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第29話 押しには弱い

「──そこの、ダルさんと同じように、転生者よ」


 森人族エルフの少女の口から告げられたその言葉に、俺は唖然として言葉を失ってしまう。


 転生者、おじさまが聞いたことないって、他にいないんじゃ。でも、それより──何故、彼女は俺が転生者だと知っている?

 

「すいません、ダル殿。あなたが転生者だと教えたのは、私です」

《オレからも、すまねェ》


 俺の疑問に答えたのはおじさま達だった。

 頭を下げるおじさまを見て、俺は考える。


 おじさま達に俺が転生者だと教えたのが不味かった?


 いや待て、俺が転生者だと知られて何の問題がある?

 でも、何があるかわからないから、一応知られないようにはしておきたい。

 うん、これからはそうお願いするって方針で行こう。

 とりあえずは、おじさま達の判断を信じよう。

 

 謝ってくれてるわけだし。


《頭を上げてください。別に僕は大丈夫ですから。ただ、これからはなるべく秘密にしてくださいね? 何があるかわからないので》

《了解だァ》

「わかりました」


 俺の言葉に、顔を上げたおじさまが頷く。

 グルートさんの了承の声も脳裏に響いた。


「それじゃ、話を続けるわね」


 彼女の碧色の瞳に、力が宿る。


「率直で、単純な話よ。貴方達の力を借りたいの」 

「……森人族エルフの森に……何かがあったのですか?」


 リアリスさんの凜とした言葉に、おじさまが眉をひそめた。


「ええ、ここを襲った三体の“半魔人デミ・デモンズ”。彼らもその一端よ」

《つまりどういうことだってばよ?》

「ふふっ、懐かしいわね、それ」


 度重なる疑問に俺がたまらず質問してしまうと、リアリスさんは花開くように微笑んだ。


 綺麗だ。

 勘違いしないでほしいが、僕が人間に興奮しないからって、人間としての美的感覚を失ったわけではないのだ。   

 蟲としての本能に押し潰されそうになることは……あるけど。

 まだ、人としての感覚は失っていない。

 いや、これからも失わないけどね?

 お願いしますよ、マジで。

 

「……二週間くらい前……突然、大量の死霊アンデットが現れて森人族エルフの森を包囲したの」


 彼女が俯きながら語り始める。

 その目には、先程の笑みなど嘘のように、少し陰りがさしていた。


「即時に森の結界を起動させたわ。だって私達は、多種族への干渉はあまりしない主義だから。……そんな中、腐死体ゾンビの使者が手紙を持ってやってきた」

「要求は、なんだったのですか? 森人族エルフの服従? それとも金銭ですか?」

「いいえ、彼等の狙いは──私だったの」  


 おじさまの問いに答えたリアリスさんは、膝の上の拳をギュッと握り締めていた。


 悔しい、のだろうか。それとも責任を感じているのか。

 でも、それって。


《リアリスさんが転生者だっていうことと、何の関係が?》

「……その手紙に書かれていたのは、正確には私じゃなかった」


 はて? 


「『“転生者”をよこせ』って、そう書いてあったのよ」


 それを聞いたおじさまが顔を顰める。


「つまり、転生者を狙っている集団がいて、この前の“半魔人デミ・デモンズ”らも、その一味だと?」

「ええ、多分。私はお母様に逃がされて、命からがらここまで走ってきたのよ。勿論追っ手との戦闘になって、精神力マインドを使い果たして力尽きた」


 彼女は顔を上げて、此方を向いた。


「ダルさんが来てくれなければ、私は既に捕まっていたはず。ありがとう」


 今度は無理矢理笑みを作ったように、見えた。

 さっきの笑みとは、違う。


《……わかんねェな》


 そんな中、グルートさんの声が脳裏に響いた。


《何がですか?》

《まず一つ、何故森人族(エルフ)の姫さんが転生者だとバレたのか。二つ、お前の母親、ルルティーネの奴は何やってんのか。三つ、何故姫さんは一人なのか。四つ、オレ達に簡単に情報をバラす理由。……まァ、そんなところだな》


