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第39話 謁見③

 夢と現実の狭間。

 うつらうつらと現実的でない思考をしながらも、現実を現実としてフワフワと認識している、そんな時間。

 

 俺はそんな朝が大好きだ。

 あと少しだなんて思いながら惰眠を貪り続け、背徳感に包まれながらダラダラする。

 引きこもりになったのも、そんな朝が続いたからだ。


 今日こそ俺は、そんな魅惑的かつ堕落的な朝を迎えようと……思っていたのに。


「ダル、起きてるー!?」


 ゴンゴンと部屋の木の扉をノックし、大声でそんなことを言われてしまったら、さすがに俺の意識も覚醒する。

 それも一度じゃない。

 13回だ。13回。

 最初の5回くらいまでは俺も必死に夢に戻ろうとしてたよ。

 んで、10回目くらいには俺も諦めて、布団を被って無視してたんだ。リアリスが帰ったら二度寝しようと思ったから。


 そしたらさ、あいつ何したと思う?


「起きてるんでしょー、入るよー!」


 扉を鍵ごと壊して入ってきたからな。

 頭と腕力おかしい。

 あいつ絶対転生者じゃねーよ。

 やってることが文化人じゃないもん。


 まあつまり、何が言いたいかっていうと。


 1週間、ここまでの道中ずっと気を詰めてたんだぞ!

 たまにはダラダラさせろよ!

 早起きは三文の得とかいうけどなぁ、三文くらいいらねーんだよ! ケチケチしてる人は性格も悪いんですぅ!

 その点俺は性格いいパーフェクトインセクト!


 アハハハハ、今日も元気にやっていくかあ!



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 さて、謁見の間までやってきたでござる。  

 今ここには、芝生の上に俺とリアリス、後は玉座に女王様が座っているだけだ。見えないだけでデールさんもいるかもだけど。

 今日は昨日と時間帯が違うからか、庭は日は影で覆われている。


 と、リアリスが女王様に向かってその場で跪く。


「お母様、ダルを連れてきました」

「リアリス、ご苦労さま」


 女王様が跪いた娘をねぎらった。

 しかしその表情は、昨日と違い日光が差していないからか、少し怖くみえる。


 というか、怒ってる?

 リアリスが何かしたのかね。


「さて……ダルさん、今何時だか、わかりますか?」


 女王様がにっこりと笑みを浮かべて、質問を投げ掛けてくる。

 小学生の頃、よく聞いたことのある台詞だ。


 俺のこっちに来てからの記憶を知ってるんだから、細かい時間がわからないようなモンスターじゃないってことは分かってるんだろうけど……。


 ちなみにこの世界の俺のいるこのあたりでは、太陽は東から西へ落ちていく。

 一日も24時間に分けられていて、日本と変わらない。


《午後2時、くらい、です》


 俺は空の真ん中より少しズレたところからさんさんと照りつけている太陽を見上げながら、そう念じた。

 

「……やはり、時間は理解しているのですね。余が昨日、ここにいつ来るように言ったか、覚えていますか?」


 口の端を吊り上げたまま、女王様が目を細める。


 もしかして、怒りを買ったのは、俺?

 ……なんでだろう。

 一応、変な返答をしないようにしないと。


《朝、です》

「そうですね。余は昨日、今日の朝にあなたをここに呼びつけました。余とリアリスは、ずっと待っていたのですよ?」


 跪いていたリアリスが、俺に冷ややかな視線を向けてきた。


 あれ、リアリスも怒ってるのか。

 でも、なんでだ?


 俺は首を傾げるしかない。


「……困惑しているようですね。まだ理解できないのですか? あなたが呼びつけられたのは朝で、今は午後2時。これはどういうことですか?」


 冷たい怒りを纏った女王様から放たれる何かが、ゴォォォッと俺の鱗を圧してくる。


《わ、わかりま、せん!》


 ギリギリとその場で踏ん張りながら思念を送ると、俺を圧していた何かは消え、女王様が眉をひそめた。


「約束を破ることが、一体どういうことを意味するのかがわからないと?」

《い、いえ。わかっている、つもり、です》


 そう答えると、女王様は益々顔を顰める。


「ダルあなた、命れ……約束を破っておいてそれはないんじゃないの?」

 

 耐えきれなくなった様子で、リアリスが立ち上がってそう言った。


《いや、約束、破ってない》

「はぁ? 約束の時間は朝よ。もう真っ昼間じゃない」

《いやや、午後3時まで、朝》


 俺の思念に、二人の女森人族(エルフ)が目を点に……なんで目を点にしてるんだ?

 前世の頃は午後3時起きが普通だったし。

 起きてると腹減るし面倒くさいんだよね。

 おじさまのナワバリで俺の至高の生活習慣は破壊されちまったけどな。

 

「……スカルは常識を教えなかったのですか……?」


 む。

 おじさまを馬鹿にするのは頂けないな。

 いくら女王様だとしても頂けない。

 それに俺はちゃんと常識がある。

 どっかのお兄様と一緒にするなよ。

 

 ふぅ、やれやれ、と内心でしていると(べ、別に憧れてなんてないんだから!)、何故かリアリスが目を吊り上げた。


「今、私と一緒にするなよ、とか思ったでしょ?」


 いや、誰も思ってねーよ。


「わ、私だって、扉を破壊することがはしたないってことくらいわかるわよ!」


 はしたないっていうか、ゴリラだけどな。


「あれは居眠りしてたダルのせいで! つまり、私はちゃんと常識あるの!」


 常識あったら扉は破壊しないけどな。


「わかった? 私は至って普通なの!」

《あの、女王様、話、始めましょ》

「無視ぃ!?」


 リアリスが吊り上がった目を更に吊り上げた。


《ごめん、冗談。リアリス、暴力、滅多にしない》

「え……?」

《ちゃんと、わかってる》


 実際、旅の最中はゴリラ的行動は取ってなかったしね。

 多分、それだけ俺を起こすのが重要事項だったということだろう。

 おかしいな。

 まだ約束の時間までは結構あるじゃないか。


 俺が見つけてしまった矛盾に頭を悩ませていると、リアリスは狐につままれたような顔をしたあと「……ふぅん、ならいいけど」とか言って再度女王様に跪いてしまった。


 なんだあいつ。

 褒めてあげたのに。


「……まあ、いいでしょう。このことはスカルに連絡するとして……本題に移りましょう」


 女王様がため息をつきながらそう言う。


 おじさまにチクるとは卑怯者め。

 何をチクるかはわからないけど。

 

「あなたは、我ら古代森人族ハイエルフの病状についての調査にきたのですよね?」

《はい》


 ならば、と女王様は話を続ける。


「早速調査をお願いします。他のこと……何故“転生者”であるリアリスの存在が余所にバレたのか。敵の正体は何なのか。などについては後で答えましょう」


 ふむ。

 そういえばそのことも気になってたんだよね。

 予想はついてるっぽいけど。

 まあ、この女王様なら当然か。優秀そうだしね。


「ああ、【念話】についてはこの結界内からでは繋がりませんので。一旦外に出てからでお願いしますね」


 なるほど。

 それも魔力感知とかが使えないのと関係あるのかね。

 できれば【神術】とかいう奴とか結界とかについても知りたいかな。


 それにしても【念話】かぁ。なんだか久しぶりな気がするわ。

 変だね、毎日してるって……いう……。


 ……やべ。


 昨日の定時報告、してねぇや。

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