。かなりの数を討ち果たしたのは間違いないし、他はどうやら逃げたみたいだ。
「勝鬨をあげろ!」
夏侯惇の声がする。曹操たちが合流して、宴会がはじまった。