第6話 レベルアップ!
──秘境。
人の手など届かぬ、凶暴なモンスター達の巣窟であるそこで。
ある山の主である龍は、自分の身体に異常が起きたことを察知し、目を覚ました。
長年培ってきた経験による賜物である。
その長い生涯を戦いに捧げてきた彼にとって、その程度のことは朝飯前であった。
彼は周りの気配を探り、近くに外敵がいないことを確認すると、念のためとでもいうように、周りに衝撃波を放った。
山の下に住んでいるモンスター達がバタバタと死んでいくのを満足げに眺めると、その龍は大きなまぶたをゆっくりと閉じた。
自分の身体異常は、体の内側の何者かによるものだとわかったからである。
彼は一言、ステイタスと念じる。
視界に表示されたそれを確認し、かの龍は予想を確信へと変えた。
何者かが自分の魂に繋いだ細い糸を辿りながらも、彼は思考を止めることはない。
──奴らの知性と本能は調整しておいたはず。
彼にとって、魂の操作は得意分野であった。
万が一にも“寄生”されぬように、虫達の知性と本能は抑えていたはずだった。
それがなぜ、なぜ“寄生”されてしまったのか。
今、彼を満たしているのは好奇心。
異常に対する、好奇心であった。
やがて糸の先の相手に辿り着き、かの龍は通常のそれを圧倒的に超えた技能を行使する。
相手の素性を知り得た彼は目を見開き、口の端をわずかに吊り上げた。
なぜ自分の体内に。
なぜパラセクト種に。
なぜ、なぜ、なぜ。
様々な疑問が次々と浮かんでくる中。
かの龍は決めた。
この貧弱なパラセクトを観察することにしようと。
かの龍は決めた。
この貧弱なパラセクトを生かすことにしようと。
理由など、決まっていた。
異常に対する、好奇心であった。
そして単なる、気まぐれであった。
彼は不適に笑うと、息吹一つで近くの山を吹き飛ばしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おいおいやべーよ。
なにがやばいって『寄生針』やべーよ。
まじやべー。
あの貧弱だった『ステイタス』が二桁三桁まで上がりやがったよ。
もう俺のことは雑魚とは呼べねーべ。
とりあえず『寄生針』使ったらなんかいろいろ上がったし見てみるか。
ーー傀儡操作ーー
・精神汚染をした相手、もしくは死体に“寄生”することで傀儡として操ることが可能。
・傀儡とは五感をリンクさせることが可能。
・熟練度が上がるほど、効果上昇。
外道かな?
でもこれ使えば色々と解決する気がするな。
中々有用そうだ。
えーと、『寄生針』は寄生最大数が5になっただけ。『暗視』は特になにも書いてないね。
ふむふむ、なるほどなぁ。
“寄生”の効果は、相手からステイタスの一部を頂くって認識でいいのかな?
むっちゃ強くね?
これはやばいわ。
ほんと凄い。
最強狙えるでしょ、これ。
神様……ありがとうございます……!
俺が神様に感謝の祈りを捧げた、その時だった。
──轟音。
外から聞こえてきたその音は、破壊の音。
木が薙ぎ倒され、岩が粉々に砕かれ、生物達の命を強奪していく。
俺がそんなイメージをした直後──
〔レベル上昇 『ホワイトパラセクト』 レベル1→36〕
〔スキル獲得 【気功法】 Lv1〕
〔熟練度上昇 『衝撃掌』 1/30→27/30〕
〔SLv上昇 【気功法】 Lv1→5〕
〔技能獲得 『体力回復速度上昇 Ⅰ』〕
〔技能獲得 『持久力回復速度上昇 Ⅰ』〕
半透明の文字が視界に映った。
……オイオイオイ。
俺が神様に祈ったから?
じゃないよなぁ。
さっきの破壊音って、多分、俺の宿主の攻撃だよな。
つまり“寄生”は宿主が手に入れた経験値と熟練度も貰えると。
やべえ。
リアルチートかよおい。
てか宿主何者だよ。
上位モンスターって一発でこんな経験値と熟練度稼げんの?
強すぎだろ。
寄生してるのばれたら即殺じゃん。
死ぬんだけど。
……チャンスなんて待たずに脱出しようかな。
“寄生”がバレたらまじで即死だよね。うん。
いやでもなぁ、飯も与えられるしゴロゴロでき──
遠くで、爆発音が聞こえた気がした。
〔レベル上昇 『ホワイトパラセクト』 レベル36→Max〕
〔スキル獲得 【呼吸法】 Lv1〕
〔熟練度上昇 『咆吼』 1/30→26/30〕
〔SLv上昇 【呼吸法】 Lv1→5〕
〔技能獲得 『水中呼吸』 1/10〕
〔技能獲得 『精神統一』 1/10〕
……早く脱出しよう。