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第33話 ファンタジーな森

 さっきまで帰りたいと思っていた俺なのだが……もし時間を巻き戻せるのなら、そんなことを思った自分をぶん殴ってやりたい。

 ここ、やばいわ。


 改めて俺はまわりを見渡す。


 そこには、道を行き交う耳の尖った美男美女達に、乱雑ながらも均等に配置された巨木。  

 そして、その木々に取り付けられた扉を開けて、生活空間との出入りをする者達が──いた。


 つまるところここは、ファンタジーである。

 はっきり言って、予想以上、いや、もっと上。

 動く骸骨さんと少しの間一緒に過ごしてた俺が言うのもアレだけど、これは凄いよ。

 

 こんなの、誰に想像できる?


 皆が皆、鮮やかな銅色カッパーの髪と尖った耳を持つエルフ達。

 しかもその全てが、日本にいた頃ではテレビでも見たことのない程に整った顔立ちを持っているときてる。

 確かにファンタジーではよくあるけど……こんなの、ありえない。


 中をくり抜かれ、住居と化している巨大な木々。

 それらが高いところで茂らせている葉が、照りつけている筈の太陽光を遮断し、森の中を影で覆っている。

 まるでキノコ狩りの時の森みたいだ。


 その大木の中途から他のそれと絡み合うようにしてクネクネと伸びている枝は、まるで空中回廊のように木々と木々とを高所で繋げている。勿論、階段のように地上にまで降りてきている枝もあった。


 水色に淡く光る街灯によって森はぼんやりと照らされ、所々に石が見える道は深緑の苔によって覆われている。

 エルフ達の住居である木々に近づいてみれば、樹皮上で重なった皺に、ぐるぐると巻きついたツタ、そしてやはり表面に張り付く苔が、その年期を教えてくれた。


 所々から生えているキノコ。

 耳をすませば聞こえてくる、虫や鳥の綺麗な歌声。

 サアサアと流れる、透き通った細い湧き水のせせらぎ。


 そう、ここはそんなところなのである。


 はっきり言わせて貰おう。 


 ワクワク・ドキドキが止まらない!

 何アレ! 

 何なのアレ!

 どうなってんのアレ!!!


 こんなにも美しい景色を、日本の一般的な高校生であった俺が見たことがある筈もなく、しかもファンタジーな要素も入っているのだ。

 興奮してしまうのも無理がない。

 

 少し前を歩いているリアリスに聞きたいことは山ほどあるのだが……。

 主に木の家の中とか、木の家の作り方とか、木の家の仕組みとか、木の家の住み心地とかだけど。

 今は我慢しなければならないのだ。

 なんかよくわからないけど、森に客人が現れた場合、王がその客人を認めるまでは、その客人と会話をしてはいけないのだとか。

 よくわからないけどね。


 んま、それが終わったら質問攻めにしてやるのさ。

 今から楽しみだなぁ。

 やっぱり最有力候補は、木の精に語り掛けてるとかだよね。

 あー、妄想と考察が捻るなぁ。

 ファンタジー世界最高。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 私の後ろを目を輝かせながら付いてくる白い虫──同じ転生者のダル──を横目で見やりながら、私は誰にも気付かれないように小さくため息をつく。


 どうしよう。

 ママに会う直前になって、急に怖くなってきちゃった。

 ハリオンにも言われちゃったけど、私、ママの言いつけを破っちゃってるんだよね。

 ダルだって連れてきちゃったし……スカルさん達の力を借りたなんて言ったら、怒られちゃうよね。


 私はもう一度、小さくため息をつく。


 ううん、違う。

 私が言い訳してどうするのよって話じゃん。

 だって、私だけ逃げるなんて嫌だったから。

 でも、私が一人戻ったところでどうしようもなかったから。

 だからスカルさん達に、助けを求めたんじゃない。


 それに……。


 それにダルにも、頑張るぞってところ、見せちゃったし。

 うん、頑張らないと。

 それにしても……あいつも、少しくらいは焦れば良いのに。

 結界が発動している限り、ここでは魔力系統の技能は使えないし……。

 あいつだって、それくらいは理解してるはず。

 

 あいつの能力値がどれくらいかは知らないけど、ここのエルフ達に一斉に襲われればたまったもんじゃないはず。

 私やハリオンのように、病気に侵されていない“古代森人族ハイエルフ”だって少なからずいるんだもの。


 だってのにあんなに呑気な顔を晒してるのは……。


 あいつが自分の力を信頼してるのか。

 スカルさんの言葉を信頼してるのか。


 私のことを──信頼してるのか。


 ……あーもう!

 ほんと私って、理由を作りたがる。

 そんな難しいことは考えなくてもいいのに。


 私は胸の前で、右手の人差し指を立てる。


 私はエルフの皆を助けるために、スカルさんに助けを求めてきた。

 それだけ。

 他の理由なんて必要ない。

 きっとママだって、わかってくれるはず。

 私がビビってどうすんのよ。

 

 私が決心を新たにして頷くと、突如前方から声をかけられた。

 

「ひ、姫様!?」


 あら?

 これは確か、“棘の宮”の門番の声。

 名前は……確か、デトルトスだったわね。


 珍しい物(ダル)と私のせいで、あんまりにもあちこちから視線が向けられるものだから、途中で思考に逃げちゃってたけど……。

 まさかこんなに早く着くだなんて。

 ちょっと早歩きしちゃってたかな。


「デトルトス、お母様の所に案内して」

「ひ、姫様は脱出なされたと聞いていたのですが……」 

「いいから、はやく案内して。あと、あのモンスターは客人だから」

「で、ですが……」

「いいから」


 有無を言わさぬ口調でそう言うと、デトルトスは不承不承といった様子で頷いた。


 ダルの方を振り向いてみると、彼は目を瞠って、“棘の宮”に見入っているようだった。

 そんなダルの頭をちょんちょんと触って合図をして、私はデトルトスの案内で歩き始める。


 ほんとうに、呑気だよ。

 ……この謁見が終わったら、森を案内してあげようかな。

 それがいい。

 きっと、喜ぶに違いないし。


 未来の楽しい時間を思い浮かべて、自然と私の顔は綻んだ。

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