軍師
「これより、我が軍は敵の陣を急襲する!生き残りたければ殺せ!敵の屍を超えて生路を切り開くのだ!」
味方を鼓舞し、自ら先頭となって敵の陣へと切り込むのは、御堂勝利。黄巾軍討伐隊の一角、曹操軍の軍師である勝利は、果断に采配を振るいながら、こう思うのだった。
(・・・なんで俺がこんな目に合うんだ!!!)
ー数時間前ー
「あれ、ここはどこだ…?」
授業中うとうとしていた勝利は、目を覚ましたら知らない空間にいた。
とりあえず歩き回ってみる勝利だが、とても現代の日本とはいえない様な風景だった。遠くの方から声が聞こえる。
「蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし!」
地響きの様なその声圧に向かっていくと、次第に戦闘の音が聞こえてきた。
「なんだこれ、時代劇か…?」
目の前で行われているのは、頭に黄色の頭巾を被った軍勢と、鍬や鋤でそれに対抗している軍勢との戦闘だった。
「殺せ!奪え!邪魔をする奴は殺し、女は犯せ!」
戦闘の体をなしてはいたが、最早そこで行われていることは、殺戮、圧倒的強者の虐殺であった。
不意に、声をかけられた。
「お前!何をしているんだ!ボサッとしていると殺されるぞ!ここは私たちに任せて、さっさと逃げろ!」
見てみると、緑がかった髪の毛をした女の子が、声をかけてきていた。両脇に二人ついているが、リーダー的存在らしい。どうやら逃げろと言っているみたいだ。
「えっと、、、君は?」
「私は曹操。字は孟徳よ。村が黄巾軍に襲われてると聞いて、駆けてきたの。」
「駆けてきたって、女の子三人で?」
不意に、目の前を斬撃が過ぎた。髪の毛が少し切れたが、腰を抜かしてる暇はなさそうだ。
「馬鹿にしてくれるな。私は夏侯惇、そしてこっちが夏侯淵だ。私たち三人で、あの程度捻り潰してくれよう。」
背の高い方が夏侯惇で、低い方が夏侯淵というらしい。三人とも並々ならない覇気を持っていて、気をぬくと圧倒されてしまいそうになる。
「分かったのなら、そこで大人しくしてなさい。すぐ終わらせてくるから。」
言い終わる頃には姿は消えていた。どうやら戦闘の中に入っていったみたいだ。
「てやあああ!!」
黄色の頭巾を被っている軍勢が、二つに分断されたようになる。どうやら夏侯惇の方が、槍を持って真ん中を突っ切っていってるみたいだ。人の首が次々と飛んでいく。
「姉上!危ない!」
真ん中を猪突猛進に突っ切っていく夏侯惇を補佐しているのが、夏侯淵というらしい。弓矢で上手いことサポートをしながら、夏侯惇が倒し損ねた敵を次々と切っていってる。
二人は息の合い方が尋常ではない。武力だけなら夏侯惇が数段上であろうが、夏侯淵の方は知力もあるみたいで、1番上手く夏侯惇が暴れられるようにサポートしてある。
「我が名は曹操!黄巾軍の討伐に来た!戦えない者は村に戻って、戦える者は武器を手にとって二人で一人を相手にしていきなさい!」
不思議な事に、曹操という女の子がそれを言うと、烏合の集であった村人達が自然と統率を取れて動き出した。
曹操自身も剣で敵を数人倒しているが、腕はそこまででないみたいだ。しかし、敵は二つに分断されてる上、村人達が統率を取り出したのでは、流石に体勢は決した。
「くそ、引け!撤退!」
敵の隊長格が、撤退の指示を出し、黄色の頭巾を被った軍勢は退却しだした。
夏侯惇と夏侯淵は追撃をしていたが、頃合いを見て戻って来た。
村人達にお礼を言われて解散した曹操は、勝利の方を向くと、驚いた顔をして走って来た。
「あなたなにをしているの!?逃げろって言ったでしょう!?」
どうやら逃げなかった勝利を怒っているらしい。
「ああ、すまん。あまりに戦い方が稚拙で、殺されないか心配になってな。」
正直に言っただけなのだが、後から考えると怒らせて当たり前の発言だった。
「何を無礼な!曹操様、こいつ斬り殺しましょう。」
夏侯惇は短気みたいで、すぐ顔を真っ赤にして怒って来た。
「いや、待って。あなた…今の戦い方のまずさがわかったの?」
「分かったというか…あんな猪突猛進に一人が駆け抜けていき、他がサポートするやり方、良い戦い方とは誰も言わないだろう」
夏侯惇の方は怒りがさらに増したみたいだが、夏侯淵と曹操は頷いている。
「それが分かったのね。やるじゃない。あなた、私たちの軍の軍師にならない?武力に傾いていきがちで、軍師が足りないと思っていたの!」
曹操は断られるなんて思っていない感じで、とんでもないことを言って来た。
断ることを考えた勝利であったが、曹操の持つ不思議な魅力に拒否することはできなかった。
「分かった。よろしく」
こうして、御堂勝利の軍師としての新たな生活が始まった