第26話 対『二頭蛇』③
『衝撃掌』!
酸液の弾に向けた尾針から、気を集中させて『衝撃掌』を放った。
液弾を迎撃する。
〔熟練度上昇 『衝撃掌』 29/30→30/30〕
〔スキル派生 【気功術】 Lv1〕
酸液の弾が俺の『衝撃掌』によって弾け、その殆どが吹き飛んだ。
しかし、『衝撃掌』では吹き飛ばしきれなかった液が、ジュウっと俺の皮を溶かしていく。
んぐっ……。
なんてこと無い。なんてこと無い……!
それよりも、手に入れたスキル……!
体を駆けめぐる痛みを耐えながらも、俺は【気功術】の技能を確認した。
今は一つでも、状況を変える何かが欲しい。
【気功術 Lv1】
・『衝撃波』 1/30
・『気功の真髄』
なんだ、これ。
ーー衝撃波ーー
・波状の衝撃波を放つ。
・大きさは任意で設定可能。
・熟練度上昇によって効果上昇。
ーー気功の真髄ーー
・気功の力によって自動回復速度を超加速する。
・気功の力によって物理系能力値を大幅に強化する。
・使用中は持久力を大量に消費する。
お、おい……チートかよ。
とりあえず、『気功の真髄』発動!
おお、傷が消えてく──って、持久力がどんどん減ってく!
解除!
クソ、今ので五分の一くらいは持久力が無くなっちまった……。
傷は多少癒えたけど……クソ、勿体ねぇ。
残りの持久力だけで、奴の精神力を削りきれるか……?
……いや、やるしかないんだ。
思考を切り上げて二頭蛇の方を見てみれば、奴は土の弾を、自分の前に半円を描くようにして滞空させていた。
「これを喰らっても生き延びられますかねぇ……いや、潰れて死ねッ! 『土岩弾』ッ!」
二頭蛇が、奴のまわりに展開させていた土石の弾を、俺を半円状に囲むようにして一斉に放ってきた。
俺が頼るのは、先程手に入れた技能。
体中からかき集めた気を波状になるようにイメージして、迫り来る土石弾に向けて放つ。
〔熟練度上昇 『衝撃波』 1/30→4/30〕
〔SLv上昇 【気功術】 Lv1→2〕
〔技能獲得 『体力回復速度上昇 Ⅲ』〕
視界にうつった文字に、一瞬だけ気を取られていると。
土石弾は跡形もなく、砕け散っていた。
「んなッ!?」
それどころか、俺の放った『衝撃波』は風を切りながら、勢いを緩めずに二頭蛇にまで肉壁した。
「チィッ!」
二頭蛇が、即座に重なるようにして三つの土壁を隆起させる。
直後、二つ目までの土壁が破裂した。
轟音の後、土埃が舞い上がる。
やがて、モクモクとした土埃が晴れると、半壊した最後の土壁が露わになった。いや、それすらも音をたてて崩れ落ちていった。
「きさ、きさァ、キサマァァァ!!!!!」
奴の、頑丈な鱗に覆われた額からは、赤い血が流れていた。
傷を、あの鱗に、傷を付けられた……?
なんて、なんて威力だよ……。
『衝撃波』のあまりの威力に呆然としていたのも束の間、二頭蛇は再び土の弾を展開していた。
しかも、先程とは比べ物にはならない数を。
「今度こそ……今度こそ、死ねェ!!!」
しかし、まるで土の雨とでも形容できそうな程のその弾幕を前にしても、『衝撃波』の威力を持ってすれば、なんでもないように思えた。
実際、弾幕を破壊することは容易だった。
俺の視界を埋めるほどの土弾を、片っ端から撃墜していくだけだったから。
全方位から迫り来る土弾を、波状にした『衝撃波』で迎撃していく。
渾身の一撃をあっさりと凌がれたのが琴線に触れたのか、二頭蛇が大口を開けて叫び始めた。
「なぜだ……なぜ、まだ生きてやがるんだァァァ!!!」
だけどもう、持久力が──ない。
自然と呼吸が荒くなる。
後、一度だけ。
『衝撃波』を一度だけ撃つことができればいいほうだ。
ここで、決める。
決めるしかない。
「畜生がァ、精神力が無くなっちゃったじゃありませんかァァァ! こうなったら、接近して絞め殺してェ……おや?」
二頭蛇が、肩で息をする俺を見て、口の端を吊り上げた。
「どうやら貴様も、持久力がなくなったようですね……! ギュロロロ、やはり私の勝利は揺るがない……ッ! なにせ私は“魔人種”に片足を突っ込んでいるのだから……!」
ギュロロっと、嘲るような笑い声を零したかと思えば、奴は凄惨な笑みを浮かべる。
「貴様を殺して、糧としてッ! 私も晴れて“魔人種”の仲間入りをするのだ! 礼を言うぞ貴様! 貴様のお陰で私は更に強くなる……!」
二頭蛇が得意気にご高説を垂れる間にも、俺は魔力の糸のイメージを始めた。
黙れよ。
俺は死なないし、エミネルちゃんも死なせない。
変わりにお前が……死ね。
そうさ、俺がお前を殺すんだ。
「ギュロロロロロ、さらばだ屑虫! そして、今度の今度こそ、死……ハ?」
さあ、踊れ。『傀儡操作』発動──
〔熟練度上昇 『傀儡操作』 15/30→20/30〕
〔SLv上昇 【寄生虫】 Lv4→5〕
〔技能獲得 『虫の知らせ』〕
次の瞬間、奴の動きが──止まった。
「……ッ! なんなんだ、なんだ、これは! なんだ貴様ら! 何故私の体に絡み付く、もう死んだんじゃなかったのか!」
二頭蛇の全身の動きを止めるのは、同じく蛇。
ひとまわりどころか、ふたまわり以上も小さい蛇達によって、奴の動きは縛られていた。
ヤベぇ……頭が、パンクしそうだ。
脳髄が溶けてしまいそうなくらい熱い。
……ん?
なんだこれ、鼻血か?
まあ、いいか。
「なんで、動けないんだよ! クソ!」
パニックになってるところ申し訳ないけどさ、これ結構辛いんだわ。
なにせ、八匹もの蛇達を同時に操ってるんだもの。
ってことでさ、さっさと──死んでくれよ。
俺はゆっくりと、傷を負った体を引きずって、二頭蛇の近くにへと這っていく。
「お前、お前か! この屑虫が、屑虫の癖に!」
目の前にまで来ると、奴は目を見開いて喚き始めた。
あぁ、やばい。
本格的にクラクラしてきた。
とりあえず、あいつの口を開かせなきゃ。
蛇達の体を動かして、二頭蛇の口を無理矢理ひらかせる。
「ほ、ほい! はひを、はみをふるふおいだ!」
うるさいなぁ。
早く消えろよ、『衝撃波』。
俺は圧縮していた気を、解放した。
空を圧する感触と、肉を穿つ感触。
その刹那の後。
轟音とともに、二頭蛇の頭部は消失した。
残された肉塊から、血が噴水のように吹き出した。
ズズゥン……と重い音をたてて、奴の死骸が横に倒れる。
視界に半透明の文字が大量に浮かび上がるが……それどころではなかった。
頭の痛みと熱はなぜか少しだけマシになった気がするも、それでもやはり痛いモノは痛い。『傀儡操作』を解除する。
頭痛が消え、頭がスーっと冷めていくのを感じていると、今度は肉体の方の痛覚が俺を襲った。
そんな中でも、頭の方はどんどんどんどん冷えていって。
ああ、やべ。
そうして俺の視界は、暗転した。