 ……確かに。

 グルートさん喋らないから人見知りしてんのかなぁと思ってたけど、ちゃんと考えてたんだな。


《ダル、オメェ……今失礼なこと考えただろ》


 バレた。

 てか何でわかるんだよ、化け物かよ。

 ……化け物だったわ。


《……まァいい。……とにかくだ、女王あいつが何とかできねェ相手なんてそうそういねェだろうし、あんの頭の固い森人族エルフ共が姫様に護衛も付けないなんてありえねェ》


 訝しむ声音を隠そうともせず、グルートさんは言葉を続ける。

 

《そこんところ、どうなんだァ?》


 俺とおじさまの視線も、自然とリアリスさんの方に向く。

 彼女はその問いに、伏し目がちに口を開いた。


「……一つ目は、わかっていないわ。それに、お母様達、大半の“古代森人族ハイエルフ”は病にかかっちゃって……戦える状況じゃないのよ……」


 彼女はそこで一旦、言葉を切った。

 数泊おいて、再度言葉を紡ぎ始める。


「……勿論、護衛もいたわ。カルマー、デンター、ジンジャー。彼等は追っ手を足止めして……皆、殺されてしまった」

《……四つ目は?》

「……スカルさんやグルートさんのことは、お母様からよく聞かされていたから。強くて面白くて、良い奴らだって」

《……そうか。……つまんねェこと、聞いちまったな。すまねェ》


 そこまで言って、グルートさんが黙り込んだ。

 沈痛な雰囲気が部屋に満ちる。


「ふむ、事情はわかりました」


 その空気を壊すように声を発したのは、おじさまだった。

 おじさまマジイケオジ。

 

「それで、どうするのですかな、ダル殿」


 ん?

 俺?

 俺に振るの?


「私とグルートは……当然動けません。あのような“半魔人デミ・デモンズ”が来たときに備えなければなりませんのでね」


 あー、なるほど。

 今動けるのが俺だけって話か。

 でも、俺なんかが行ってどうにかなる問題なのかな?

 病気とか、死霊アンデットの大群とか。


「その点は問題ありません。“半魔人デミ・デモンズ”を倒したあなたは既にその領域を越えているでしょうし……」


 おじさまはそこで言葉を切り、ポツリと呟いた。


「……ヌラ様の贔屓もありますしね」


 ん?

 なんて言った?

 ……まあ、いいか。

 後半は上手く聞き取れなかったけど、強さ的には殆ど問題ないってことかな?


「そうです。病気に関しても、一応私は医者としての知識もありますので、何とかなるかと」


 え?

 おじさまも行くの?


「カカカ、私は行きませんよ。グルートに中継して貰うのです」

《あァ? オレかァ?》

「ええ、“寄生”の効果の一つで、一度回線を繋げれば常に念話が可能になっている筈です」

《ハァ? んなわけ……ってマジじゃねェか!》


 俺と【読心術】を使うおじさまの奇妙な会話に目をぱちくりさせていたリアリスさんは、驚愕するグルートさんの大声にびくっと肩を震えさせた。


「で、どうしますか?」


 うーん。

 俺個人としては此処でダベってたいし、わざわざ危険に飛び込みたくはないけど……。

 でも、そんな、残された最後の希望を見るような目で見られちゃうとさ……同じ、転生者ってのもあるし。

 ……はぁ。

 押しに弱いよな、俺。

 前世でも新聞だとか、ゲーム内での武器の取り引きとかも引き受けちゃってたし。


 ただ、一つだけ。


《リアリスさん、ルルティーネ王女陛下は、あなたを逃がしたんですよね? それでも戻るつもりなのですか?》

 

 これだけは、聞いておきたかった。

 彼女の決意のほどを知りたかったから。


「──当たり前よ。これ以上、私のせいで森の皆が死ぬのは……いやだから」


 リアリスさんは、その瞳に確かな意志の光を宿して、間髪入れずそう言った。


 ……よし。

 決まりだな。


《おじさま、グルートさん。僕は──行きます》


 おじさまは少しだけ嬉しそうな顔をして、グルートさんの《へっ》っと誇らしげな声が脳裏に響いて、リアリスさんは救われたように──微笑んだ。

 


 そして二日後、僕達はおじさまのナワバリを出発した。

2章終了です。

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