第9話 宿主からの脱出!
うげー、頭が二つに割れそうだぜ。
これで他の五感もリンクさせてたらと思うとぞっとするな。
情報の処理が追いつかね──ってやべ!?
あっぶねー。
この野郎!!!
足止め係の『正拳突き』で敵の胸を穿つ。
〔熟練度上昇 『正拳突き』 11/30→12/30〕
〔熟練度上昇 『傀儡操作』 14/30→15/30〕
俺の熟練度が上がった。
そういえば、戦闘が始まってからいまだ、傀儡のレベルと熟練度は一度も上がっていない。
どうやら、死体の傀儡は熟練度を貰えないようだった。
まぁ、死んでるから当たり前かもだけど。
これで何人目のモザイクだろうか。
倒した青モザイクから顔を上げると、次に出てきたのは緑モザイクだった。
よく見てみれば、モザイク集団の中から、青モザイクはいなくなっていた。
どうやら青モザイクは全滅させたらしい。
まあ、防衛戦をしてる俺の方が有利だよな。
ククク、かかってこいや。
この俺様が、ひとり残らず地獄に送ってやる。
目の前の緑モザイクに対して、ファイティングポーズをとった、その瞬間。
──衝撃。
足止め係の体が、吹き飛んだ。
〔スキル獲得 【打撃耐性(小)】 Lv1〕
半透明の文字が、視界の端にうつる。
一瞬遅れて、リンクしている触覚が伝えてきたのは、腹部を襲った激痛と熱。
痛い、熱い、痛い。
熱い、痛い、熱い。
〔スキル獲得 【痛覚耐性(小)】 Lv1〕
〔スキル獲得 【熱耐性(小)】 Lv1〕
な、なんだか少し楽になった気がする。
くっそ、いてぇ。
なんだよ今の、見えなかったぞ。
そして、足止め係を立ち上がらせようとして──
あ、接続が切れやがった。
ちくしょう、やられちまった。
なんだよあれ、規格外じゃねぇかよ。
……そういえば、青モザイクの種族は雑用だったよな……。
じゃあ、あの緑は……?
くそったれ。
……逃がせるところまで囮を逃がそう。
あの緑達がこの部屋の前を通ったら、俺もこの部屋を出るとしようか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
全力で通路を這い続ける。
持久力?
おま、持久力と命どっちが大事なんだよオイ。
あのモザイク軍団に捕まったら即死だかんな?
まじで、即養分だから。
そういえば、そろそろ囮が捕まる頃だと思う。
あ、ちょうど囮の視界が止まった。
〔SLv上昇 【打撃耐性(小)】 Lv1→2〕
あーあ、接続切れちった。
痛覚耐性が入らなかったのは、痛みを感じることなく即死したってことかな?
まあ俺は、触覚切ってるから痛みとかないんだけどさ。
もう結構な距離這ったんだけど、いまだにモザイクとは遭遇してない。
俺の作戦が成功したからなんだろうけど、ここまで気配がないと逆に怖い。
罠じゃないといいんだけど。
ん?
お?
あれ?
これは?
キタァァァァァア!!!!!
前方に出口と思わしき穴が!
いよっしゃぁ!
シャバだっ、シャバに出られるっ!
ん?
なんだ?
後ろから茶色の巨大な物体が接近中!
うっ、なんて匂いだ。
やはりこれは罠だったのか……。
俺はまんまとここにおびき出されてっ。
くそ!
諦めるな!
出口はすぐそこなんだ!
絶対に、絶対に諦めてたまるか!
俺はっ、俺は──
ぼすっ。
変な音をたてて、俺は茶色の物体に巻き込まれたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは──
目を開ければ、どこまでも澄み切った青空が視界いっぱいに広がっていた。
おぉ、青空……。
俺、何やってたんだっけ……?
って、ナニコレ臭い!
なにこの体中についてる茶色くて、く、さ……。
あまりの激臭に、俺は記憶を……。
……嘘だろ。
嘘だといってよ……!!!
バー◯ィィ!!!!!
そんな、いや、どう考えても……。
茶色くて臭いナニカが出てくる体内からの出口、というか穴。
心当たりしかないんですけど……。
いや、待て。
俺の記憶が正しければ、そんなことよりももっと気にするべきことがあるは、ず。
俺は後ろを振り向き、動きを──止めた。
あまりの巨大さに。
あまりの美しさに。
あまりの神々しさに。
あまりの荒々しさに。
寝ていても尚、俺の心を、魂を、掴んで離さない、その存在感に。
──絶句した。
そこにいたのは、紫紺のウロコに身を包んだ、一匹の巨龍。
時間が止まる。
世界が止まる。
俺は息をすることすら──忘れてしまう。
──っ!!!
俺を世界に引き戻したのは、周りに散らばる排泄物の悪臭。
時間が動き出し、心臓が早鐘を打つ。
俺は今、完全に呑まれてた。
こいつは、やばい。
本能が、理性が、直感が、経験が、警鐘を鳴らす。
気づけば俺は、逃げ出していた。
必死に、わき目もふらず、一心不乱に。
離れる、離れる、離れる。
少しでも遠くへ、一歩でも、遠くへ。
山を駆け下り、渓流を越えて、木々の間を縫うように抜けて。
本能と直感に駆られるままに、俺は全速力で這い続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もう、数時間はたっただろうか。
俺は持久力を切らして、立ち止まっていた。
正確にはあと5、6残っているのだが、もう一歩も動けそうにはなかった。
どうやら、持久力は0にしてはいけないものらしい。
もし0にしたら、気絶するんじゃないだろうか。
とにかく、もうここまで離れたんだ。
どこかで休みたい。
というか、俺もなんでここまで走ってきたんだ。
途中で休んで持久力の回復を待てばよかったのに。
ここまで離れなくても──
その刹那。
俺の背筋に悪寒が走った。
視線。
何者かの視線を感じた俺はすぐさま振り返り──
目が合ってしまった。
合ってしまった気がした。
〔スキル獲得 【恐怖耐性(小)】 Lv1〕
視界の奥、ゴミ粒程の大きさにしか見えなくなっていた、山の上の巨龍と。
〔SLv上昇 【恐怖耐性(小)】 Lv1→2〕
全身が震え始めた。
体中から汗が吹き出る。
一歩たりとも、動けない。
〔SLv上昇 【恐怖耐性(小)】 Lv2→3〕
俺と奴の間の隔絶とした、圧倒的な格差。
それから生まれ出る、恐怖。
〔SLv上昇 【恐怖耐性(小)】 Lv3→4〕
極限にまで高まった集中は、俺の視力の、本来のそれを越えさせる。
龍の表情が、筋肉の脈動が、ウロコの一つ一つが鮮明に見える中、奴はその口を開いた。
「ゴオォォォッ──!!!!!」
奴の口から放たれたのは、咆吼。
それは凄まじい速度でこちらに迫り、隣の山をひとつ、消滅させた。
〔SLv上昇 【恐怖耐性(小)】 Lv4→6〕
〔熟練度上昇 『咆吼』 26/30→30/30〕
〔スキル派生 【下級竜法】 Lv1〕
そして龍は、尚も動けない俺を見据え──片目を閉じた。
〔SLv上昇 【恐怖耐性(小)】 Lv6→10〕
〔スキル派生 【恐怖耐性(中)】 Lv1〕
〔SLv上昇 【恐怖耐性(中)】 Lv1→2〕
──俺は背を向けて逃げ出した。
巨龍さんはウインクしただけです