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第52話 魔道修練!

「いいかい、“魔法”というものはね、空間を漂う魔素を操ることでこの世の(ことわり)に介入するものなんだ。そしてこれには、難易度の差による量の大小こそあれ、集中力が必要になる。その集中力の限界が示されているのが『ステイタス』の精神力(マインドポイント)なのさ。……ここまではわかってるね?」


 ハリオンさんの流暢な口調に、俺はゆっくりと頷いた。

 夜の稽古、模擬戦中。

 俺はいつ攻撃が来てもいいように構え、おもむろに此方に近付いてくるハリオンさんを穴が開くほど見つめている。ハリオンさんの動きを何一つ見逃さないためだ。

 

「君が前に無様に気絶した原因、それは精神力(マインド)不足によるものだ。ということは、君があの魔法(・・・・)を使えるようになるには、二つしか方法がない」


 そう言いつつ歩み寄ってくるハリオンさんを、見る。観る。観察る――


 ――踏み込んだ。急加速。


 ハリオンさんが、一気に肉薄してきた。


 繰り出される白い拳。上半身をくの字に曲げ、後ろに倒して躱す。

 体勢が崩れた。隙。

 曲げた上半身を解放。ハリオンさんに頭から突っ込む――笑った。フェイント。

 こっちも体勢を崩して離脱――できない。くる。やば――――


 右の横っ面に強力な衝撃が走り、そのまま2、3メートル吹き飛ばされる。

 俺に躱させた左手で体重を支え、強烈な回し蹴りを放ってきたのだ。


「――単純に精神力(マインド)自体を増やすか、精神力(マインド)の使用効率を上げるかだ」


 ハリオンさんは華麗に体勢を整えると、すっと無駄な動き無く立ち上がった。


 痛ってぇ……。

 ズキズキと側頭部が痛む。

 確かに緊張感は出るけども、痛いものは痛い。


「しかし、精神力(マインド)は一朝一夕で劇的に鍛えられるわけでもない。なら、精神力(マインド)の使用効率を上げることになる」


 俺の体を思いっきり吹き飛ばしたというのに、ハリオンさんは何事もなかったかのように説明を続けている。

 

 俺も痛みを我慢して、体を起こす。

 頭についた砂埃をぶんぶんと振り払った。


「これも方法は二つ。魔素の扱いに巧くなるか、集中力自体の効果を高めるか、だ」


 ああ、うん。

 それについては、わかってる。


《だから、集中力の効果を高めるスキルを、取ろうと、してる》

「そう。魔素を扱う技術の向上は、どこでもできるからね。……なんだ、わかってるんじゃないか。てっきり、あまり身が入ってないから、この模擬戦の趣旨を理解していないんじゃないかと思っていたよ」


 ハリオンさんはそう言って、肩を竦めて見せた。


 いやいや、十分本気でやってるっつーの。


 ……この体になってよかったと思うのは、心の声が間違って漏れる心配が全くないということだ。

 これでもまだ、ハリオンさんの求める水準には達していないらしい。


 俺は顔を顰めた。


《でも、ハリオンさんはいつも、ハリオンさんの部下には、ここまでのもの、求めてない》

「それはそうさ。君と彼等じゃあ、“持っているもの”が違う。でも別に、認めているとか認めていないとか、気に入ってるとか気に入ってないとか、そういうわけじゃない。各々の能力に合わせているだけだ。当然のことだろう」


 苦し紛れに反論してみたものの、ものの見事に論破されてしまった。

 しかもさり気なく俺の故郷をdisってきたよ、この人。それが当然じゃないところもあるんですよ。

 まあでも、ふ、ふーんって感じだわ。

 あっそうですか。

 ふ、ふーん。


「……また凄い顔をしてるね」


 そう言って、ハリオンさんが怪訝な目を向けてきた。


 ふ、ふ、ふふーん。

 ……いや、し、仕方ないじゃん。

 だってさっきの言葉、一応は否定してるけど結局は俺の能力を認めてるってことでしょ。

 そんなの、ふ、ふーん、だよ。

 認めてるのを一応は否定してるところも、ふ、ふーん、だよ。


 ごめん。俺の中でのハリオンさんのキャラがよくわからなくなってきた。

 これは俗に言うツンデレという奴なのでは。

 うーん、よくわからないぞ。

 だが、嬉しいというのは確かではある。


「さっさとその緩み切った顔を元に戻してくれ。あまりの壮絶さにこっちの頭までおかしくなりそうだ」


 ハリオンさんが構え直したのを見て、俺も結論を出すことにした。


 まあ、いいや。

 ハリオンさんはハリオンさんだし。

 わからないことだらけだから、多分いいんだよね。

 完全に分かり合うってのも、いいと思うけど。


 ……おっと、ちょっとロマンチスト入っちゃったかも。

 これは痛い。


 やっぱりさっきのナシ。ちょっとやる気が出たってことで、ここは纏めておこう。

 気を引き締め、ハリオンさんと向かい合う。


 集中だ。集中――集中。


 俺とハリオンさんの視線が、交錯する。

 束の間の静寂。

 思考も、景色も、何もかもが消えた。残るのは、俺とハリオンさんだけ。

 そしてひとたび、動き出せば――


 そうして俺はハリオンさんと、最後の夜をぶつかり合ったのだった。


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