第40話 病魔と古代森人族
どうしよ。
完全に忘れてたんですけど。
やばくね? やばいよね。
絶対怒られるじゃん。
……後ででいっか。
後で謝ろう。うん。
ほら、女王様達に迷惑かけるのよくないし。
俺は無理矢理結論を出した。
《了解、です。早く、診察を済ませましょう》
「ええ、お願いします。デール、案内を」
「はっ」
女王様が手を叩くと、デールさんが玉座の斜め後ろに現れた。
勿論さっきまで、そこには何も無かった筈だ。
少なくとも、俺にはそう見えた。
「余はここで待っているとします」
「はっ。……それではダル君、ついてきてくれ」
「待って! 私も一緒にいきたい」
リアリスの申し出に、デールさんが顔を顰める。
「どうしますか? 陛下」
「……いいでしょう。ただし、決して騒がないようにしてくださいね」
「ありがとうございます。お母様」
女王様がため息をつきながら了承すると、リアリスは立ち上がった。続いてデールさんも立ち上がる。
「それではお母様、いってきます」
「いってらっしゃい、リアリス。……デール、頼みますよ?」
「はっ、我が血に変えても」
リアリスとデールさんは一礼すると、くるりと半回転。女王様に背を向けて歩き始めた。
二人の後ろに、俺もついていく。
ここに来たときに通った物とは違う薔薇のアーチをくぐり抜けると、そこにもひんやりとした廊下が続いていた。
俺と二人の森人族は無言で進んでいく。
どれくらい歩いたのだろうか。
突然、デールさんが声を発した。
「少し、我々の同族を侵している病魔について話しておこう」
本当に唐突だったものだから、少しびっくりしてしまった。
どうやら、病気の話をしてくれるらしい。
「この病には、三つの特徴がある」
デールさんのよく通る声が廊下に響き渡る。
「一つ目、森人族の中でも古代森人族のみしか発症しない」
《古代森人族と、他の森人族の、違い、何です?》
「ああ。それは簡単なことだよ。我等、古代森人族は純血の森人族なんだ。見分ける方法は……そうだな、髪の色が違う」
そう言って、デールさんが歩き続けながらも、自分の白金色の髪を手で梳く。
「二つ目、古代森人族の中でも、若い者達には発症していない。病に魘されている中で最も年齢が低い者でも、69歳だ」
「あ、デール、それじゃあダメだわ。えーとね、発症していない人の中で一番年上なのが、19歳。ここにいる、デールよ」
んんー? どういうことだ。病気の発症が森人族の寿命が長いことと関係してる? てか、19歳と69歳の間に何があったん?
俺が首をかしげていると、リアリスが察してくれたようで、説明を続けてくれた。
「簡単に説明するとね、私達古代森人族は、祖らの魂が下るとき……つまり、25年に一度しか、その、ま、ま、」
「交わることをしない。……私としたことが、うっかりしていたよ。森の外に出たことがなくてな。森の常識が外では通じないことを忘れていた」
口ごもるリアリスの変わりに、デールさんが答えてくれる。
ほうほう。なるほど。
なんか、前世の物語に出てきた森人族っぽいね。
でも、それだとおかしくない?
《リアリス達の、上の世代、森に、いない?》
世代が25年毎ならば、50年の空白は矛盾だ。
出来なかった……とかじゃ無い限り、その世代は森にいないか、あるいは死んでることになる。
俺の問い掛けに、デールさんは苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「……我等の上の世代は、森から出たと聞いている。ややこしいのだが、今からちょうど25年前のことだ。私の生まれる6年前のことになるな」
《どうして、森を、出たの?》
「“厄災”との大きな戦いがあり、それに干渉したらしい。老人達は、あまりそのことを話そうとはしないがな」
デールさんはかぶりを振ると、
「話が逸れてしまったな。三つ目の特徴は、患者の首元に赤い呪印のようなものが浮き出ることだ」
《呪印?》
どこかの中性的な蛇の忍者が施したのだろうか。
「ああ、まるでモンスターに噛みつかれた跡のような模様をしているのだが。患者達はおそらくこれによって病にかけられているのだろう、というのが我々古代森人族の見解だ。……助けになれば良いのだが」
《十二分です、ありがとう》
「いや、礼には及ばんよ」
どうやら古代森人族達は、彼らの病を何者かの手によるものだと推測しているらしい。
その何者が何者かってのは……ま、リアリスを狙っている奴らだろうな。
そんな思考をしていると、突然立ち止まったデールさんに体をぶつけてしまった。
が、デールさんが押されて動くことはなく、俺が軽く仰け反るだけだ。
さすがの能力値……。
《すいません》
「此方こそ、すまないなダル君。さて、到着だ。この扉の先に、“森癒の間”がある」
茶色い、木製の扉だ。
素材の影響か、年季が入っているからか、この宮殿の他の場所と比べると明らかに劣化していた。
「ダル、この中では静かにしてよね」
「ギャルル」
小さい声で肯定を示しておく。
「ほう、ダル君はそのような声で鳴くのか」
「ギャオ?」
「やはり、初対面の時から思っていたが……声も加わると中々愛らしいではないか」
デールさんがボソっと何かを言った。
なんて言ったんだろう。視線を向ける。
「……まあいい。とにかく、中へと入るぞ」
ふっと視線を逸らしたデールさんが、扉の前に立った。
ギシギシと音を立てて、木の扉を開いていく──
さぁて、お仕事と行きますか。
まさかのTSフラグ回収&擬似的BL展開へ──!?(大嘘)




